思わず読みたくなる 園だより・クラスだよりの工夫
園からのたよりで保護者に伝えたいことがしっかりと伝わるようにするために、どんなことに気をつければよいでしょうか。ふたつの園の実例を紹介、心がけていることを聞きました。
お話
浅村都子 先生
社会福祉法人高洲福祉会練馬区立豊玉保育園園長(東京・練馬区)
福島知華 先生
こどもの王国保育園東日本橋園園長(東京・中央区)
この記事で紹介しているおたよりは、年度の記載がないものは2021年度に配布されたものです。一部加工・修正しているところがあります。
目次
忙しい保護者が毎月1回身構えず読める工夫を
豊玉保育園
豊玉保育園は定員130名の大規模な園です。公立保育園の民間委託事業を進める東京都練馬区で、民間運営の2園目の保育園として2021年度からスタートしました。運営の転換期にあっても安心して子どもを預けてもらえるように、保護者への丁寧な情報発信を心がけています。
新聞形式ならおもしろそうと思った記事から読めばいい!
毎月1日に発行される園だより「とよほっと新聞」は、A3サイズの用紙4枚を二つ折りにした8ページ構成が基本。トップのページは園長先生による園だよりで、続いて各年齢クラスに1ページずつのクラスだよりとなっています。またキッチンだより(栄養士)と保健だより(看護師)に半ページずつが割り当てられています。各ページは3段から5段にブロック分けされていて、文字どおり新聞や雑誌のようなレイアウトになっています。文書入力ソフトWordで、テキストボックスの機能を使って配置しているそうです。一般的な園だより・クラスだよりは、書類やレターのような体裁のものが多いですが、なぜ豊玉保育園はこのようなレイアウトにしているのでしょうか。
「新聞や雑誌は上から下まで全部読まなくてはいけないというのではなくて、ぱっと見て目に入ったところをまずは読んで、おもしろければまわりも読み進めていく、そういうつくりになっていますよね。保護者の方はみなさん仕事で忙しくされていますから、『読まなくちゃいけない』という気にさせたくないのです。雑誌で見かけた印象的なレイアウトを取り入れるなど、保育者は工夫をしています」と園長の浅村都子先生は話します。
文献からの引用は自園ならではの情報も加えて
おたよりを書くとき、本などの文献から、保護者に伝えたいことを引用して載せることもあると思います。ただ保護者が園だよりやクラスだよりに期待するのは、あくまでその園の保育を知ることですので、必然性のあるときに限り、文章量や前後の文脈を考えて活用したいものです。
下に示した記事は、長い休みが明けたタイミングで配布された号で、睡眠や生活リズムの大切さを伝えたものです。クラス担任が最初に書いた原稿案では、睡眠に関する文献からの引用と、園での取り組みが書かれていました。園長先生とクラスの担当で話し合って、クラスの子どもたちの入眠時間と睡眠時間を集計したデータを追加することにしました。この追加情報があることで、保護者は我が子の睡眠について、同じクラスのほかの子どもと比較することができます。
また、クラスの子どもたちの昼寝の時間と夜の睡眠時間の相関も書かれており、保護者は、園が発信する読み物だからこその貴重な情報を得ることができます。
堅苦しい内容や言いづらことをマンガで柔らかく
保護者が読んで楽しいことばかりではなく、守ってほしい園のルールやお願いごとを伝えるのもおたよりの役割であり、読み飛ばされてしまわないように工夫が必要です。
浅村先生の前任の園で、同じ法人の石神井町さくら保育園の園だよりでは、4コママンガを毎号載せていました。少し言いづらいけれど言わなくてはならないことや、堅苦しい内容こそマンガを使って、ソフトに伝えるようにしていたそうです。豊玉保育園でも今後取り入れていきたいと考えています。
下に掲載したマンガでは、登園時刻に関するルールと、登園時刻に間に合いそうもないとき保護者にしてほしいことを、その理由も含めて伝えています。ほかにも園の保育方針や保育目標を伝えるとき、あるいは園庭の側溝の掃除や園舎の床のワックスはがしなどのボランティア作業への参加を促すときなどにマンガの手法を使っています。
ほかの園やクラスのおたよりからも学ぼう!
