保育の指導計画(月案)を立てるときの5つのポイント【3・4・5歳児編】

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保育の指導計画の月案を立てるときのポイントを、案の中で項目として立てているいくつかの事柄について、具体的な指導案に沿って解説します。各項目に盛り込まれる内容やその意図を読み取りながら、それぞれの園の指導計画作成の手がかりとしてください。

5歳児10月の指導計画。1~5に分けてそれぞれ解説します。

1 子どもの姿

指導計画にしばられたり、計画倒れになったりしていないでしょうか。計画通りに進まないのが保育であるといえますが、「想定外」にも柔軟に対応し、常に子どもの実態と結びついた「生きた」指導計画であることが望まれます。そのためには目の前の子どもをよく観察し、その実態を的確に把握しなければなりません。子どもの興味や関心、友達関係や遊びへの取り組み、生活場面でのさまざまな姿をよく見て子どもに対する理解を深めることが重要です。

指導計画作成においても、前月末の子どもの姿を的確にとらえ、冒頭に記します。その際、子どもたちが生活したり遊んだりする様子から、特に顕著に現れてきた姿をとらえ、3つほどの項目に分けて記します。

上の例示(5歳児10月の指導計画)では、前月、運動会に向けての取り組みを通して、進んで運動遊びを楽しみ、友達と協力してやり遂げる充実感や自信を味わったことが見てとれます。こうした経験が「生活に見通しを持つ」ことにつながり、年長児らしい姿として記されています。また、季節の移り変わりを感じて「作物の収穫に期待している」という記述からは、こうした自然環境が身近にあることがうかがえます。実際、前月9月の指導計画の自己評価の欄を確認すると、運動遊びのルールを確認し、少し難しいことに挑戦する子どもたちの姿や、運動会をやり遂げた自信、仲間意識の高まりなどについて記されています。また、栽培している稲の様子や木々の葉の色づきに気づく子どもの姿が記され、さらに、こうした興味や関心を伸ばしていきたいという保育者の思いが読み取れます。

上に挙げた5歳児10月の指導計画にはありませんが、子どもの健康状態や養護にかかわる事柄について記す場合もあるでしょう。風邪が流行り、欠席する子どもが多かったこと、手洗い・うがいを自らすすんで行うようになっていることなどの記録は、他の指導計画の中に多く見られます。また、身支度、食事の様子などについて記されている場合もあります。

いずれにしても、子どもの生活全体をバランスよく的確にとらえ、子どもの心身の成長の様子が伝わるように記すとよいでしょう。

2 ねらい

「子どもの姿」に記したことを受け、子どもの中に育ちつつあるもの、育てたいことを今月の「ねらい」として定めます。これまでの遊びや経験を受けてさらに伸ばしていきたい事柄、今月、特に経験することが望まれる子どもの心情・意欲・態度などが保育の「ねらい」になります。こうした観点から保育指針や全体計画及び年間指導計画にある「ねらい」を踏まえ、3つほどの項目を考えて記します。その際、子どもの興味・関心の高まりや自ら遊んだり生活したりする意欲を大切にするとともに、養護や教育の5領域のバランスに配慮して定めることが必要でしょう。また、その月に行われる行事や季節感なども「ねらい」に反映させていきます。

例示では、前月の活動を通して体得した子ども同士のかかわりの強さや主体性をさらに伸ばそうと「友達と考えを出し合い、共通の目的に向かって遊びや生活を進める楽しさを味わう」をねらいにしています。また、季節の移り変わりを感じた子どもたちが身近な秋の自然を取り入れて遊ぶことを経験してほしいという願いが「秋の自然物の形や素材の特性を知り、工夫しながら遊ぶことを楽しむ」というねらいに現れています。さらに、「生活リズムを整え、健康に過ごせるようにする」とあるように、季節感のある活動を楽しみながらのびのびと健康に過ごしてほしいという願いとともに、午睡のない生活リズムを整える年長児の生活が考慮されています。既に基本的生活習慣が身についている年長児ではありますが、この時期から徐々に就学に向けて生活リズムを整えていく必要があるといえるでしょう。

「ねらい」は単に子どもが経験する内容を記すのではなく、そのことを通して子どもの何を育てたいのかという保育者の願いが投影されていることが必要です。幼児期は特に、楽しんで遊んだり、喜んで体を動かしたりする中で充実感を味わい、そのことを通して心身の育ちが促されます。「楽しさを味わう」ことを「ねらい」としながら実際には子どもの何が育っているのか、心身の状態の変化も含め、具体的に把握することが求められるでしょう。

3 内容

「ねらい」に記された事項が十分に経験できるよう、具体的な保育の展開を見通しながら「内容」を記します。保育園の場合、「養護」の項目を設け、「生命の保持と情緒の安定」にかかわる事項について保育者を主語として記載し、5領域のそれぞれの欄は子どもを主語にして記します。実際には、遊びや生活の中で総合的に展開されるのが保育であり、厳密に「健康」だけ、「人間関係」だけといったことはなく、領域をまたいで関連し合っていることが往々にしてあります。

たとえば、例示の指導計画「内容」の「環境」の欄に「秋の自然物に十分触れ、形や大きさ、手ざわりなどに関心を持つことで、遊びに取り入れて試したり、工夫したりする」とあります。また、「表現」の領域に「…いろいろな素材や自然物を使って製作する」とあり、さらに「テーマのある遊び」や「絵本」「食育」の欄にも秋の自然とかかわりのある記述が見られます。身近な秋の自然に触れてさまざまなことに関心を持つことを主眼におけば「環境」の領域に含まれますが、自然物を使って製作することに着目すれば「表現」の領域となります。また、秋の実りを味わう「食育」は「健康」の領域とも関連します。さらに、秋の自然や祭りに興味が広がる絵本を通してイメージを豊かにすることは「言葉」の領域にかかわります。一方、こうした自然とのふれあいやかかわりを通して、また、友達と一緒に遊んだり活動したりすることを通して子どもの情緒が安定したりと「養護」とのつながりもあるでしょう。保育の総合性や養護と教育の一体性が指導計画全体から立ち現れることを確認しましょう。

