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『ウーパールーパー探しの冒険』第61回「わたしの保育記録」佳作

特集
小学館が後援する保育記録の公募「わたしの保育記録」

大阪総合保育大学・大学院特任教授

神長美津子

第61回「わたしの保育記録」応募作品の中から、佳作を受賞した作品をご紹介します。
(表記は基本的に応募作品のままです)

「ウーパー!」と叫ぶ子どもたち。
「ウーパー!」と叫ぶ子どもたち。

〈3・4・5歳児クラス部門〉
ウーパールーパー探しの冒険
入江 真綾
社会福祉法人砂原母の会 幼保連携型認定こども園 そあ(東京・葛飾区)

はじめに

園で飼っていた一匹のウーパールーパーが、ある日突然いなくなってしまった。毎日えさやりをしていた年少のAくんがそれに気づき、「いなくなっちゃったね」と寂しそうに呟いた。保育者が「どこにいるんだろうね」と声をかけると、Aくんは少し考えてから「公園に逃げたんじゃない」と答えた。Aくんはそう言葉にしながら、自分なりの答えを探し始めたため、保育者はその発想を受け止め、一緒に探してみることにした。

実践内容① 作戦会議

次の日、Aくんは「もう逃げちゃったかも」「どこに行っちゃったんだろう」とつぶやいた。声はか細く、その様子を見た周りの子どもたちは一瞬黙り込み、互いに顔を見合わせ、「本当にいないの?」「どうして?」と水槽をのぞき込んだ。

保育者が「一緒に探してみようか」と声をかけると、日ごろから世話をしていた仲間たちが集まり、自然に輪ができあがって作戦会議が始まった。Aくんは「探したい」「戻ってきてほしい」と言い、他の子どもたちも同じように声をあげ、団結が生まれていった。

図鑑を開いてもウーパールーパーは載っておらず答えは見つからなかったが、「公園にいるかも」「水のあるところだよ」「仕掛けを作って捕まえよう」と発想は広がっていった。Aくんは逃げたウーパールーパーが「帰ってくるかもしれない」と考え、仲間と共に水槽に向かい、水槽横にバケツを置くことにした。そこで保育者は「ほかの先生にも聞いてみようか」と促すと、他の先生から「バケツが高すぎて登れないかもしれないね」と助言を受け、Aくんは「じゃあ階段を作ろう」と提案した。その声に仲間も「いいね」「それなら帰ってこられる」と話し、ブロックを持ち寄って階段を組み立てはじめた。

やがて立派な階段が完成し、バケツの横に設置され「これで帰ってくる」「これでウーパーも登れるね」と期待を込めて数日間待ったが、ウーパールーパーは戻らなかった。それでも子どもたちの期待と探究心は続いていた。

子どもたちが作った階段付きのしかけ。
子どもたちが作った階段付きのしかけ。

実践内容② 近所への冒険

ある日、Aくんが「わんちゃんがいるところは?」とつぶやいた。思いついたのは近所のペットショップだった。その一言に仲間たちは「そうだ!」「そこにいるかも!」と声をあげ、準備を始め、小さな探検隊が結成され、そのまま出発した。

店内に入ると、Aくんは真剣な表情で生き物の水槽を一つひとつのぞき込んでいく。犬や猫にも「ウーパールーパーいる?」と聞いてみた。返事はもちろんない。店員さんに尋ねても「取り扱いはありません」との答えだった。このまま諦めてしまうかと思った帰り道、Aくんは「今度は公園に行こう!」と新たな目標を口にし、仲間も「そうしよう!」と応じた。

冒険に出る前に、生き物に詳しい先生に相談に行くと、ペットボトルで仕掛けを作る方法を教えてもらった。Aくんは「これなら捕まえられる!」と自信に満ち溢れた表情で、仲間たちも「明日やろう!」「絶対見つける!」と大はりきり。期待に胸をふくらませながら、次の日の冒険に備えた。

