うーたん保育園(神奈川・茅ヶ崎市)【実践園取材レポート|インクルーシブ保育を支える環境・仕組みとは? 】

障がいなどの有無にかかわらず、子どもたちが同じ場でともに育ち合い、学び合うインクルーシブ保育・教育。その推進のために、法整備や環境整備が進められています。すでに長年実践しているふたつの園を訪問して、それぞれの園の保育・教育を支える環境や仕組みを教えてもらいました。

今回は、神奈川県茅ヶ崎市・うーたん保育園の様子をレポートします。

(『新 幼児と保育』(2021年10/11月号)に掲載された記事をお届けしています。)

違いを受け入れて友達の気持ちを想像し尊重しながら過ごす主体的な保育

お話を聞いたのは…

うーたん保育園(神奈川・茅ヶ崎市)
園長 瀬山さと子先生

基本情報


うーたん保育園の医療ケア児クラスことり組。看護師による経管栄養でヨーグルトを補給している様子を、脇で見ているのは幼児クラスの子ども。

園児数86人
0歳児9人
1歳児12人
2歳児15人
3歳児15人
4歳児17人
5歳児18人
職員数
園長1人
主任保育士1人
常勤保育士15人
非常勤保育士7人
栄養士(常勤)1人
調理員6人
事務員1人
看護師2人

※保育中に医療ケアが必要な6人は、医療ケア児クラスに所属。活動によっては該当年齢のクラスにも参加する。
※在園児のうち、障害者手帳および療育手帳を持つ子どもは11人。

自由に行き来できる保育室

2012年に開設されたうーたん保育園では当初から喀痰(かくたん)吸引(*1)や経管栄養(*2)を要する医療ケア児を受け入れてきました。保護者と相談のうえで0歳児の部屋で保育を行っていたのですが、手狭になってきたため昨年医療ケア児クラスことり組を新設、ランチルームの隣の保育室で、6人の子どもが生活しています。障がいがあっても口頭でのコミュニケーションが可能な子どもは該当年齢のクラスに入っています。

うーたん保育園では0歳児クラス、1・2歳児混合クラス、3〜5歳児縦割り異年齢クラスの編成でそれぞれの保育室がありますが、園内のどこで過ごすのかは各人で決めてよいことになっています。ことり組の部屋を含めて、どの保育室へも、廊下やテラスから入ることができます。ただし医療ケア児が発作で苦しそうにしているときは部屋の戸を閉めて落ち着くのを待ちます。感染症がはやっているときにも閉め切っています。

喀痰吸引の管を、入ってきた子どもがいじったりすることはないのかと聞かれますが、「大事なものだから引っぱらないよ」と伝えれば、0歳児でもさわらないようになります。医療ケア児が自宅では小さい妹や弟と問題なく過ごしているのと一緒です。

*1:たんや唾液、鼻汁を機械で吸引すること。 
*2:鼻の穴から、あるいはおなかにあけた穴から管を通して胃や腸に栄養を流し込むこと。

活動する場所も自分で選べる


ブルーベリー摘みの案内と、どの日に行くかを意思表示するボード。

保育園に園庭やのびのびと遊べる屋上もあり、少し歩けば海辺や林があって園外での活動も頻繁に行っています。編集部が訪問した日も、多くの子どもがブルーベリー摘みに出かけていました。医療ケア児クラスの子どももひとり参加、喀痰吸引ができる保育者が同行しました。

園外での活動の間、保育室に残りたいという子どもがいれば、その選択肢も尊重しています。保育の中で全員が一斉に同じ活動をすることはほとんどないので、障がいがある子どもだけが活動から取り残されてしまうようなシーンはありません。

年齢の違う子たちが遊ぶコーナー保育

3〜5歳児の異年齢クラスの部屋では、棚で仕切られたコーナーで子どもたちがそれぞれの遊びに没頭します。保育室に鍵をかけていないので、3歳未満児が入ってきて遊ぶこともあります。

ある日3〜5歳児クラスの床に置かれたブロックを、乳児が口に入れてしまったことがありました。幼児たちが話し合った結果、ブロックは奥まった場所に移し、乳児の手が届きにくいテーブルを置いてブロック遊びのスペースとしました。異なる年齢の子どもが同じ場で過ごすことで、ともに過ごす知恵が生まれます。


