「侵入させない」が肝心!子どもを守る防犯対策10か条
犯罪から園を守り、子どもたちを守るための鉄則は一にも二にも「不審者を園に入らせないこと」。いますぐ確認・実行できる10 の「防犯対策」をまとめました。
監修・お話
清永奈穂さん
日本女子大学学術研究員、博士(教育学)。NPO法人体験型安全教育支援機構代表理事。株式会社ステップ研究所代表。犯罪、いじめ、災害などから命を守るための研究に取り組むかたわら、大学等の研究員、政府・自治体等の委員会委員なども務める。2012年に、ステップ研究所「こどもの安全教育グループACE」を母体にNPO法人体験型安全教育支援機構を設立。各地の自治体、幼稚園、保育所、小学校などで独自の体験型安全教育を行っている。著書に『犯罪から園を守る・子どもを守る 今すぐできる 園の防犯ガイドブック』(メイト)など。
目次
最も警戒すべきは「侵入」。「入らせない!」を徹底する
幼稚園や保育園、こども園などをねらう犯罪から子どもたちを守るために、最も警戒すべきなのが不審者による園への「侵入」です。特に子どもをねらった侵入は、絶対に防がなくてはいけません。
近隣トラブルや親権をめぐっての連れ去り目的など、その園や職員、特定の子どもに対して強い動機がある場合をのぞき、侵入事件のターゲットになってしまう園には、ある傾向があります。実際に侵入された園や学校を調べてみると、園の顔である正面入り口付近が汚れていたり、すさんだ印象であるケースがじつに多いのです。
園の周辺に「犬のおしっこご遠慮ください」という張り紙があったり、ゴミが置かれていたり、自転車が乗り捨てられていたり。それに対して園の管理、配慮が行き届いていなければ、「人手のなさ」「余裕のなさ」を見抜かれます。
さらにいえば、このような状態は、施設が地域に大事にされていないということも意味しています。ゴミを捨てても、うろうろしていても、だれにも見とがめられなければ犯罪もしやすくなります。侵入を未然に防ぐためには、園の「たたずまい」を整えると同時に、地域との良好な関係づくりが不可欠ともいえるでしょう。
子どもが巻き込まれる事件の前には、必ず「前兆」があるものです。それをキャッチできていれば未然に防げたであろう犯罪は少なくありません。調査では次のような法則がわかっています。これらは同一人物、同一犯に限りません。
- 近くを見知らぬ人(不審者)がうろうろしていた。
- 警察や自治体が発信する犯罪・不審者情報が届いた。
1と2が、園のある地域(小学校区)内で半年間に6回あれば「ちょっと変だな」と思いましょう。1か月に3回に増えたら要注意。1週間に2回になれば要警戒レベルです。警察にパトロールを強化してもらうなど緊急な対策が必要です。
警察との連携を日ごろから確認しておく、警備会社の警備システムを活用するなどの対策以外に、ここでは「侵入」を防ぐために今すぐ実行できる防犯対策をまとめました。
「自分の園は本当に大丈夫か」
まずは、職員全員で防犯に関心を持ち、話し合いの時間を持つことが大切。「子どもたちを絶対に守る」という意識を全員で高めることこそ、防犯の第一歩です。
防犯チェック1
子どもの姿が外から見えないようにする
「 かわいかったから」というだけの理由で、子どもを連れ去ったり、連れ回したりする事件は少なくありません。保育施設だということが明らかでも、子どもの姿が見えるのと見えないのとでは、リスクは大きく違います。できるだけ「子どもがいる」ということを前面に出さないことが大切。
近隣との交流を遮断してはいけませんが、できるだけ外から園内が見えにくいように、塀や生け垣などで囲いましょう。ビルや集合住宅内などにある園の場合も、出入り口や窓は要注意。すりガラスにするなどして、子どもの様子が見えないように工夫をします。
防犯チェック2
敷地の四隅、塀の継ぎ目。園の周囲の死角にも注意
雨どい、エアコンの室外機、水道の配管などは、敷地の四隅に設置されることが多いもの。侵入者は手足をかけやすいそういう場所を目ざとく見つけます。また、駐車場の車、電柱、街路樹、ブロック塀などが園の周囲に接近していると、これらを足がかりにして、園の屋根や2階から侵入される可能性があります。この場合は2階の窓の近くに防犯カメラを設置する方法が有効。ダミーのカメラでも効果はあります。