翌日、登園した子どもたちはすぐに仕掛けとバケツを抱え、川辺のある公園へ出発した。歩きながら「どこにいるかな」「呼んだら来るんじゃない?」と話し合い、公園に着くと一斉に「ウーパー!」と声をそろえて呼びかけた。当然のように返事はなく、子どもたちの表情も怪しくなった。

見かねて保育者は「作戦会議をしてみようか」と声をかけた。するとすぐに「仕掛けを置こう!」「隠れて待とう!」と意見が飛び出した。子どもたちは仕掛けを川辺に置き、帽子で顔を隠して草陰に身を潜めて待った。けれど待てど暮らせど姿は現れず、再び作戦会議。「水が入っていないからじゃない?」と声があがり、水を汲んで入れてみた。しかし、それでも成果はなかった。

公園での作戦会議。
公園での作戦会議。

「餌がないからかもしれない」「ウーパーって何食べるの?」と次の会話が生まれる。すると年少のBくんが「葉っぱ食べるんじゃない?」と自信満々に提案した。子どもたちは「やってみよう!」とすぐに動き、水と葉っぱを仕掛けに入れて再び挑戦した。

しばらくして見に行くと、仕掛けは倒れており、中の水が減っていた。水が減っていることにきづいた子どもたちは目を輝かせて「ウーパー来たんだよ!」と叫んだ。別の子も「えさ食べて逃げたんだ!」と続けた。実際に姿は見えなかったが、子どもたちは本当に“会えた”かのように喜び合った。

実践内容③ 水槽掃除と家づくり

川での冒険から帰ってきても、子どもたちの熱は冷めなかった。毎日のように「先生!また探しに行こう」「次はどうしよう」と声を弾ませ、「絶対に見つけるんだ」という強い思いが燃えていた。

そんなある日、年少のCくんが、ウーパールーパーの水槽を前にして、「おうちが汚くて逃げたのかな」とつぶやくと、周りの子どもたちも「そうかもしれない」「きれいにしたら戻ってくるかも!」と声を重ね、みんなで水槽掃除に挑戦することになった。

バケツに水をくむ子、スポンジで磨く子、雑巾で拭く子。それぞれが役割を見つけ、黙々と取り組む。「大変だね」「なかなかきれいにならない」と言いながらも、やがて水槽はピカピカになり、「戻ってくるといいね!」と声をあげる子どもたちの笑顔が並んだ。きれいになった水槽を見ながら、「これなら戻ってくる」と期待をふくらませる子どもたち。しかし、毎日確認しても水槽は空っぽで、またしても表情が曇っていった。

そんな中、ふとAくんたちから「お家を準備しないと!」という声があがった。「戻ってきたのに家がなければ困ってしまう、かわいそうだ」子どもたちはそう考えたのだ。その思いが広がるにつれ、曇っていた表情はどこかへ消え、顔は一気にワクワクで輝き出していった。そこから「ウーパールーパーのお家には何が必要か」という作戦会議が始まった。「みんなの家には何がある?」という問いから「トイレ!」「キッチン!」「ベッド!」「おもちゃ!」と次々に声があがり、大きな紙を用意して描き始めると「水の中にベッドがあってね」「トイレはここ!」と自分たちの想像を楽しそうに書き込み、手は止まらず、あっという間に紙が埋まっていった。

紙に書いたウーパールーパーの家。
紙に描いたウーパールーパーの家。

やがて「えさは赤虫だから、えさやりは自分たちがするんだよ。だからキッチンはいらない」という意見が飛び出す。「なるほど!」「いいね!」とうなずく声が重なり、「トイレはきれいに掃除してあげないとね」と続いた。気がつけば、大きな紙いっぱいに、子どもたちの夢と工夫が詰まったお家が完成していた。

気づき

ウーパールーパーがいなくなった出来事は、子どもたちにとって大きな寂しさから始まった。しかしその気持ちを仲間と共有し、知恵を出し合い、実際に試していく過程の中で、子どもたちは想像を広げ、工夫し、挑戦を続けていた。失敗しても立ち止まらず、次の行動へとつなげていく姿は、大人が用意した活動以上に豊かで力強い学びとなっていた。

