ビジュアル式指導計画のすすめ【幼保連帯型認定こども園・かもめこども園の月案から】
指導計画の共有化にひと工夫。かもめこども園(石川・金沢市)では子ども一人ひとりがその子らしく育つことを願いチーム保育で、工夫し、考え合う教育・保育を実践しています。指導計画の作成時に吹き出しや矢印を用いて図式化する「ビジュアル式」もそのひとつ。ここでは、その一例をご紹介します。
目次
指導計画の一部を可視化
「子どもの遊びのつながり」を重視するかもめこども園では、ある体験での感動が次の遊びにつながったり、ひとつの遊びが子ども同士をつないだり、といった広がりを目に見える形にできないか議論しました。平成27年のことです。
そこで出てきた案が、指導計画の一部を可視化し、図や矢印を使って表現してみることでした(下図参照)。実は、それ以前から、1・2歳児の場合、月案で週ごとに大きな変化がない場合は、〝ここまで同じ〞という意味合いで、矢印を引っぱるのが通例になっていました。図式化の前身です。
図式化といっても作図の方法について既存の何かを参考にしたわけではありません。月案作成担当者がまず自分なりに見やすさを考えながら作ります。いったん書き上げた原案は、先生同士のミーティングで意見交換し、異なる視点からの提案があったり、線や吹き出しが追加されたりして、より見やすい形にしていきます。当初はまちまちだった作図のルールも何度か試行錯誤を重ねるうちに、共通の作り方が出来上がってきました。
1歳児「8月の指導計画案」(平成29年)
ひと目で見通せる利点
図式で指導計画を作成してみると、先生たちにとっても「わかりやすいね」と好評。従来の月案に比べ、大事なポイントだけを抜き出した現在の月案の図式(下の「8月の指導計画案」)は、1か月を見通した全体像がひと目で把握しやすくなりました。保育者間の情報の共有化が図られるうえ、遊びから導き出される子どもの姿が、よりイメージしやすくなったそうです。
子どもの姿 浮き彫りに
園では、月末にカリキュラムミーティングを設け、月案を検討します。この場で月案作成担当者が原案を提出し、園長や副園長、主幹教諭も加わって、現場の先生たちと意見を交わします。ビジュアル式指導計画案を作りながら子どもたちの〝いま〞の姿が生き生きと浮かび上がっていきます。
若手が意見を出しやすく
「ビジュアル式」がもたらしたもうひとつのメリットとして、ミーティングで若手の先生が意見を出しやすくなりました。月案の原案を見て、「ここに矢印を引っぱってはどうですか?」「これもつながりますね」といった提案が以前よりも気軽に出されるようになったそうです。
業務の省力化にもつながる
日案や週案を細かく記述しなくても、先生たちが常に連携を取り合っていれば、不都合はないというのが園の考え方です。計画どおりに子どもを当てはめるのではなく、子どもたちの〝いま〞の姿をよく見つめ、そこからどんな環境や配慮が必要なのか考えていくことを重視しています。
現在、園では3歳未満児は月案だけで、日案と週案はありません。3歳以上児は、日案と週案を一緒にした週日案を図式化し、月案は従来どおりの方法で作成しています。
日案や週案の作成に追われる保育現場の多忙さも「図式化」を後押しした要因のひとつです。「保育者自らが保育を楽しむためには業務の省力化が必要」と園長先生が決断し、踏み切りました。指導計画の「図式化」に取り組み始めて、1年余り。図式の共通ルールやレイアウトの仕方など、いまなお試行錯誤を続けています。
1歳児「9月の指導計画案」(平成29年)
可視化する指導計画を作成する意味
今井和子 先生
「子どもとことば研究会」代表
かもめこども園では、3歳未満児チーム、3歳以上児チームに分かれ、子どもたちの実態を皆で語り合い図式化することから指導計画作りを始めています。「昨日、S君がこんなこといってたわ」「K子ちゃん、いままでに見られなかったおもしろい遊びを考えついてやっていたわ」「M子ちゃん、弟が生まれ、お母さんが実家に帰っているから元気がないみたい」など、保育者の気づきを子どもの成長に位置づけ、そのまま指導計画に図式化することで誰からも見やすく、子どもの姿を共有し合うことができます。
指導計画が日常の子どもたちの姿と結びつき、気楽に書き込めるという利点、さらには図式化し、読み取りやすくすることで子どもの育ちに、より大きな関心が寄せられていきます。その過程の中に、「保育という仕事に対する喜び」がふくらみ、チームで保育しているという連帯感が養われていくことはいうまでもありません。
文/エディット(古屋雅敏、中根里香、小川真美)
『新 幼児と保育』2018年4/5月号より