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『「排泄に寄り添う保育」から見えてきたこと~1歳児クラスの実践から~』第61回「わたしの保育記録」佳作

特集
小学館が後援する保育記録の公募「わたしの保育記録」

「子どもとことば研究会」代表

今井和子

第61回「わたしの保育記録」応募作品の中から、佳作を受賞した作品をご紹介します。
(表記は基本的に応募作品のままです)

「おしっこと出会っている」子どもと、「お友達がチッチでたよ」と保育者に教える子ども。
「おしっこと出会っている」子ども(右)と、「お友達がチッチでたよ」と保育者に教える子ども。

〈0・1・2歳児クラス部門〉
「排泄に寄り添う保育」から見えてきたこと~1歳児クラスの実践から~
光本千枝
所沢市立北所沢保育園 (埼玉・所沢市) ※令和7年3月退職


所沢市の公立保育園ではコロナ以前は「布おむつ」を使っていましたが、コロナ禍をきっかけに紙おむつ使用となりました。3年が過ぎた令和4年度。「紙おむつ」が当たり前になっていました。「紙になって楽になった」「衛生面でも布よりいい」「おむつ替えが少なくなった」「布に比べて大人の意識が向かなくなった」などの声があり、「布」「紙」のメリットデメリットや「何を大切にしたいのか」など考えあってみました。

結論は「それぞれにメリットデメリットはある。今は家庭でも紙が当たり前。布にこだわるのではなく、紙であっても丁寧に排泄に寄り添う保育をしながら実践の交流もしていこう」ということでした。

令和5年度1歳児クラス16名。令和6年度1歳児クラス18名。(北所沢保育園では0歳児保育は実施していません)この2年間の実践です。実践しながら担任間、職員全体で子どもの姿や気づき、悩みも共有していくことを大切にしていきました。

4月~5月は入園し、新しい環境に慣れることで精いっぱい。紙おむつで過ごしました。保護者には懇談会で綿パンツを用意してもらうことをお願いしました。

1歳児保育の中では、探索も保障しながらけがや事故のないように安全の確保も重要です。「パンツでおもらしがあったら人手がとられて安全が守れない」ということもあり、「今ならこの子はパンツでいいね」「今日は無理だね」「〇ちゃんと〇ちゃんはぱんつです」など無理をせず紙おむつに助けてもらいながら保育しました。外遊びの後は紙おむつがパンパンということも以前よりも気になるようになりました。

夏の水遊びの時期。子どもたちも保育園生活に慣れ、複数担任の保育士同士も連携がスムーズになってきて、一日の中でパンツで過ごす時間をつくっていきました。部屋の一角にはおまるを出しておき、いきたいときに行けるようにしておきます。

保育室の一角に並べたおまる。
保育室の一角に並べたおまる。

もちろん「おもらし」がたくさんあります。子どもたちはそれぞれいろいろな姿でした。はじめてのおもらしにびっくりして泣きだす子、足を伝って流れるおしっこをじっと見る子、ちょっと出して、別のところに行ってまた出して…と試すような姿の子…。この姿を見てその年の新人の先生が「おしっこと出会ってます~!」。本当に子どもたちは自分の身体から出るおしっこをびっくりしたり不思議そうだったりしながら五感で感じていて、この姿から「紙おむつではこの感覚を感じることができず、気にせず遊び続けるようになり、自分のおしっこを知らないんだ、出会ってないんだな」ということに気づきました。このころ、担任間で大切にしたことは、おもらしを「失敗」ではなく「喜び」で受け止めること。「きゃ~!おしっこでちゃった~!」ではなく「おしっこでたね~」「いっぱいでたね~!よかったね~」という関わりです。ここで、衛生面も話題になるのですが「出たばかりのおしっこは無菌」という事実を学び、「すぐ拭けば問題ない」ことがわかりました。

そうはいっても集団保育の中でのおもらし対応。保育室の環境設定や園庭遊びの時のおもらし対応の工夫はとても重要なことでした。保育室ではすぐとれる場所におしっこを拭くもの。それを入れるもの。園庭でのおもらしにすぐ着替えられる着替えセット、濡れた服を入れるバケツ…などなど少しでも大変にならないように、ポジティブに向き合うために工夫をしました。

暑い夏が過ぎ外遊び中心となる秋。体調が悪い子以外は日中はパンツで過ごすことを続けていきました。園庭でそれぞれ好きなところに行きしたいことをする探索活動が中心の1歳児。複数担任で連携を取りながら子どもたちの安全を確認しながら見守ります。みんな好きなところに行くので人数確認も常にしながら、おもらしがあると玄関にセットしてある着替えをします。このころは子どもたちはおしっこが出ると「チッチ出た!」と教えてくれたり、足を開いてじっとおしっこが出るのを見た後、保育士に目線で伝えたりとおしっこの報告が増え、保育士も出そうなときのサインがわかるようになっていきました。

