前田まゆみさん「じゃりっぱ」【表紙絵本館】

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『新 幼児と保育』2019年4/5月号 表紙

『新 幼児と保育』は、毎号絵本作家さんの描きおろしの絵が表紙となっています。表紙を飾った絵本作家さんの幼年期のエッセイを紹介していきます。今回は、前田まゆみさんです。

「じゃりっぱ」

2~3歳くらいのころ。家の近所(当時は神戸市)で母の手作りの洋服を着ています。

子どものころ、近所の広い空き地でよく遊んでいました。「じゃりっぱ(砂利場)」と呼んでいたその空き地は、文字どおり資材置き場でした。有刺鉄線の破れ目をくぐって入り、積んである砂利や石の山にのぼったり、地面に穴を掘ったり、生い茂るネコジャラシで野良猫をじゃらしたりしていました。

おとなになって、その場所をもう一度訪れたことがあります。

じゃりっぱは、まだあるかな? ドキドキしながら角を曲がると、なんと、目の前にあったのは、りっぱな児童公園。その敷地はそのまま、ブランコやベンチがあり、大きな木が植わっている公園に姿を変えていたのです。

不思議なことに、複雑な気持ちでした。「さあここで遊びなさい」と迎えてくれる児童公園は、むかし感じたあのわくわく感がなくなった気がしたのです。

それはぜいたくかもしれません。あとかたもなく建物に姿を変えているよりは、遊び場として残っていたことはうれしいことです。でもやっぱり、心の中に錆びた有刺鉄線と風に揺れるネコジャラシの茂みの記憶が強く残っています。

「ほんとうは入ってはいけない場所」で遊ぶ毎日が、いつもちょっとした冒険だったからかもしれません。

前田まゆみ(まえだ まゆみ)

兵庫県生まれ。神戸女学院大学英文科卒。大学生のとき洋画家の杉浦祐二氏に師事。1994 年ごろから作家活動を始める。絵本では『野の花えほん』『いきもの図鑑えほん』(以上、あすなろ書房)、『野の花ごはん』(白泉社)など多数、翻訳絵本に『なんでも おんなじ? -ふたりは ともだち-』(フレーベル館)などがある。京都府在住。

『新 幼児と保育』2019年4/5月号より

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