記入例でわかる!「10の姿」をどう考える?平成30年度の新「要録」

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大阪総合保育大学・大学院特任教授

神長美津子

改訂された「指針」「要領」のもと新しい様式で初めて作成する「要録」「幼児期の終わりまでに育てほしい姿」をどのように意識すればよいのかなど2018年度ならではの観点を神長美津子先生が解説します。

お話

神長美津子 先生

かみながみつこ●國學院大學人間開発部教授。宇都宮大学大学院修了。宇都宮大学教育学部附属幼稚園にて20年間勤務。さらに、文部科学省初等中等教育局幼児教育科教科調査官、東京成徳大学教授を経て現職。「要録」に関連する共著に『わかりやすい!平成30年度改訂幼稚園・保育所・認定こども園「要録」記入ハンドブック』(2018年ぎょうせい)、『幼稚園・保育所、認定こども園対応子どもの育ちが見える「要録」作成のポイント』(2018年中央法規出版)などがある。

ここが違う! 今年度からの新しい要録

小学校への接続がより円滑になるように、特に最終学年の要録の書き方が改善されました。子どもたち一人ひとりのよさを小学校に伝えるという基本の考えは、これまでどおり継承されています。

保育所自動保育要録
幼保連携型認定こども園園児指導要録
幼稚園幼児指導要録

※ここに引用した様式は、文部科学省、厚生労働省、内閣府がそれぞれ作成した参考例です。

要録記入のポイント

今年度の様式に基づいて、保育所、幼稚園、認定こども園の「要録」記入例を紹介します。その中で特に「10の姿」を踏まえた記述について、そのポイントを解説しています。

なお、それぞれの記入例と解説は、保育園なら保育園特有の例ではなく、どの種類の園であっても当てはまる内容になるよう、編集部が作成したものです。

保育所児童保育要録の例

※ここで紹介する記入例は実在する個人について記述したものではありません。どの園にもいそうな子どもを想定して書かれています。

幼稚園幼児指導要録の例

いま伸びつつある資質の伸びを止めないために、「伴走者」に渡すタスキが「要録」です

「要録」は、当該幼児のよさや育ちつつあるものを次の指導者に伝え、指導の継続性を確保するために作成するものです。発達の姿だけでなく、保育者がどのようなかかわりをしてきたのかなど、その指導も含めて、なるべく簡潔な文章にしていきます。

まとめる際のポイントを挙げていきます。第1は、当該幼児の1年間をふりかえり、発達の諸側面である「5領域」の視点から見て著しく発達したと思われること、あるいは変化したと思われることを書きます。この場合、他の幼児と比較するのではなく、「その子なりの一歩」をとらえていくことが大切です。たとえば、いつも保育者と一緒に遊んでいた幼児が、保育者の手から離れて、自分から友達の中に入っていったことは、その子の発達の中で大きな一歩です。「友達への関心が芽生えた」ととらえることができます。

第2は、特に5歳児は、「10の姿」を意識して整理していきましょう。「10の姿」は、幼児教育から小学校教育に移行する際に、保育における発達の見方が小学校教員に伝わりにくいので、18歳までを見通して学校教育において育みたい資質・能力の視点からまとめ、小学校教員にも理解しやすくなるために作られたものです。したがって、一度書いた文章をもう一度読み直しながら、「10の姿」から見て読めるように言葉を整理していきましょう

第3は、引き続き同じような指導が必要な事柄については、次の指導者が、どのような援助をしていったらよいかがわかるように、具体的に書いていきましょう。特に、5歳児の場合は小学校教員が読んで指導場面が具体的にイメージできるように心がけることが大切です。

園から小学校へタスキを渡すイメージイラスト

Q&A 

Q1 子どもの心情や内面を文章化するとき、保育者の創作になってしまっていないかといつも心配です。

子どもの内面理解は、主観的です。しかし、だから「それでよい」というわけではありません。保育者同士で話し合いながら、子どもの見方を重ね、その主観を磨き客観化していく努力は必要です。また、保育参観などで、子どもの見方を保護者に話しながら、うまく伝わっているか否かを判断し、「独りよがりの見方にならない」ようにすることも大切です。

Q2 子どもの育ちや援助を記入する欄では、書き出しに何をいえばいいのか、いつも迷います。

書き出し部分にはその子どもの行動の「特性」を書くとよいでしょう。行動そのもの、一見してわかることを書く必要はありません。次に、その特性に対して、「こんなふうにかかわるとその子のいい面が引き出される」というかかわり方を記述します。

Q3 30人分も書くのは大変! 時間短縮のコツはありますか?

1人分ずつ仕上げていこうと書いては消してをくり返すより、ひとまず全員分をざっくり埋めてしまいましょう。一度で完成させるつもりで書いても、全員分書いたあとに見直してみると、書き始めのころには気づけなかった観点が出てくるものです。いっそのこと最初から「仕上げは2巡目で」と割りきって進めるほうが、効率よく書けます。


構成/佐藤暢子
イラスト/上島愛子
写真/大枝桂子
協力/認定こども園黒羽幼稚園(栃木・大田原市)、静岡豊田幼稚園(静岡市)、愛星保育園(東京・港区)

『新 幼児と保育』2019年2/3月号より

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