誠美流! 子どもと保育者が成長する「ふりかえりの記録」

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子どもの行動の一つひとつの意味を読み取り、写真と併せて記録した誠美保育園の「ふりかえりの記録」を紹介します。0・1・2歳の子どもたちの日常は、「初めての〇〇」の連続です。子ども自身がまだうまく表現できない 驚きや感動のエピソードを、保育者が代弁し、記録するための取り組みを見てみましょう。

監修・お話

折井誠司先生
大学では物理学を学び、エンジニアを経て保育士に。誠美保育園園長になって14年。

誠美保育園(東京・八王子市)
平成元年に開園した認可保育園。0~3歳児は年齢別に保育、4~5歳児は異年齢で保育を行っています。定員110名(うち0歳児10名、1~5歳児は各20名)。

具体的な行動や遊びの展開、そのプロセスを記録する

保育園における書類は、目的に応じてさまざまなものがあります。大きく、年・月・週案といった事前に準備する計画と、日誌や児童票といった事後に記述されるものに分けられます。

それらは、児童福祉施設としての社会的な説明責任という側面も持つため、客観性や明快性が意識され、「実行予定と結果評価」といった実施証明的な書類に陥りがちな面があるように思います。こういった書式に慣れるほど、またまじめな保育者であるほど、想定どおりの展開ができなかったり、その成果や課題を総合的に提示できていなかったりすることに、職務を果たしていないのではと不安感を抱くようです。

それでも、薄々気づいているはずです。事前に想定した道筋を超えて、半ば偶発的な発見の連続で遊びが発展していることや、本来、個々それぞれである経験を、クラス「全体」として評価できるのかという疑問や、二度と再現されないであろう今日のハプニングを反省することのむなしさに。

保育者自身のための記録

ではそれなら、何のために保育記録があるのでしょうか。誤解をおそれずにいえば、まずそれは保育者自身のためにあるのだと思うのです。自分は子どもたちにどんな経験を期待しているのか(事前書類)、あの経験は子どもたちの中でどんな意味を持ったのか(事後書類)を、それを「書く」という行為を通して、保育者自身の中で明らかにするために、そして、これを重ねることで保育者自身も育つためにあるのだと思うのです。

そのためには、何を書けばよいのでしょうか。そこで今、盛んに取り組まれているのが、子どもたちの行動の経過(プロセス)を具体的に追うという記録の取り方です。事後に作成するものではありますが、成果や課題を総括的に評価する従来の事後書類に対し、時間軸に沿って事実を記録しながら、その意味をふりかえるという点で、「事中」の書類ともいえるのかもしれません。

定型句からはみ出した子どもの姿

評価(総括的な成果や課題などの提示)をしなくていいの? と違和感を覚えるかもしれませんが、総括的に課題が列挙された記録を読むたびに私が感じることは、そこから、その子らしさを思い描けないということです。

課題といっても、実は誰しもが通過する発達課題がほとんどで、それは今のステージを指し示しているだけのように感じます。もちろん、定型発達からの著しい逸脱はつかんでおくべきですが、その子ならでは持ち味の「伸び」こそが、本来の育ちではないでしょうか。

総合的に定型句でまとめられた文言よりも、具体的な行動や遊びのプロセスから読み取られ、意味づけられた心情のほうが、ずっとその成長ぶりを物語っているような気がします。そして、一つひとつの行動の意味を読み取ろうする保育者の行為の中で、その子の全体理解が深まっていくように思います。

0~2歳児こそ記録する意味がある

こういった「ふりかえり(プロセス)の記録」を続けていくと、0〜2歳児のような比較的低年齢児のほうが、育ちの飛躍やドラマチックな場面がたくさん拾われていくことに気づきます。それは、年齢が下がるほど、毎日が初めて経験することばかり、この世界のさまざまな事象との劇的な出会いの連続だからです。

子ども自身がまだうまく表現できない年齢だからこそ、その驚きや感動を、保育者が記録を通して語ることに意味があるのだと思います。やがて、行事や表現活動などを通して、子ども自身がその感動を表現、披露できるようになっていくのですが、日々の保育の成果を語るとき、子どもたち自身が発した言葉に頼り過ぎてはいないかを、もう一度考えてみたいものです。

園内でくり広げられる保育の意味やその価値は、もっともっと保育者自身の言葉で語られる必要があるのではないでしょうか。

さまざまなふりかえり記録( プロセス記録) の形

記録の取り方や表現方法は、子どものどんな経験を記述するのか、誰と何のために共有するのかなど、その目的や使い方に応じてさまざまな形があってよいものと思います。ここで紹介をする誠美保育園の記録は、子どもの個別的な経験(気づきや学ぶ姿など)を保護者と共有することを目的に作成しています。上の図でいうと、エピソード記録をベースに、ラーニングストーリーのような性格も持ち合わせています。