3~5歳児の保育室。個人ロッカーやランチのテーブルはホールに置かれているため、端から端まで遊びに使える。


ブロックのコーナー。子どもたちが考えた遊び方のルールを書いてテーブルに貼った。

ランチルームは「フリーアドレス制」

​​
3~5歳児用ランチルームで、座位保持椅子を使って食べる子どももいる。

3〜5歳児のお昼ごはんの時間はおおまかに決まっていて、おなかがすいたら各自がそれぞれランチルームに向かいます。どのテーブルで、どれだけ時間をかけて食べても構いません。上の写真は座位保持椅子を使って食べている3歳のHちゃん。最初は保育者とふたりで食べていたテーブルに、トレーを持った子どもたちが次々にやってきて、食べ始めました。

医療ケア児クラスの子どもたちは、ふだんは保育室で食事をとります。保育室の隣のランチルームに移動し、座位保持椅子を使って食べる姿もときどきあります。


昼食の盛りつけは、気がついた子どもが手伝う。強制はしないが、だれもが年に1回は参加している。

職員間の情報共有

園に見学に来る方々からよく「保育者の声が聞こえないですね」といわれます。保育者が子どもたちを先導したり指示を出したりする場面は多くありません。ただ、廊下やホールで保育者はすれ違いざまにどの子がどこで遊んでいるのかを頻繁に伝え合っていることにも気づくようです。子どもが安全に遊ぶことができるよう、大人の見守りは欠かせません。

職員は毎日午睡の時間に集まって情報共有ミーティングを行っています。医療ケア児クラスも含め、各クラスについては月に1度関連の職員が全員集合して、子どもたち一人ひとりの成長やエピソード、今後のクラス運営などについて情報を共有しています。


7月の医療ケア児クラス全員会議。子どもひとりずつの様子の振り返りや、今後の支援の方向性などを話す時間が持たれた。

ミーティングで友達の思いを代弁する

夏のお楽しみ会の食事メニューを5歳児たちが考えるミーティングの様子が、ドキュメンテーションに残されていました。医療ケア児クラスのSちゃんも参加しています。Sちゃんの代わりに、隣にすわったYちゃんが、「Sちゃんいつもヨーグルト食べてるよね」「食べたいよね」と話しかけ、デザートにはヨーグルトを提案したそうです。

HoiClueユーザーから「インクルーシブ保育」について質問!

HoiClueと『新 幼児と保育』編集部が実施した、インクルーシブ保育についてのアンケート。
(▶【アンケート結果】「インクルーシブ保育」について、どう思う?〜『新 幼児と保育』✕HoiClueアンケート〜

回答者から多く寄せられた質問の中から、3つの質問に、瀬山園長先生が答えてくださいました。

Q1、加配保育士が障がい児を担当しているのですか。それとも専門知識を身につけた方が担当しているのですか?加配保育士は必須でしょうか。

A:
うーたん保育園では、すべての保育者がすべての子どもを見るようにしています。加配保育士だけでなく、常勤・非常勤問わず、誰もが障がい児の担当を担うことが可能です。専門知識は研修を受けて全員で共有しています。障がいの程度や医療ケアの有無にもよりますが、加配保育士がいてくれることで、安心できます。障がいはその子によって違うので、その都度、学んでいくことが大切です。 医療ケア児の受け入れに際しては、看護師がいなかったら今のようにはいかないでしょう。保育園は出勤時間が早く(うーたん保育園は7時開園)、勤務できる看護師の方が限られてきますので、確保は切実な問題です。

Q2、保育士資格以外に何か資格を取得していますか。

A:
医師・看護師のみに認められていた喀痰吸引・経管栄養は、所定の研修を修了すれば一定の条件のもと保育士が行えるようになりました。その資格を園長、主任はじめ保育士5人が取得しています。

Q3、どのように専門知識を勉強していますか。

A:
必要に応じて研修に参加しています。たとえば神奈川県立こども医療センターを利用している子どもたちが多いこともあり、こども医療センターによる研修には職員が交代で参加しています。理学療法士、作業療法士からマッサージの仕方などを教わることもあります。また、園内では看護師を講師として適宜研修を行っています。

文/佐藤暢子 撮影/丸橋ユキ

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