保育の指導計画の基本的な考え方と作成のポイント【3・4・5歳児編】
保育の指導計画(指導案)の基本的な考え方と、作成の留意点について説明します。子どもと子育て家庭のよりどころである園への親しみと信頼を増し、子どもの喜びにつながっていくように。指導計画に基づく保育実践の目的は子どもの幸せにあることを、改めて確認しましょう。
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目次
保育への期待と要望
保育への期待は年々高まっています。保護者の期待と要望も多岐にわたり、保育園や認定こども園などの役割と機能が拡大しているといえます。例えば、ベテランの保育者には生活者としての経験や知恵を含めた保護者へのきめ細やかな対応が求められ、若い保育者には子どもと一緒に思いきり遊び、さまざまなことに挑戦する意欲を引き出すといった役割が期待されるでしょう。
また、家庭的で温かな保育室の雰囲気や保育者の穏やかな対応に安心感を得る保護者もいます。一方、さまざまな活動を通してもっと子どもの能力を伸ばしてほしい、幼児教育をしっかり行ってほしいと願う保護者もいることでしょう。
さらには、仕事と子育てに奮闘する母親の気持ちに寄り添うことが必要です。障がいのある子ども、医療的ケアを必要とする子ども、外国籍の家庭など個別の対応がより必要なケースが増えています。育児に不安を抱く保護者や他機関との連携が必要な場合もあるでしょう。一人ひとりの子どもや保護者の状況を把握し、担任がひとりで抱え込まず、園全体で支援していくことが大切です。
指導計画にはこうした保護者や家庭の状況が踏まえられていることや、保育への期待に応えていくといった面があるといえます。子どもと子育て家庭のよりどころである園への親しみと信頼が増していく、そしてそのことが子どもの喜びにつながる。指導計画に基づく保育実践の目的は子どもの幸せにあることを改めて確認したいと思います。
保育に求められる今日的役割
保育所及び幼保連携型認定こども園は児童福祉法に基づく児童福祉施設のひとつであり、乳幼児の「福祉を積極的に増進する」という役割を担ってきました。保育指針にあるように「子どもの人権に十分配慮」し、「子ども一人ひとりの人格を尊重」することは保育の大前提であり、保育者の倫理観や人間性が常に問われます。「養護」を土台にした一人ひとりの子どもへのきめ細やかな対応や子どもの命を守ることの責任がさまざまに求められます。また、公的な施設として保護者や地域社会等に保育の内容やその意図を説明したり、子どもの最善の利益を考慮した保育を発信していかなければなりません。
一方、保育所や認定こども園は子育て支援を担う施設として、保育の専門性を生かした相談・援助等が行われています。保育施設の子育て支援は広く地域に根づき、信頼を得てきたことでしょう。さらに、地域の関係機関との連携を厚くし、保護者や地域の子育て力の向上に寄与することが求められるとともに、虐待防止に努めていくことが必要です。
さらに今日においては、幼児教育施設としての役割が求められます。指針・要領に規定された「幼児教育を行う施設として共有すべき事項」を踏まえ、指導計画とこれを踏まえた実践を通して子どもの何が育ったのか、どのような学びがもたらされたのかなどを言語化、可視化していくことが必要です。また、小学校に子どもの学びを受け渡していくためのアプローチカリキュラムや要録の作成が重要であり、小学校との連携を図っていくためにも欠かせません。小学校教育の前倒しではない遊びや環境を通して行われる乳幼児期の教育を再構築していくことが求められているといえます。
指導計画に基づく保育をふりかえる
保育は生ものです。天候にも左右されます。子どもの思いがけない行動により保育者の予想を超えて遊びが発展していくこともあります。あるいは、保育者の立てた計画通りには進まず、子どもたちの集中が途切れたり、時間切れになったりすることもあるでしょう。子どもの興味関心を十分すくい取れなかった、遊具の使い方や遊び方がしっかりと伝わっていなかった、スムーズに次の活動に移ることができなかった…。このような反省が次々とわき起こるのが保育現場であるといえるでしょう。
ときにはうれしい誤算もあるけれど、計画通りにいかないのはどうしてだろうと悩むこともあるでしょう。だからこそ計画は必要なのです。なぜ集中できなかったのか、遊具や教材は足りていたか、子どもの発達に見合った活動だったか、子どもの動線を考慮した環境構成になっていたかなど、実際の子どもの姿から学びます。それは、保育のプロセスを大事に、見通しを持って保育を進めていこうという計画があってこそできるふりかえりです。計画と実際の保育との重なりやズレを考察することが保育者の力量を高めていきます。