秋から冬には「チッチデソウ」「今はデナイ」と自分の身体の感覚を言葉で伝えてくれるようにもなってきて、「ちっちでる!」と言ってからトイレまでおしっこをせず、トイレでジャーっとおしっこをするなどコントロールすることもできるようになっていきました。生活や活動の切り替えの時にトイレに誘いますが「デナイ」「行かない」ということもあります。担任間で「「デナイ」というときは本当に出ないかしたくないんだね。尊重して待ってみよう」と子どもを信じて尊重する関わりをするようになっていきました。そんな中で子どもたちは、自分の意思でトイレやおまるに行き排泄をする姿が増えていきました。おまるに出たおしっこやウンチを嬉しそうに見せたり「キイロー」「バナナ(とおんなじ色)」と教えてくれたり友達同士おしっこをのぞきあう姿も楽しそうでした。おもらしの時には「ちっちでたよ~!」と元気に叫んだり、保育士の真似をして自分で床を拭く姿も出てきました。とにかくおしっこが出ることは「喜び」でそこに毎日「喜びのコミュニケーションがある」クラスになりました。一日に何度もある排泄。自分でパンツを脱いだり、好きなパンツを選んではいたり、今は紙パンツがいいと紙を選んだりとても意欲的な着脱の姿があり自分でできた誇らしげな表情がたくさん見られました。

そして、排泄にだけではない様々なことに対する意欲的な姿、自分で選ぶ、自分で決める姿も見せてくれるようになりました。それは保育士にとっても喜びであり、乳児であっても子どもを一人の人として尊重して関わるとはこういうことかと実感することにつながっていきました。

「排泄」に寄り添うことで、「子どもをよく見る、内面を感じ取る、それを受け止めて肯定的なコミュニケーションを繰り返す」「その中で子どもの安心感、大人との信頼関係を深める」「安心感と喜びの中で意欲的に行動できるようになり、自信や自己肯定感が育っていく」ということを子どもの姿から実感しました。これは乳児期に日々大切にしたいことです。

子どもたちの変化や成長を実感でき、「子どもの気持ちに寄り添えるようになり子どもとの関係が深まる」ことは保育士自身も喜びややりがいが大きくふくらむことであり、「毎日の保育が楽しくなった」「1歳児とこんなに心が通じるのは初めて」という保育士の言葉はとてもうれしいものでした。

このことは、保育園の中だけのとどまらず、保護者にも広がっていきました。楽しい保育や感動の場面は保護者に伝えたくなるもので、クラスだよりや日々の連絡ノートに排泄エピソードを書いて伝えました。保護者も感想を寄せてくれたり家庭での様子を教えてくれたりし、子どもの成長に保護者が驚き、喜ぶとともに家庭でできることは何かと考えたり、家でもやってみたいと言ってくる保護者が増えました。

そんな保護者とのやり取り、子どもの姿を共有しあい喜び合ったり笑いあうコミュニケーションは保育園と保護者の信頼を深めるとても温かいものでした。

「排泄に寄り添う保育」は大人主導のトイレトレーニングとは違って子どもが主体の排泄自立に向き合うこと。排泄にとどまらない乳児期に大切にしたいことが詰まっていました。

一方で、集団保育の中で「おもらし対応大変なのでは?」「ほかの子どもの安全守れるの?」「衛生面は?」「遊びの中断にならないの?」…いろいろな疑問や課題も出されました。一つ一つ考えていくことも保育の深まり、連携力の高まりになっていったと思います。

また、なかなかおむつが外れないということが社会問題になりつつあるとしたら、地域の中の保育園が「排泄」について悩んだときに相談できる場所になれるのではないか、とも思います。

39年の保育士人生の最後に「おむつ」について考えることから「排泄に寄り添う保育」を実践し保育の本質部分につながる学びを保育園の職員みんなで考えながら実践できたことは、とてもうれしいことであり宝物になりました。今後も「排泄に寄り添う保育から見えてきたこと」をいろいろな形で伝えていきたいと思います。

受賞の言葉

光本千枝

この度は、保育を振り返る機会をいただき、そしてこのような評価をしていただき大変うれしく光栄に思います。排泄に寄り添う保育を実践していく中で、「子どもが主体の排泄の自立とは」、ということを子どもが自分のおしっこやうんちと出会う姿から、保育士がたくさん気づかされ学ぶことが大きかったです。トイトレに悩む親子が増え、おむつはずれの年齢も年々上がっている現状。保育の中では紙おむつのサブスクも広がり、保育や子育ての中で紙おむつには本当に助けられ感謝すべきアイテムです。だからこそ、保育の中で「排泄に寄り添う」ということに向き合い、それを保護者や地域に発信していくことには大きな意味があるのではないかと思います。ともに悩み、喜び、子どもの姿を共有しながら実践をした園のすべての職員、そして保護者の方々に深く感謝したいと思います。

講評

審査員
今井和子(「子どもとことば研究会」代表)

初めてこの論文を読んだとき「これを3歳未満児に携わるすべての保育者に読んでもらいたい」と思いました。なぜなら、子どもたちに排泄の失敗が続くと保育者はついいらだちをぶつけたり、叱ったりすることがどの園でもあるからです。39年という長い保育経験を重ねられ、今、ようやくおもらしを「失敗」ではなく「おしっこでたね~。よかったね~」という喜びで受けとめるようになったこと、それによって子どもたちが意欲的になり自信や自己肯定感が育つ力になったことが述べられています。

また、「このことが排泄にとどまらない、乳児期に大切にしたいことが詰まっていた」とのことですが、その中身を具体的に記述してほしかったです。私は、それこそ「3歳未満児保育の柱である自発性の尊重ではないか」と思いました。

排泄というひとつの生活習慣の自立を大人主導のトイレトレーニングに扱ってしまうのではなく、子どもの自発性を養う力に促していくことで子どもの生活がよみがえることを見事に実践してくれました。

写真提供/所沢市立北所沢保育園

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