実は危険が潜んでいる! 保育中の散歩の時間
「あなたの園では、なぜ散歩に行くのですか?」
そう問われたら、どう答えますか。
散歩中は交通事故に遭う危険性があります。子どもを公園などに置き去りにした事案も多数報告されています。散歩を安全に行うにはどうしたらいいでしょう?
子どもの安全に詳しいジャーナリストであり、幼稚園・保育園の副園長も務めていた猪熊弘子先生に話をうかがいました。
お話
猪熊弘子先生
駒沢女子短期大学教授、ジャーナリスト。元・明福寺ルンビニー学園幼稚園・ルンビニー保育園副園長、Yahoo!ニュース個人オーサー。『死を招いた保育』(ひとなる書房)で日本保育学会日私幼賞・保育学文献賞受賞。近著に『重大事故を防ぐ園づくり』(ひとなる書房/共著)などがある。
目次
「どうして安全な園から子どもを外に出すのですか?」
中国の保育園関係者が来日して交流したとき、
「日本の保育園では散歩によく行くんですよ」
という話をしたら、
「子どもたちが安全に過ごせるように保育園があるのに、どうして危険な外に連れ出すのですか?」
と言われてはっとしました。それまで外に出ると危険、という認識はありませんでしたから。
中国の保育園関係者によると、中国の保護者は誘拐を警戒して、園の外では常に子どもと手をつないでいるそうです。日本では、公園の中ならば子どもから手を離して遊べるようにするのが普通だし、地域の方は「子どもたちを見守ってくれる人」という認識が一般的だと思いますが、確かに100%安全とは言い切れません。保育園児が散歩の途中で交通事故に遭ったり、崖で道を踏み外して落下し重傷を負ったりした事故もありました。故意に子どもに危害を与えようとする人が現れる事件が起こらないとも限りません。
ほとんどの保育園・こども園で、保育に「おさんぽ」が組み込まれていると思います。園庭がない保育園はもちろんのこと、大きな園庭がある保育園でも散歩に行っていますよね。散歩は幼稚園にはほとんどない、保育園・こども園の特徴的な活動です。いつから、どういう経緯で保育園での散歩が始まったのか知りたいと思い、いろいろ文献に当たってみたのですが、わかりませんでした。
散歩の目的をはっきりさせて、散歩の仕方を見直す
危険な目に遭うかもしれない中で散歩をするならば、リスクを上回るメリットがなければ子どものためにならないし、保護者にも説明ができません。まずは散歩の目的を明らかにしましょう。そして、目的を達成するために、目的とは関係のない部分のリスクを排除しましょう。
たとえば、「公園で自然を観察する」「公園の魅力的な遊具で遊ぶ」などの目的を設定したとしたら、公園に行くまでの道のりは「目的とは関係のない部分」ということになります。いつも交通量の多い道を歩いていっていたとしたら、交通事故のリスクを減らすために特に乳児はお散歩カートを利用してもいいのではないでしょうか。「歩いていけば、体力づくりにもつながってよい」という意見もあるかもしれませんが、体力づくりを目的とする活動は、安全な園庭や遊戯室でできないか?と、検討してみましょう。
あるいは「5歳児が交通安全を意識する機会をつくり、社会性を養う」という目的であれば、歩いていくことに意味があります。道路を歩いていく場合、子どもの安全を守るためには保育者の人数は通常の配置基準プラスアルファ必要です。「もし車が突っ込んできたら……」「もし不審者に遭遇したら……」と起こり得るリスクを想定すると、ひとりの保育者が30人の子どもに対応するのは無理があります。
散歩のルートもリスクを減らすという観点で精査しましょう。歩行者用の白線が引かれていないような細い道を通るのは危険です。ただしガードレールが設置されていれば安心とも限りません。ガードレールがあるということは、交通量が多いという意味でもあります。
子どもが安全に歩ける道になるように、保育者ができること
「横断歩道がない場所を横断せざるを得ないけれど、危険を感じる……」。そんなときは、地元の警察にかけ合えば横断歩道を設置してくれることもありますよ。さらに横断歩道を渡るときのために、横断旗(小学生のために、交通安全週間のときなどに使われる黄色い大きな旗)を購入するのもおすすめです。
子どもたちの安全な散歩のために、積極的な行動を!
文/佐藤 暢子 イラスト/上島 愛子