かかわり方のアイデア《前編》【臨床心理士に聞く 社会性の発達を応援するかかわり方 #2】

児童発達支援の現場には、保育に取り入れられるヒントがたくさんあります。
『新 幼児と保育』の編集部が、株式会社スペクトラムライフの児童発達支援「早期療育すれい」で行われている療育を見学し、代表で臨床心理士の桑野恵介先生にお話をうかがいました。
シリーズ第2回では、「Aくん」を事例に社会性の発達を応援するかかわり方のアイデアを5つ紹介します。

(この記事は、『新 幼児と保育』の増刊『0・1・2歳児の保育』2021夏 に掲載されたものを元に再構成しました)

お話

桑野恵介先生
株式会社スペクトラムライフ代表。臨床心理士、ESDM 認定セラピスト。埼玉県の入間市児童発達支援センターうぃずの受託事業者。2019年埼玉県立上尾特別支援学校特別非常勤講師、東京大学高度医療人材養成プログラム「職域・地域架橋型・価値に基づく支援者育成」講師。

かかわり方の実例

Aくん(1歳10か月)
声かけにあまり反応しない、保護者と視線を合わせることが少ないなどの気がかりから、1歳8か月から療育をスタートしました。

Aくんの目標

1、視線を合わせられるようになる
2、呼びかけに反応するようになる
3、欲しいものを指さしで伝えられるようになる

目標を意識したかかわりは、Aくんが「楽しく遊ぶ」ことが基本。目標の達成を目指して「教える」のではなく、Aくんの自発的な行動や興味に合わせて柔軟に対応していくことが大切です。

かかわり方のアイデア1 位置取りは子どもの真正面に

一緒に遊ぶとき、保育者はできるだけ子どもの正面にいるようにします。子どもの視野に入りやすいので存在を意識しやすく、顔を上げたときに視線が合う機会も増えます。

かかわり方のアイデア2 子どもと同じ行動をとる

子どもがひとり遊びをしているときは、近くで同じことをしてみます。まねをされていることに気づくと、「こうしたら、先生はどうするかな?」などと保育者に興味を覚えます。

かかわり方のアイデア3 興味を示すものを保育者の顔の近くへ

子どもが好きなものや興味を示したものを、保育者の顔に近づけます。人の顔を意識するきっかけにもなります。

Aくんに渡されたペットボトルのおもちゃを顔の横で振って音を立て、Aくんの注意をひきます。

Aくんと同じおにぎりのおもちゃを口元に持っていくと、Aくんの視線はおにぎりを追って保育者の顔へ。

かかわり方のアイデア4 行動にナレーションをつける

ひとり遊びをしているとき、子どもの行動にナレーションをつけます。その子が興味を持っていることを意識しながら行います。色に興味を持ち始めているなら、「ものの名前」より「色の名前」を言うなどの工夫を。

また、動詞を口に出すことを意識します。名詞は生活の中で、比較的耳に入りやすいためです。

かかわり方のアイデア5 行動を止めるときには先回りを

子どもの視線を常に追い、子どもが次に何をしようとしているかを予測します。取られては困るもの、行かれては困る場所に子どもが向かい始めたら、先回りして子どもの体を受けとめます。子どもを止めたら、そのまま別の遊びに持ち込むとよいでしょう。

後追いして手を引っぱるなどすると、子どもに「目的を妨げようとする人」と受け取られてしまいます。

協力

株式会社スペクトラムライフ 早期教育すれい(埼玉・所沢市)
1歳半程度から就学までの児童に対する発達支援を行っている。1回約50分、スタッフが1対1対応で、机上のお勉強30分、自由遊び20分を行う。子どもそれぞれの優れた部分を伸ばし、苦手な部分に折り合いをつけたり底上げしたりすることを目的としている。また、スタッフとかかわりながら活動することで、「人とかかわることの楽しさ」や成功体験を積んでもらうことも目的の一つ。

早期教育すれいでの療育の様子。

文/野口久美子 イラスト/河合美波

保育者のみなさんに役立つ情報を配信中!

クリックして最新記事をチェック!

保育者の学びの記事一覧

雑誌最新号