さて、この園のように1か月を通して子どもが継続的に遊び込めるように「テーマのある遊び」の欄を設けているところもあります。年長児の興味・関心の広がりや製作意欲などを生かし、関連する「絵本」と結びつけて保育がくり広げられる様子が目に浮かびます。この園のある茅野市では市を挙げて絵本に力を入れており、園内にはたくさんの絵本があります。園長たちが協働で手作りした絵本もあり、保育に生かされています。こうした地域の特性を指導計画に反映させていきましょう。

イラストAC

4 環境構成

各園の指導計画には「環境」または「環境構成」の欄が設けられています。保育者が言葉で指示したり、伝えたり、教え込んだりするのではなく、乳幼児期は「環境」の中に保育者の思いや願いを盛り込み、子どもが自らその環境にかかわって「学んで」いくことが重要です。

子どもは身近な環境(遊具や素材、教材など)に手を伸ばし、触れたり、試したり、遊んだりしながら、さまざまなことを体得していきます。保育室の環境、園庭の環境も重要です。保育者には、子どもの発達過程や興味・関心をふまえ、計画的に環境を構成する力が求められます。

例示にある「環境構成」には、たくさんのものが記されています。たとえば、「跳び箱やマット遊び、縄跳び」「集めた自然物を分類できるもの」「比べたり調べたりするための道具」「製作に必要なもの」さまざまな「自然物」や「素材、用具」「脱穀や精米に必要なシート、容器、用具」などもあります。関連する絵本や遊びや製作のためのさまざまなものが保育室に置かれていることがわかります。「分類できるもの」として「箱、かご、透明容器など」とあり、「比べたり調べたりできるもの」として「メジャー、虫眼鏡、図鑑など」が明記されています。筆者がこの園を訪れたときには、年長児の保育室に天秤が何台か置かれており、子どもたちが木の実の重さを比べていました。また、壁面に世界地図が掲示され、保育室には地球儀が置かれていました。子どもがそれらを使って試したり、調べたり、遊んだりする様子が目に浮かぶのではないでしょうか。

「ねらい」や「内容」をふまえ、どのような遊びのコーナーやゾーンを設定したらよいのか、そこにはどんな遊具やものを置いたらよいのかを常に考えていきましょう。子どもの遊びに応じてさまざまなものが用意され、作り出される環境であることが大切です。また、子どもの動線や視線を考慮してものや遊具の配置を考えるとともに空間や時間をどのように使うかなども環境構成の大事な要素です。さらに、子どもの作品や季節の自然物を保育室の環境構成に生かし、素材や教材をきちんと仕分けして子どもが取り出しやすいように置いておくことなども大切です。こうしたことを環境構成の欄に簡潔に記し、環境を通して行う保育を実践していきます。

5 保育のふりかえり および 自己評価

指導計画の中に「保育のふりかえり」と「自己評価」の欄を設けることは意義あることだと考えます。また、保育者間でそれぞれの自己評価を伝え合い協議することで、園全体の課題や園のよさを共通に認識し、同僚性を高めるという効果もあります。

まずは、立てた「ねらい」に沿って保育日誌などを通して実践をふりかえり、「環境構成」「配慮事項」に記した事項が保育の中で十分に生かされていたかどうかを確認します。もちろん、「内容」に記したことが計画通りに行われたか、子どもが経験する内容としてふさわしいものだったかなど、一人ひとりの子どもの様子や遊びへの取り組みをふりかえります。

例示にある「保育のふりかえり」には「ねらい」に即したものとして、徐々に午睡のない生活リズムを整えたことや、一日のうちの気温差が大きくなり、咳や鼻水などで欠席する子どもがいたことについて記されています。また、友達と考えを出し合う場や機会を工夫して設けたことで、子どもたちが自分の気持ちを表しながら友達と共通の目的に向かって思いを伝え合う様子が記されています。

また、秋の自然物を使ってさまざまに遊んだり、比べたり試したりする姿について記されています。特に大きさを比べたり、色や形の違い、葉っぱの表と裏の感触の違いに気づいたりなど、子どもの観察眼や認識力の育ちが見て取れます。さらに絵本と自分の体験をつなげ、イメージをふくらませて遊びに取り入れようとする姿や友達と折り合いをつけながら迷路づくりを楽しむ様子が伝わってきます。

こうした「保育のふりかえり」をふまえ、子どもの何が育っているのか、子どもにどういう変化があったのか、そして、来月につなげる課題は何かということを明確にするのが「自己評価」です。さらなる保育の充実のために、何をどうしたらよいのか、必要な環境構成は何か、など自らの保育をふりかえり、子どもの育ちをとらえながら導き出していきます。

園全体で自己評価に取り組む際には、各クラスの自己評価の欄を、期のふりかえりの際には数か月分、半年の時点で行うときには半年分、年間のふりかえりの際には12か月分を集約して提示します。0歳から年長児までの各クラスの自己評価を一望すると、園全体の子どもの育ちの過程がわかります。作成された指導計画を大いに生かし、次の(翌年の)計画に反映させましょう。(天野珠路先生)

3・4・5歳児の指導計画 保育園編【改訂版(天野珠路 先生・監修)より抜粋

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