0・1・2歳児の「初めての○○」を記録に残そう

子どもたちそれぞれの「初めて」の体験を記した「ふりかえりの記録」について、折井先生に語っていただいたことを、4つの観点に分けてまとめました。

1.発達段階を知る

発達への理解が保育者の専門性

「ふりかえりの記録」が書かれる背景には、発達的な視点が欠かせません。「発達」というと、「ずりばい」「ハイハイ」「つかまり立ち」といった成長の順序性などを思い浮かべる方も多いかもしれませんが、「段階」を書くのではなく、目の前の子どもの行動の「発達的な意味」を書きます。

子どものつぶやきを集めるといった、子どもという存在の豊かさを再確認する記録もありますが、ここでいう記録は少し目的が異なるものです。保育者の専門性とは、すなわち発達を土台とした子ども理解です。そういった視点を意識しないまま、記録を書いてしまうと、「楽しそうでした」「かわいかったです」で終わる記録になってしまいがちです。

知見と実践が書くことで結びつく

ひと通りの発達については保育の養成校で学んでいますし、本や研修でそれを深めていくこともできますが、保育の真っ最中に、そうした知見とのつながりを、頭の中で一つひとつ確認しながら判断している暇はありません。だからこそ、子どもから少し離れた場で、自分の実践があの理論とどうつながっているのだろうと、考えてみる時間が必要で、その手段としても「ふりかえりの記録」が有効だと考えています。この積み重ねが、日々の瞬間的な、直感的判断の質を上げていくのです。

下ではふたつの具体例をご紹介します。書き手の先生と折井先生が語り合う中で、だんだんとその場面の意味が明確になっていったという記録を選んでいただきました。

実例1:水の形

水の感触を楽しんでいた……
だけじゃない!

保育の中で心を動かされた場面を保育者が写真で切り取り、記録にまとめるわけですが、シャッターを押した時点ではその本質をはっきりと自覚できていないこともあります。

ここに掲げた実例では、ある女児が保育者たちとたらいで水遊びを楽しんだあと、ひとり水道場で、蛇口から落ちる水の形状が変わることや、手に当たる水圧が変化することを自分なりに確かめている姿がありました。

担任の保育者が作成した原案では、水の感触を楽しむことに重点を置いた文章と題名になっていましたが、折井先生との対話を通して、最終版ではこの題名と文章に落ち着いたそうです。水の表面をなでようとするなど、さまざまなアプローチを試みる女児の姿から、「水とは何か」を探求する段階であったことに、保育者が気づいたというわけです。

これは、ものには形があるはずと気づき始めている年齢だからこその不思議さです。担任もそのことを感覚的にわかっていたから、この場面を拾ったはずなのですが、「ふりかえりの記録」を通して、それを明確に自覚することができました。

実例2:「ふー」して

おもちゃを貸してあげる優しさが
育った記録?

小さい子どもにとって、楽しんで遊んでいるおもちゃをお友達に貸すことはほとんどの場合、受け入れがたいことです。大人の多くは、それをわかっていても、心のどこかで「貸して」「いいよ」といったやりとりを期待し、その期待に応えるようになった姿を見て、「成長のあかし」ととらえているように思います。

この記録では、ふだん自分のおもちゃを人に貸せない女児が、おままごとに使っていた自分のおもちゃを、思わず友達に差し出した様子が描かれています。友達とものを共有することで、イメージの世界が広がり、さらに遊びが楽しくなった瞬間の記録になっています。

この年齢の育ちは、まずは「自分がうれしい」がその推進力となります。原案ではものを貸せる「優しさ」のほうによりフォーカスされていましたが、折井先生と担任の先生との意見交換を経て、発達的にはまだ少し手前にあるその兆しをとらえ、このような記録になりました。

2.子どもに問いかける

小さい子には環境設定が「問いかけ」になる

一見、偶然に生まれたかに見える場面も、その背景にはそうした経験が生ずるような環境設定があります。つまり学ぶ姿を拾う(探す)だけでなく、それが生まれるような仕掛けを意識していくことも保育者の専門性です。また、遊びの最中には余計な介入を控える傾向もあるようですが、誠美保育園では、ときにはあえて問いかけることも試みています。

上の年齢の子どもたちへは、言葉で話しかけることも多いのですが、低年齢の子どもには、物を手渡してみたり、環境の設定を変化させてみることも「問いかけ」になります。刺激を与えて「揺さぶる」ことで、子どもが考えていることが見えてくることもあります。

下に示した模式図は、子どもと保育者のかかわりを示しています。このような「(心情を)読む」と「(言葉や環境を)返す」の往復を綴りながら、子どもの思いや考えをあぶり出そうとしているのが「ふりかえりの記録」ともいえます。保育者が子どもの思考をわかろうとする、能動的な行為の記録でもあるのです。