私にとって出発点となったのは「事実をどう伝えるか」ではなく、「子どもの思いをどう受け止めるか」であった。空っぽの水槽を前にしても、子どもたちの世界は確かに広がり、そこには物語が生まれていた。その姿は、保育者が“答えを与える存在”ではなく、“一緒に考え、試し、見守る存在”であることを改めて示していた。

この経験を通して、私は「正解を教える」ことよりも、「子どもの思いに寄り添い、ともに考えること」の大切さを改めて実感した。

終わりに ―保育者としての葛藤―

ウーパールーパーは命を落としていた。しかし、子どもたちがあまりにも悲しむ姿を見かねて、私たちは地域の方から同じくらいの大きさのウーパールーパーを譲り受けることにした。けれど、ここからが大きな葛藤だった。子どもたちが冒険を続ける間に、この新しいウーパールーパーをどう見せたらいいのか。仕掛けに入れるのか、水槽に戻すのか、それとも「地域の人が持ってきてくれた」と伝えるのか。どの方法にも一長一短があり、簡単に決められるものではなかった。

命を落とした事実は変わらないが、それ以上に、年少児たちが探し続ける冒険には大きな意味があった。突拍子もない発想であっても、実際に試し、うまくいかない経験を重ねる。その過程こそが今後の学びにつながるのだと思った。だからこそ、安易に新しい個体を渡すことはできなかった。しかし、どう渡せば子どもたちの世界を壊さずにすむのか、その答えも見つからないまま、冒険は日ごとに盛り上がっていった。

そうしているうちに新しいウーパールーパーは成長し、ある日ふとした拍子に年長児に見つかってしまった。年長児たちは、年少児が必死に探していることも、公園にいるはずがないことも理解していたが、だれ一人として夢を壊そうとはしなかった。

ウーパールーパーが見つかったとき、「あ、こんなところにいたんだ」とつぶやく子はいても、それ以上事情を話す子はいなかった。まるで空気を読むかのように、年長児たちは静かに秘密を守ってくれたのである。

結局、新しいウーパールーパーを子どもたちに渡すことはできず、今も来客用の部屋の小さな水槽で、ひっそりとお客さんを迎えているのである。

受賞の言葉

入江 真綾

この度、受賞の機会をいただき、心より感謝申し上げます。日々のより良い保育をともに創ってくださる同僚の先生方、私たちを支えてくださる園長先生をはじめとする園のみなさま、そして園にご理解いただき見守ってくださる保護者の方々のおかげで、今回の賞をいただくことができました。さらに、学びの機会を与えてくれる子どもたちの存在は、私の保育を支える原動力です。改めて自分の保育を振り返り、日々の葛藤の中で自分が本当に大切にしているものを見つめ直す機会となりました。今後もその信念を大切に、子どもたちとともに成長していきたいと思います。ありがとうございます。

講評

審査員
神長美津子(國學院大學名誉教授・大阪総合保育大学教授)

この保育記録には、突然いなくなったウーパールーパーを探しに、連日冒険に出かける年少の姿が書かれています。「もう見つからない」という事実を子どもたちにどう伝えていくかと葛藤する保育者の思いとのコントラストが、この作品の魅力です。

このことを筆者は「その姿は、保育者が“答えを与える存在”ではなく、することを、“一緒に考え、試し、見守る存在”であることを改めて示していた」と書いています。保育者がためらい葛藤していることをまったく気にせずに、子どもたちの想像の世界はどんどん広がっているのです。

もうひとつ興味深いことは、年長の子どもたちは、いつの間にか保育者の思いに気づき、ウーパールーパーの死を受け入れ、黙っていたことです。年少の子どもたちと、保育者の中間にいて見守っています。園生活を重ねる中で、確実に成長している年長の姿を読み取ることができます。

保育の日常の出来事から、子どもの世界とその成長を読み取ることができる作品です。

写真提供/幼保連携型認定こども園 そあ

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