豊玉保育園は同じ法人のふたつの保育園と、園だよりを交換して互いに読み合っています。その中で、とびうお組(3歳児)担任の松下希さんが作るおたよりを読むのを楽しみにしている保育者が園内外にいるそうです。浅村先生も「松下さんの保育観が表れていて、文字量は多いほうだけれど、読み入ってしまう」と評します。
ある日、職員会議で15分ほど時間をとり、松下さんがクラスだよりを作るにあたって意識していることを話してもらいました。さらにグループに分かれて、意見交換を行いましたほかの人の実践から学ぶことがレベルアップのために何より重要です。
クラスだより作りで意識していること
ーーーとびうお組担任 松下希さん
- エピソードに自分の思いをのせる。
- エピソードにライブ感を出す。
- 柔らかく表現する(「これからも~したいと思います」のような意思表明は保護者向けにはいらない!)。
- 読み手の顔を思い浮かべながら書く(子ども、保護者の多様性に配慮する)。
- クラスだよりに載せたいことが思い浮かんだらメモしておく(主に通勤電車の中で、スマートフォンにメモ) 。
- 楽しむ!「書かされている」のではなく、クラスだよりは「自分を表現できる場所」という意識を持つ。
さまざまな頻度・情報伝達手段で子どもの姿を伝える
こどもの王国保育園東日本橋園
こどもの王国保育園東日本橋園は0〜5歳児、30名の子どもたちが通う企業主導型保育施設です。小規模園だからこそできる温かい保育を大切にしており、異年齢を含む3つの「チーム」を編成しています。
「チームだより」は発行する頻度は決めず、新学期や大きな行事のときなどチーム内で「これを保護者に伝えたい!」という機運が高まったときに発行します。園長先生が作成する園だよりは、月に1回の発行です。
手書きと文字入力それぞれのよさを生かす
チームだよりや園だよりは、園長と各チームに1台支給されているタブレット型端末(iPad)で、「GoodNotes 5」という有料アプリを使って書いています。写真を貼ったり、タッチペンで手書き風の文字や罫線を書いたりすることが簡単にできます。入力した文字の読みやすさ、手書きの温かみを簡単に両立できるツールが用意されています。
チームのドキュメンテーションを毎日発行
こどもの王国保育園では、各チームのドキュメンテーションを毎日発信しています。チームだよりなどと同じようにタブレット型端末を使って、午睡の時間に書きます。所要時間は30分程度です。
園長先生は、内容は各チームに任せているそうですが、子どもが体験したことと保育者のまなざしや考察を必ず入れるようにと伝えてあります。各チームのドキュメンテーションを出力して貼り出し、互いに学んでいます。
そのほか、園の入り口の脇、通りに面したところにかけた黒板に、保育者が交代で週のスケジュールと保育のねらいを書いています。保護者はもちろん、地域の方も見ています。黒板を見て牛乳の空きパックで製作をすると知った近所の飲食店の方が、空きパックを大量に持ってきてくれたこともあります。
保護者も審査員!「 まなびの種コンテスト」
子どもたちのふだんの何気ない姿から、子どもたちの成長のきっかけを読み取り、より質の高い環境づくりをしていこうと、「まなびの種コンテスト」を年に数回開催しています。A4用紙1枚に事実と考察をまとめて、保育者個人でエントリーします。コンテストの審査員は園の保育者全員と保護者全員。「審査」という形を取りつつ、保護者に子どもの姿を伝え、保育の視点を伝えるのにも一役買っています。保護者からは「 あえて『待つ』『見守る』ことで促される成長があると気づいた」「日ごろドキュメンテーションでは見ることができないお友達とのかかわりや先生方のサポートがよくわかる」などの声が寄せられました。
文/佐藤暢子
『新 幼児と保育』2022年春号より
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