防犯チェック3
横手、裏手にすきあり! 足場になるものは撤去を
戸建ての園の場合、正面はしっかりガードされているのに、横手や裏に回るとすきだらけ、ということがあります。犯罪者というのは正面から堂々と入ってくることはあまりありません。横手と裏手を入念に下見して、侵入するすきをねらっています。塀で囲われているからといって安心は禁物。塀の近くに足
場になるようなものや段差がないかを確認しましょう。塀の外の足場は侵入をしやすくさせますし、内側の足場は、侵入者を逃げやすくさせてしまいます。
横手や裏手にある小窓も注意が必要です。人間は、肩から頭の半分ほどのすき間があれば、出入りができてしまうのです。どんなに小さな窓でも侵入口になり得ると考えて、閉め忘れのないようにしましょう。
防犯チェック4
防犯ポスターは強い威嚇効果をねらう
「つかまるかもしれない」と思えば、無理に侵入しようとは思わないもの。防犯ポスターは少なからず効果があります。この場合、「戸締まり用心」といった受け身的なものよりも、「不審者はただちに通報します!」「犯罪は絶対に許さない!」など、強い威嚇効果のある文例にすることがポイント。
園のある学区内で犯罪・不審者情報があった場合は、特に強めの演出をしてください。ただし、破れたり、色あせたり、はがれかけているポスターは逆効果。管理が行き届いていないことを見抜かれますから要注意です。
防犯チェック5
防備が手薄な箇所は「釣り糸センサー」のトラップ
侵入者が嫌うのは、「音」「光」「人の目」。横手や裏手のすき間や小窓、鍵をかけにくい場所には、防犯ブザーと釣り糸を使った「釣り糸センサー」の設置をおすすめします。
防犯ブザーの本体と抜きピンに、それぞれ釣り糸(テグス)を結びつけ(抜きピンのほうは長めのテグス)、防備が手薄で心配な箇所に、たるまないようにピンと張ります。通り抜けようとすると釣り糸に引っかかり、防犯ブザーが鳴り響くしかけです。雨よけのビニール袋をかぶせておけば、屋外にも設置できます。
防犯チェック6
各部屋にひとつ防犯ブザーを吊るしておく
不審者が入ってきたときの警報装置がない場合も、防犯ブザーを活用しましょう。壁の子どもの手の届かない位置に、抜きピンのほうを上にしてぶら下げておき、何者かに侵入されたときは本体をつかんで引き抜き、音を鳴らしたまま、窓の外に放り投げて危険を知らせます。
大事なことは、日ごろから「この音が鳴ったら駆けつけてください」と近隣にお願いをしておくことです。そして、そういう話をする機会を作ることも、じつはとても有意義。近所との関係性を深めておくことは、防犯において最も重要なポイントなのです。
防犯チェック7
死角になる場所にはミラーが「人の目」の代わりになる
犯罪者は「人の目」を嫌いますから、防犯カメラや防犯ミラーの設置は有効。とはいえ高価ですから何台も設置するのは簡単ではありません。死角になる場所が多くてすべてに設置しきれないという場合は、ポリカーボネート樹脂製のミラーシートを活用しましょう。裏が粘着面になっているものなら壁面に貼ることができ、曲げて使うことも可能です。これを職員の目が届かない場所に貼っておきます。
ハサミやカッターで切ることができて割れにくいので、たとえば保育室の入り口の反対側の壁や廊下の角などに、装飾のひとつとして貼っておくのも手。映り込みによって視野が広がり、背後の異変にいち早く気づくことができます。
どこが死角になりやすいか、侵入されるとしたらどこか。こういう防犯グッズを介し、危機管理についてみんなで話し合う機会を持つことが何より大切です。「職員全員で子どもたちを守る」という意識を高めておきたいものです。
防犯チェック8
「音」と「光」で侵入者のやる気をそぐ
特に空き巣ねらいは、音を出さないように侵入してきます。足音、窓を開ける音、ガラスを割ったり、引き出しを開閉する音にも異常なまでに気を使います。それを逆手にとって、音が出るように工夫をしましょう。建物の周囲に砂利を敷くほか、横手や裏手のすき間には空き缶や空き瓶を並べておくのも手。同様に、突然光る明かりも侵入者を嫌がらせます。センサーライトの設置をおすすめします。