子どもの思考を探るプロセス

3.コメントをもらう

同僚同士でコメントしあえる環境が理想

作成した「ふりかえりの記録」を読んでくれる人、反応を返してくれる人がいると励みになります。誠美保育園では、それぞれの保護者に配布をしてコメントをもらいます。さらにふりかえりの質を上げるという意味では、できれば保育者同士で互いの記録を読み合い、感想や意見交換ができることが理想だと思っています。

残念ながら私たちもまだそういった十分な時間が取れていないのですが、まずは管理職が査読を通してコメントを返したり、職員会議の中などで、参考になる記録を紹介したりするなど、折にふれて話題にするようにしています。

また、ネットワーク上の職員間のグループチャットに話題を投げて、感想を述べ合うこともあります。そのための時間を確保するのは難しくても、チャットであれば時間のあるときに応答すればいいし、チャットという性質上、手短にコメントできるという気安さもあります。

4.写真でメモを取る

メモを書く時間をカメラで省力化

「ふりかえりの記録」を臨場感あふれるものとするために、写真は効果的です。保育中に目にしたこと、耳にしたことを、その場でメモに取ることはなかなか難しいことですが、ポケットに忍ばせたデジタルカメラで、メモがわりに写真を撮っておくことは比較的簡単です。それをあとで見返して、思い出しながら文章を書き起こします。写真を撮ることは、そうしたメリットもあるのです。保育の様子を紹介する保護者向けの掲示にも写真を使うので、保育者がカメラを使わない日はほぼありません。

保育者が創造的に働けるようにしくみで支える

パソコンとカメラを職員1人に1台ずつ貸与

誠美保育園ではデジタルカメラとノートパソコンを、全職員に1台ずつ貸与しています。伝達事項や報告事項、予定や締め切りなどで頭をいっぱいにして、取りこぼしがないようにと気を配っている保育者たちの姿が、以前から気になっていました。そうしたエネルギーを、少しでも「考える」ことに振り向けていくことはできないかと考えながら、ICT(情報通信技術)化を進めました。

パソコンを持つのは、秘書がつくのに似ています。覚えたり、思い出したり、伝えたりという雑務はできるだけ頭から追い出して、空けた余白で、記録を通して保育内容を考察したり、保育計画を練り上げるといった、保育の質を上げることに頭を使ってほしかったのです。

新しい視点や気づきは、常に対話を通して生まれるものだと考えているのですが、職員が集まれる時間は限られています。実はそこにもICTは有効です。上で職員間のグループチャットについてふれたように、伝達事項だけでなく、職員間の対話の手段としてもICTを活用しています。どの園にも1台はあるパソコンが、清書のためのワープロになってしまっているとしたらもったいない。

ICTに苦手意識を持つ人も少なくないと思いますが、業務省力のためにではなく、保育の質を上げるため、対話の機会を増やすため、画像を含めた表現の幅を広げるため、ととらえると、パソコンとの向き合い方も変わってくるのではないでしょうか。

「ふりかえりの記録」を監査の資料に転用

「ふりかえりの記録」を書くことで、確実に自分たち自身が育っていると感じています。とはいえ、通常書類に単純に追加されるのでは、負担を感じるかもしれません。

誠美保育園では、この「ふりかえりの記録」を、公的に求められる必要書類に置き換えていきながら、書類作成の負担を減らす取り組みも同時に行っています。本来、書類は塩漬けにされるのではなく、生かされてこそ意味があり、それが書くことへのモチベーションにつながります。

自分たちにとって意味のある書類と実感できるものであるならば、公的に必要とされる書類のどれに相当するのかは、自ずと説明ができていくようにも思います。そういった書類の位置づけについて、積極的にリーダーシップをとっていくことも管理職の役目だと考えています。

「ふりかえりの記録」を書いてみよう

「ふりかえりの記録」は、4つの要素で構成されています。一つひとつ、確認していきましょう。

「ふりかえりの記録」作りは子どもを読み解くトレーニング

私たちは、記録の質を高めながら、さらに効果的な記録のあり方を考えていきたいと思っています。大事なことは、常にいい記録が取られていくことなのではなくて、それは、保育者も見ていないそこかしこで、子どもたちにとって意味ある経験がたくさん生まれていくことです。

記録を取るというのは、子どもの行為の意味を読み取るトレーニングのようなもので、それを重ねることで、子ども理解の深まりや返しの質が上がり、結果的に意味深い学びの場面が生まれる確率が高まるものと考えています。場面との出会いは半ば時の運でもあります。いい場面を拾わねばと気負わずに、これもまた、少しずつその確率が上がっていけばいいものだと思います。

構成/佐藤暢子 写真提供/誠美保育園

『新 幼児と保育』増刊『0・1・2歳児の保育』2018夏より

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