庄野ナホコさん「れんげ草とドリトル先生」【表紙絵本館】

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『新 幼児と保育』は、毎号絵本作家さんの描きおろしの絵が表紙となっています。表紙を飾った絵本作家さんの幼年期のエッセイを紹介していきます。今回は、庄野ナホコさんです。

れんげ草とドリトル先生

5~6歳のころ。近所の畑でれんげ草を摘んでいるところ。

子どものころ、春の花といえば桜ではなくて、れんげ草だった。畑の地味(ちみ)を肥やすためにまかれた種が、濃いピンクの花をいっせいに咲かせるのだ。

柔らかいれんげ草のじゅうたんに足を踏み入れ、好きなだけ花を摘むのは、なんとわくわくすることだったろう。

そのころ住んでいたあたりは、道路も未舗装で、水田も多く、少し歩けば小さな山もあった。父に連れられ、犬をお供に長いお散歩に出かけるのが楽しみだった。春であれば、散歩の途中でれんげの花を摘んだのだ。

戸外の楽しみの鮮やかな思い出がれんげ草だとすると、家での楽しみは、何だったろうか。絵を描いたり、お人形遊びをしたり。

でも一番の楽しみとして覚えているのは、『ドリトル先生』だ。ロフティングが文と挿絵をかき、井伏鱒二(と石井桃子)のすばらしい訳で日本に紹介された本。このドリトル先生のお話を毎日母に読んでもらうのが楽しみで、続きをせがんで忙しい母を困らせたようだ。

この初めて会った「物語」というものが、あまりにもおもしろくて、字が読めるようになったらすぐにドリトル先生全巻を読んだ。何度も何度も読んだ。子どもには少し難しい言葉も出てきたが、いかにもドリトル先生の世界に合っていて、意味がよくわからなくても十分楽しめた。

ロフティングの挿絵もとてもよかった。挿絵というものを意識したのも、このころだと思う。今に続く読書という人生の大きな楽しみを得たのが、この『ドリトル先生』だった。遠い子どものころのぼんやりとした記憶の中で光る、れんげ草と本についてのお話でした。

庄野ナホコ

しょうの なおこ●イラストレーター、絵本作家。中央大学卒業。東京都在住。絵本作品は、『ルッキオとフリフリ おおきなスイカ』でデビュー(シリーズ計3作品)、『北極サーカス』(以上、講談社刊)、絵本の挿絵には『[現代版]絵本 御伽草子 鉢かづき』(青山七恵文、講談社刊)、『二番目の悪者』(林 木林作、小さい書房刊)などがある。

『新 幼児と保育』2019年12/1月号より

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