ふりかえり〜自己評価が保育の専門性を高める鍵であり、このためにも指導計画に基づく実践を丁寧に行い、子どもと環境とのかかわり、子ども同士のかかわり等をよく観察することが必要です。また、指導計画と照らし合わせて保育の自己評価を行う際、子どもの育ちをとらえる視点と自らの保育を捉える視点の両方を持って省察することが求められます。
保育の計画(全体的な計画・年間指導計画・月間指導計画)について
ここに掲載されている4月から3月まで1年分の月間指導計画は、各園の年間指導計画に基づき、各月の具体的な保育実践を示したものです。入園、進級を迎える4月から卒園、進級を控える3月までの1年の間に子どもが経験する保育の内容が、四季折々の自然環境や行事などを取り入れて簡潔に記されているのが年間指導計画であり、園生活の一年を見渡せるものとなっています。この1年を各月に分けて、より具体的にねらいや内容を定め、環境構成を考え、展開していく保育の見取り図が月間指導計画です。
年間指導計画や月間指導計画を作成するうえで重要なことは、園の全体的な計画(保育課程)を十分に踏まえることです。年間指導計画が4月から3月までの海図のようなものだとすれば、全体的な計画(保育課程)は、入園(0歳)から卒園(6歳)までの子どもの成長の道筋と保育内容の海図であるといえます。また、指針に示されている保育の基本を踏まえ、各園の保育目標や保育内容を定め、保育の全体像を描き出していくことが求められます。全体的な計画(保育課程)と年間指導計画及び月間指導計画のつながりや連動を十分に踏まえ、特に月間指導計画においては一人ひとりの子どもの発達過程や状況を考慮し、子ども主体の保育を展開していくための環境構成をしっかりと書き込むことが重要です。また、子どもの生活全体を視野に入れながら保育者の養護的なかかわりを充実させていきます。
育ちと学びの連続性を踏まえて
子どもの成長は目覚ましいものがあります。年度末に4月から3月までの指導計画にある保育のふりかえりや自己評価の欄を4月から12か月分並べてみるとよくわかります。自分たちの保育の歩みとともに子どもの成長の軌跡が見えてくるはずです。
一方、例えば、3歳児クラスの子どもは、4月時点で2歳児の面影を残す3歳になったばかりの子どもと、4月生まれなどすぐに4歳になる子どもとが一緒にいます。こうした個人差を考慮するとともに、4月時点では2歳児の指導計画との連続性、3月時点では4歳児クラスの指導計画とのつながりを見ていくことが求められるでしょう。
さらに年長児においては4月1日時点では全員が5歳ですが、4月生まれなどはすぐに6歳になり、3月になると来月7歳になる子もいます。こうしたことを踏まえ、少し先を見越した計画を立てたり、保育における学びの観点や就学への期待を指導計画に反映させたりする必要があります。実際には小学校教員との情報交換や学び合いによりアプローチカリキュラムを作成したり、小学校教員のスタートカリキュラムの作成を助けたりすることもあるでしょう。保育と学校教育の橋渡しをする意味でも保育者と教員が「育みたい資質・能力」及び「育ってほしい10の姿」を共有し、幼児期から学童期にかけての育ちの方向性を把握し、子どもへの理解を深めていくことが必要です。指導計画の作成においてもこうした観点を持って子どもの育ちと学びの連続性を意識していきます。
指導計画作成の留意点
指導計画を作成するためには、保育の目標とねらい、内容、内容の取り扱い及び配慮事項や環境構成等のつながりを考慮しなければなりません。保育指針に規定されている保育の目標(養護と5領域の目標)が、ねらいや内容のどこにどうつながるのかを確認しましょう。
図❺にあるように、保育指針第1章にある保育の目標の(エ)が環境の領域の目標です。この目標を達成するための環境の領域のねらいが第2章にある3つであり、どの項目も子どもの自然体験と関連があります。これらのねらいを達成するための内容が指針では12項目示されていますが、このうち、たとえば自然体験にかかわる内容は主に①③④⑨⑩⑪の6つと考えられます。これらの内容を実践する際の保育者の心構えや留意点として内容の取り扱いが3項目ありますが、このうち、自然体験において必要とされるのは②と③です。この内容の取り扱いと配慮事項を関連させて保育者の援助やかかわりを具体的に記していきます。また、保育を展開していくための環境構成をしっかりと書き込みます。
このように保育を構造的にとらえ、実践を見通していく力が保育の専門性であり、それは指導計画において特に重視されます。指導計画自体の連続性を踏まえ、保育の改善や工夫に結びつけることが必要であるといえます。(天野珠路先生)
『3・4・5歳児の指導計画 保育園編【改訂版】』(天野珠路 先生・監修)より抜粋
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