防犯チェック9
あいさつで先制パンチ。日ごろの声かけが肝心
じっと見られたり声をかけられたりすると、やましいことがあれば引き揚げたくなるもの。園に近づく人がいたら、「こんにちは」「何かご用ですか?」と、必ず声をかけるようにしましょう。近隣の住民とも日ごろからあいさつを交わしあっておけば、自然に声かけができるようになるはずです。
もしも、園の敷地内や園舎に見知らぬ人が入ってきた場合は、要警戒。まずは声をかけますが、このときは必ず職員2名で対応するようにします。相手はたいていひとりですから、二重の防備で守備を固めましょう。
防犯チェック10
ご近所づきあいがいざというときの強い味方に
近隣の交流が少なく、ウロウロと下見をしていてもだれにも見とがめられないような地域は、犯罪者にとっては好都合です。逆に、住民同士との結束が強そうな地域は、最も敬遠したい場所でしょう。
「 子どもたちを守る」といっても、園だけでは限界があります。保護者はもちろん、近隣の家や施設の人、警察官など、地域にいる人たちの力は欠かせません。たくさんの人に、園とその周辺に関心を持ってもらい、「見守りの目」となってもらうためにも、地域との交流を深めておきましょう。「あやしい人がいたよ」と報告してもらうだけでも、防犯には大きな一手となります。
もしも侵入されたら!?
いざというときの心得を確認
「不審者が園に入ってきたらどうするか」。その際の危機管理マニュアルは、各園で作成していると思います。重要なのは、それを園長や主任だけでなく全員で共有・確認しておくこと。だれがなにをすべきか、綿密に計画を立て、くり返しシミュレーションしておきましょう。
近くの警察に頼んで、不審者対応訓練を受けておくこともポイント。避難経路など、具体的なアドバイスもしてもらえます。ここではもしものときに最低限行ってほしいことをまとめています。日ごろの訓練の参考にしてください。
応戦
□ 必ず複数人で対抗する。
□ 保育者は子どもたちと不審者の間に入る。
□ 手当たりしだい、ものを投げつける。
□ 大声で叫ぶ。
【対抗】
できるだけ距離をとる、とにかくものを投げつける
侵入者にばったり出くわしてしまったら、とっさに一歩引く、ということをくり返し練習しておきましょう。大人の腕2本分の距離があれば、腕をつかまれる危険が大きく減ります。
侵入者とわかったら、とにかく手当たりしだいにものを投げつけます。できれば複数人で、顔または足元をめがけてイス、子どものおもちゃ、なんでもいいので投げつけましょう。小さなものでも、相手の動きを止めるには効果があります。
「 サスマタ」は多くの園にありますが、使い方に慣れていないと、逆に奪われて凶器となる場合も。使う場合は、十分に訓練をしておく必要があります。
もしも腕をつかまれてしまったら、腕をがむしゃらに横にブンブンと振って、つかんでいる相手の指と指の継ぎ目から抜きます。大声で「助けてー!」と叫ぶことは、身を守るための最も基本的な安全基礎体力。あきらめずに、大声を出す、かみつくなど抵抗してください。
緊急電話
□ 少なくともひとりは110 番通報する。
□ 警察到着まで平均「7分」。とにかく「7分」をがんばる。
□ 園の外にも防犯ブザーで危険を知らせる。
【110番】
110番をしたら次の3つ。
「○○市○○町」「○○園」「助けて! 早く! 急いで!」
警察への通報は
①園の住所(簡単でよい)
②園の名称
③「助けて! 早く! 急いで!」
を告げれば通じます。通報はできれば2人で。可能であれば、警察だけでなく、消防(救急車)や園周囲の家・人にも助けを求めます。
110 番通報をして警察が到着するのは、全国平均で7分。その7分をがんばり、時間稼ぎをしてください。非常時の7分間は、とてつもなく長く感じられるもの。いざというときを想定し、7分の目安を訓練で経験しておくといいでしょう。
避難
【園庭や園の外周、近くにいるとき】
□ ①子どもを抱くか自分で走らせて、園舎、または避難所の中に避難させる。
□ ②子どもが駆け込んだのを見て、園舎の扉を閉める。保育者は扉のすぐ内側に立つ。
