「語り」は難しくない! ポケットからおはなしを【こがようこの保育に活かすおはなしテクニック #1】
「語り」を「難しいもの」「古いもの」と敬遠してはもったいない!
子どもたちが「自分に話してもらっている」と感じられるのが、語り(素話)のよさ。保育園の先生たちがふだんしていることの、実は延長上にあります。
肩肘張らずに、まずは始めてみませんか。
(この記事は、『新 幼児と保育』2013年4/5月号に掲載されたものを元に再構成しました)
お話を聞いた人
こがようこさん
絵本作家・「語り手たちの会」理事
25 年以上にわたってさまざまな場所で「語り」を届ける活動を続ける。そのかたわら幼年童話・絵本の執筆、お話の小道具などの創作を手がける。主な著書に『保育に活かすおはなしテクニック』(小学館)、『わらべうたでひろがる赤ちゃん絵本』シリーズ(童心社)、『語りかけ絵本』シリーズ(大日本図書)など。
目次
語るって楽しい! 聞くってうれしい!
「語り」(声だけでお話を伝える)を聞く機会は最近少なくなりました。でも決して特別な行為ではないのです。子どもたちは今もお話を聞くのが大好きです。声をたてて笑いポカンと口を開け、聞き入る姿はなんともかわいらしい。気軽に自由に生活の一部として、保育に「語り」を取り入れてみませんか?
「語り」のよさって?
「語り」は絵本や紙芝居のように、間に入るものがないので、子どもの目を見て一人ひとリの心に直接お話を届けることができます。子どもたちも、保育者が「ぼくに」「わたしに」お話をしてくれていると感じ、両者の心が通い合うひとときともなるのです。
また映像がないので個々が自分の絵をイメージし、子どもの「聞く力」「想像する力」を育てます。
覚えるのが大変そう?
お話を覚えようと考えず、おもしろい話を聞いたから伝えたい、という気持ちで始めましょう。楽しいことがあったら人に話したくなるでしょう。そのお話のおもしろい部分、聞いたときの楽しかった気持ちが伝わることこそが大切です。昨日聞いたことを話す。今日あった出来事を話すのと同じ。つまり、日ごろ保育者がしていることの延長上に「語り」はあるのです。
以下に語りのテキストを用意しました。さあ、まずは語ってみましょう。
テキスト「いばりんぼワニ」
こが ようこ作
あるところに ワニが いました。
パックリ おおきな くちをあけ、
であったものを こわがらせるのが だいすきでした。
あるひ、ワニが ずるずる あるいていると、
ヘビに あいました。
ワニは、パックリ くちをあけてみせました。
「どうだ。おれさまの りっぱなくちと まっかなべろは。
おまえなんか ひとくちで パクリだ。 ファーッハッハッハッ」
ヘビは びっくり! にげていきました。
「あ〜あ、ゆかいゆかい」
ワニが ずるずる あるいていくと、
ライオンに あいました。
「どうだ。おれさまの りっぱなくちと まっかなべろは。
「おまえなんか ひとくちで パクリだ。ファーッハッハッハッ」
ライオンだって ビックリ! にげていきました。
「あ〜あ、ゆかいゆかい」
そこに、ピヨッピヨッ ヒヨコが きました。
「どうだ。おれさまの りっぱなくちと まっかなべろは。
おまえなんか ひとくちで パクリだ」
ワニは いちばん おおきなくちをあけて
わらってみせました。
「ファーッハッハッ…アッ!」
ところが あんまりおおきく あけたので、あごがはずれて、
くちが とじなくなりました。
「あぐあぐ…うぐうぐ…く、ぐるじぃ」
すると ヒヨコは、ピヨッピヨッピヨッ…
ワニの くちのなかに とびこんで、
ピヨッピヨッピヨッ…まっかな
べろのうえを とびはねて、
ピヨッピヨッピヨッ…
ワニの のどちんこを…こちょこちょこちょ。
「バハハハ…」ガクン!
わらったひょうしに はずれたあごは もとどおり。
…ワニは そっと くちを あけました。
ピヨッピヨッピヨッ…ヒヨコが でてきました。
それから ヒヨコと ワニは とってもなかよし!
…ともだちに なりました。
ポイント!
一字一句にとらわれることなく、自分のことばで子どもたちにお話を伝えましょう。
キーワードを頭に入れる
キーワードは5W1Hと決めゼリフでできています。
決めゼリフは
「どうだ。おれさまの りっぱなくちと まっかなべろは。
おまえなんか ひとくちで パクリだ。ファーッハッハッハッ」
まずはキーワードに沿って筋を頭に入れましょう。
声に出してみよう!
キーワードが頭に入ったら、声に出してみましょう。声に出してくり返しながら自分のテキスト、自分のお話に再構成していきます。頭の中に絵を描くようなイメージで話せるようになれば大丈夫! まずは語ってみることが大切です。
あなた自身の「いばりんぼワニ」を、子どもたちにぜひ語ってくださいね。
絵/こが ようこ 撮影/茶山 浩