新人保育者応援企画「理想の保育者像」をアップデートしよう!

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この春、保育者デビューするみなさん、おめでとうございます!養成校で学んだ知識と保育実習での経験を武器に自信をもって保育者デビューをしましょう。ときには教科書に書かれていなかった現実に遭遇しうまく振る舞えない自分と理想の保育者像との間にギャップを感じるかもしれません。でもそれは誰もがする経験。新人保育者がそのギャップを乗り越えるカギは、「理想の保育者像」のアップデートにありそうです。

監修・解説

百瀬ユカリ 先生

日本女子体育大学体育学部子ども運動学科教授。博士(社会福祉学)。『新人保育者物語さくら~保育の仕事がマンガでわかる~』(小学館)監修。

2020年度新人保育者に聞いた「こんなの学生時代には想像していなかった!」

2020年8月に『新 幼児と保育』編集部が開催した新人保育者オンライン座談会より。

2020年度で2年目の保育者に聞いた「目指す保育」 はどう変わった?

保育者2年目を終えようとしている4人にお話を聞きました。思い描いていたのとは違う体験もしながらの新人期間だったようです。

case1 子どもの背景にある保護者や家庭の支援に意欲を持てるようになった

石川ちひろさん(仮名/東京都の私立保育園・就職時は1歳児担当)

問題行動の裏にあるものは?

自分が保育園に行っていたころに大好きな先生がいて、ずっと年賀状のやりとりを続けてきました。その先生みたいに、優しくて子どものことを考えられる先生になりたいと思って保育者になりました。

保育者になって、想像していなかったことがいろいろ起こりましたが、一番驚いた出来事は、怒った子どもが自分の髪の毛をむしろうとしたのを見たことです。クラスの先生たちで話し合い、家庭の状況も知る先生から「ぼくを見て!というSOSなのでは?」との意見が出ました。その子の気持ちを受けとめて、スキンシップを多く持つことをこれまで以上に意識するようにしました。

「ちひろ先生の保育園がいい!」

うれしいこともありました。退園することになった子どもが、「ちひろ先生の保育園がいいの」と言ってくれたときには、少しはいい保育ができるようになったのかなと思いました。

職場の人間関係にはとても恵まれています。もっとドロドロしているのかと想像していました(笑)。特に同じクラスを受け持つ先生はいろいろとアドバイスしてくれたりごはんに誘ってくれたりして、お姉さんみたいな存在です。

今後の目標は、子どもだけでなく保育者からも保護者からも頼られる、そんな保育者になることです。保育者になって、本当にいろいろな保護者がいるんだなと気づきましたが、家庭支援の知識などはまだまだ足りないので、もっと勉強していきたいと思っています。

<解説>先輩に助けられながら専門性を身につける

石川さん自身が幼少期に出会った園の先生との思い出や、園の先生が憧れの対象であったことから、保育者を目指すきっかけになったことでしょう。保育者養成校の卒業時は、「子どもにとって優しい先生」とか、「子どもの目線で考えられる先生」になりたいといった、子ども中心に、子どもだけに着目していた保育者の理想像から、子どもだけでなく保護者からも信頼される「子育て支援」「家庭支援」もできる保育者になりたいという保育者像に変わっていきましたね。

2年間近く保育者として働いたことで、よき先輩保育者にも恵まれ、助けてもらいながら、保育者としての専門的な視野が広がっていることがわかります。

case2 一度は保育をやめたけれど周囲に支えられて復帰できた

小笠原真由さん(仮名/就職時は千葉県の私立幼稚園 → 現在は東京都の私立保育園2歳児担当)

どうしてこんなことをしているの?

「子どもたちの目線に立って物事を考えられる保育者」を目指して、保育者養成校で学びました。希望がかなって地元の幼稚園に就職し、5歳児を担当していましたが、この幼稚園を年度途中で退職しました。大学時代の恩師の助言もあって、2020年の4月からは保育園で2歳児を担当しています。

今振り返れば、あのころは「どうしてこんなことをしているの? 私はこうしてほしいのに」と、自分本位にとらえてしまっていて、子どもの目線に立てていませんでした。「もしかして、こうやって伝えたかったのかな」と、今ならば理解できることもありますが、当時は相談できる先生がいませんでした。

私もこんな保育者になりたい!