【園の中にいるとき】
□ ①今いる部屋まで侵入されていない場合は、基本的にその場を動かず、保育室の扉をしっかりと閉めて子どもと一緒に待機する。
□ ②時間的余裕があれば、遠く離れた部屋や避難所へ移動する。
【避難所】
不審者が侵入してきたときに備え、子どもたちをかくまえる避難所(アジール)を、園内に設置しましょう。有事のときにはそこに駆け込む、ということを職員全員で共有しておきます。不審者が侵入してきたら、園の外にいるときは園舎に、園内にいるときは避難所に子どもたちを避難させます。
子どもたちが全員避難したのを確認し、保育者は園舎・避難所の扉を閉めバリケードをして、扉の内側に待機します。
避難所の7つの条件
- 内側から鍵がかかる。
- 部屋の中に、バリケードに使える机や箱などがある。
- スマートフォンなどで外部と常に連絡ができるようになっている。
- 武器として投げられるものがある(おもちゃでもコップでもなんでも)。
- 軽い外傷を手当てできる救急用品、薬剤がある。
- 物置として使っていない。
- 窓ガラスを強化してある。
不審者、侵入者は「見知らぬ人」とは限りません
意識しておきたいのは、危険な侵入者は必ずしも「見知らぬ人」とは限らないということです。離婚調停中の親が自分の子どもを連れ去ろうとしたり、子どもと引き離された親が逆恨みで園を荒らしに来るということもあります。いつもは母親が迎えにくるのに父親が来たり、祖父母が来たり。たとえよく知った人物だとしても、予定にないことが起こったときは、必ず「いつもの保護者」に確認をとりましょう。
「少しお待ちくださいね」とワンクッションおくことがポイントです。それに対し、「早く」「急いでいます」と急かすようならなおさら不審。保護者に確認がとれなかったり、強引に入ってこようとしたら迷わず110 番通報を。たとえ誤解だったとしても理解はしてもらえるはずです。
「 やさしそうな人」「女の人」というフィルターでもガードがゆるむ傾向があります。要注意!
ふだんのふれあい遊びで育てる
子どもたちの安全基礎体力
危ないか、そうでないかの状況を見分けること、危ない目に遭いそうになったら走って逃げること、「助けて!」と叫ぶこと……。安全の基本は、自分で自分を守る力です。大人が子どもを必ず守るという一方で、子ども自身も、その「安全基礎体力」を徐々に身につけていかなければなりません。
安全基礎体力作りに大切なことは、「悪い人はこんな人」と教えることではありません。泣くと、先生やお母さんが応えてくれる、「助けて」というと必ず自分を助けてくれる大人がいる、そのことをわかっていることがじつはとても大事。「すごく大切にされている」と感じることができないと、子どもは自分を大事に思えなくなり、成長しても自分を守ることができなくなってしまいます。
自分たちを見守り、育て、愛してくれる大人たちとの心の絆を深めることから、安全教育は始まります。0〜2歳児は、ふだんの遊びを通して、その基礎を育てていきましょう。大好きな大人とふれあうことで、安心できる人の手の温かさやさわり方、心地よいという感覚を感覚的に覚えるということもあります。守ってくれる人と、強引に連れ去ろうとする人との違いを、生理的な感覚として気づくようになっていくだろうと思います。
「飛び込む力」
最も愛情を注いでくれる大人の胸に飛び込んでいく遊びは、助けを求める力、飛び込む力になります。生活の中でくり返し遊びましょう。呼ばれたところに向かって走ることができるようになると、いざというときも安全な場所に誘導しやすくなります。
「見分ける力」
顔を隠して「ばあ」とやる「いないいないばあ」は、危ないことを察知したり、見分ける力を育みます。おもちゃやぬいぐるみなどをタオルで覆ったり、後ろ手に隠して「ばあ」とやるのも楽しいでしょう。子どもは対象物を目でとらえる喜びを体感できます。
「見る力」「聞く力」
想像力や感性を豊かに育む絵本の読み聞かせ。対象に集中してしっかり見る力、聞く力は、危ないことを見分ける力にもつながっていきます。
文/木村里恵子
イラスト/ホリナルミ
『新 幼児と保育』増刊『0・1・2歳児の保育』2019夏より