齋藤 槙さん「ミシンの音を聞きながら」【表紙絵本館】

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『新 幼児と保育』は、毎号絵本作家さんの描きおろしの絵が表紙となっています。表紙を飾った絵本作家さんの幼年期のエッセイを紹介していきます。今回は、齋藤 槙さんです。

ミシンの音を聞きながら

5歳くらい。祖母の足踏みミシンの前で大好きなぬいぐるみ「じゅりちゃん」を抱えて。

かたたん かたたん かたたん かたたん…。

祖母の足踏みミシンの音がここちよくリズムを刻む。ときおり母のレッスン室からは、エレクトーンの練習をする音が聞こえる。幼少期の私は、この音のそばでぬいぐるみと遊ぶことが大好きな子どもだった。

一人っ子の私にとって、ぬいぐるみは大切な友達。それぞれのぬいぐるみの性格を思い描く。ぬいぐるみとのコミュニケーションもばっちりとれていたような気がしていた。たくさんのぬいぐるみにうずもれている私を見て、母は少々心配していたようだったけれど、ぬいぐるみたちとの時間は私にとって至福の時間だった。包み、包まれ、許し、許される。そんな時間だった。その感覚は、いまもあたたかいものとして私の大切な幼少期の思い出になっている。

もうひとつ、好きだったことがある。それは、宝石の載っているチラシを切り抜いて「宝石屋さんごっこ」をすること。当時はバブル景気で、頻繁に宝飾品のチラシが新聞に折り込まれていた。そのチラシを取っておいて、これと思った宝石の輪郭を丁寧に切りとり並べる。

気に入った宝石が両面に重なって印刷されているときなどは、非常に苦悩した。どちらかを切れば、どちらかを諦めなければならないからだ。

きらめく宝石が印刷されているツヤツヤの紙が、「私の財産」という感覚があった。母に聞けば 、2歳くらいからこの趣味は始まったそうで、つい最近も宝飾品のチラシを見つけたので切り抜いて手帳にコラージュしてみた。やっぱりワクワクするものだ。

いまの私が頻繁に貼り絵の技法を使って絵を描くようになったのは、もしかすると、この「宝石屋さんごっこ」がルーツになっているのかもしれない。

齋藤 槙

さいとう まき●1981年東京生まれ。東京都在住。武蔵野美術大学造形学部日本画学科卒業。大学在学中から絵本作りを始める。主な絵本作品に『ぺんぎんたいそう』『ながーい はなで なにするの?』(福音館書店)、『ひょうたんれっしゃ』(アリス館)、『おひさま でるよ』(ほるぷ出版)など。

『新 幼児と保育』2020年8/9月号より

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