ある日のお昼寝明け、おやつの準備や着替えの補助していた私たち担任が、戦いごっこ始めて走り回る子どもたちを制止できないでいたことがありました。するといつも穏やかなフリーのA先生が「みんな先生のまわりにすわって〜!」「先生のまねしてね」と言って、コミカルな動きで子どもたちをくぎづけにしました。体ひとつで、1・2歳混合の子どもたちをまとめた力に驚き「私もこんな先生になりたい」と思いました。その先生のように、まわりの状況をよく見て判断し、忙しいときでも表情豊かにゆったりと子どもたちと接することができるようになることが今の目標です。

家族の存在と子どもの成長が活力に

保育者としての私を支えてくれているのは間違いなく家族、きょうだい、おいです。母がいなければもう一度保育に戻ろうとは思わなかったし、嫌なことがあっても保育とは関係ない話題できょうだいと盛り上がって、嫌だったことが笑えるようになります。おいは一昨年生まれたばかりですが私の癒やしです。あとは好きなアーティストの歌を聴くことで励まされています。

また毎朝子どもたちと顔を合わせると「小笠原せんせー!」と元気にやってきてくれたり、4月は私の名前をいえなかった子が「おがさわらせんせい」といってくれたりするようになったことがとてもうれしく、がんばろうと思う力になっています。

<解説>困難を支えてくれる存在を大切に

私も保育者1年目に5歳児の担任となり、困ったときに、誰に相談していいのか悩んだことがありました。どこの職場でも初年度の人間関係には不安要素が多かれ少なかれあることでしょう。困難にぶつかったときに支えになってくれる存在は、とても大切です。

学生時代は、同じ目標に向かってがんばっていた友人がいました。そして、学校の先生は常に味方でした。しかし、職場では必ず同期の人がいるとも限らず、誰かあるいは何かに支えられながら困難を乗り越えることになります。支えられて困難を乗り越えながら、いつか支える側になり、喜びをともにして、それが保育者としての自信につながっていくことでしょう。

case3 「大人の思うように動かないのが子どものいいところ」と思えるように

橋本里奈さん(仮名/埼玉県の私立保育園・就職時は2歳児担当)

裏でこんなに細かな配慮をしていたなんて!

就職を決める時点で、自分が卒園した園の保育者になりたいと考えていたので「自分が子どものころに経験した楽しいことを、子どもにもたくさんさせてあげられるような保育者になりたい」と考えていました。

就職してみてわかったことは、保育の下準備の多さや保育への配慮の細かさです。自分が考えていたよりもはるかに綿密に、先輩方は保育への配慮を行っていました。また行事などもさまざまな視点から組み立てていることを知りました。

言いなりになる子どものほうが心配

保育者になりたてのころから自分が成長したと思うのは、「大人が思うとおりに子どもは動かない」という事実に対して、「それが当たり前」「それが子どもらしさ」と受け入れられるようになってきていることです。「むしろ大人の言いなりになってしまう子どものほうが心配」という見方ができるようになってきました。就職したばかりのころは思った とおりになってくれない子どもたちを前にどうしたらいいか悩みましたが、先輩方の話を聞いて少しずつ考えが変わってきています。

ケンカが子どもの気持ちを引き出す

「登園したくない」。そういってしばらく休んでいた子がいました。保護者の方と連携をとりながらその子どもの気持ちを考えて寄り添い、少しずつその子が登園できるようになっています。自分で考えておこなったことがその子の気持ちにフィットして、笑顔が増え、休むことも減り……と結果がついてきたこの経験はとても励みになり、保育者としての私を支えています。

現在、思い描く保育者像は、子どもの悲しい気持ちに触れてその子の気持ちを救えるような、「寄り添える保育者」です。先輩方を見ると、ひとつのケンカからもその子の気持ちを聞き出して本当に悲しいことを引き出しています。その結果、子どもが晴れ晴れとした表情になることが多々ありました。その姿を見て私自身もそうなりたいと思いました。

<解説>子どもの心を多面的に理解し支えるやりがい

橋本さんは、自身がとても楽しい園生活を過ごしていたので、同じように自分も園の子どもに経験させてあげたいと思い描いていたようですね。

漠然とした理想の保育者像でしたが、先輩保育者の保育の配慮から、子どもに対する見方が変わり、子どもの気持ちを理解することの大切さを実感したようです。

保育者として子どもとかかわる中で、「楽しい」だけではなく、「悲しい」感情にも寄り添えるのが保育者であるということに着目できました。多面的に子どもの内面を理解し、適切な援助を心がけていくことができるでしょう。それをやりがいとして見いだせた点に、成長を感じます。

case4 保護者と力を合わせる保育の積み重ねにやりがいを見いだす

宮内 純さん(仮名/山梨県の公立保育園・就職時は1・2歳児担当)

言葉が出ていない子どもとどうかかわる?

乳児はまだ言葉が出ていない子もいるので、気持ちをくみ取るのが想像以上に難しいです。また、かみつきやひっかきなど、思っていた以上にトラブルが多く、目が離せません。1年目は困ってしまうことがありましたが、次第に行動の背景を考えたり、気持ちを受けとめて代弁したりしながらかかわろうと意識するようになっていきました。先輩はわからないことを丁寧に教えてくださいますし、失敗したときも励ましたり、自分の経験談を話したりしてくれます。

子どもと保護者に丁寧にかかわる

あまり笑顔を見せない子どもがいました。家でどんな遊びが好きかを保護者に聞き、車のおもちゃが好きということだったので、自由遊びのときに一緒にブロックで車を作ったり、乗り物の話題から安心してかかわれるようにしたりした日々の積み重ねの中で少しずつ笑顔を見せたり、自分から行動するようになるのを見てきました。その経験が保育者としての私を支えています。

大学生のときには、子どもの主体性を引き出せる保育者になりたいと思っていました。現在は子ども主体の保育ができ、子どもと保護者と丁寧にかかわり、子育て支援もできる保育者を目指しています。集団生活の中でも、子ども一人ひとりの発達を考慮して、個々に合わせた保育をしていくことができればと思っています。

<解説>特に乳児保育者に大切な発達段階の理解

0・1・2歳児は、発達の個人差が大きく、学生時代に学んだことがあっても、実際には年齢や月齢が低い子どもほど、欲求や気持ちを瞬時に理解することは難しいのが現実です。予想外の行動も多く、驚いたことでしょう。宮内さんの場合は、困ったことに対して、職場の先輩保育者が丁寧に教えてくれて、励ましてくれたとのこと。人間関係にも恵まれていたことがうかがえます。

経験を重ねて、子どもの主体性を引き出すことだけでなく、保護者との関係性も大切にして子育て支援もできることを目指すようになりました。それは、子どもの成長の姿を見るにつけ、発達段階の理解の大切さに気づけたことに大きな意味があったといえるでしょう。

先輩保育者に支えられながら新たなやりがいを見つける

誰もが最初は新人保育者です。思い描いていた理想の保育の実現は、かなり難しいことでしょう。けれども、子どもから見れば、1年目の保育者も先輩保育者も、心のよりどころとなる大切な「先生」です。ここで登場した保育者の体験談から、「子ども中心の考えから、子ども+保護者支援へ」と変わっていること、「先輩保育者の存在」が新人保育者を支え、新たな「やりがい」が見つかってきたことがとても大きい変化であるといえます。理想と現実のギャップを恐れず、子どもの成長の姿に毎日向き合い、子育て支援に「やりがい」を見いだせる日が来るというメッセージを4つのケースから受け取って、理想の保育者像をアップデートしていってください。


文/佐藤暢子
イラスト/オモチャ

『新 幼児と保育 増刊』2021年春号より

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