「晴れ」じゃなくても遊びに夢中!~各園の「雨の日保育」をレポート
雨の降る日が多くなるこの時期、日々の活動はいつもとどのように違うのでしょう? 気になる「雨の日の保育」の様子を、聞いてみました。
目次
雨の日散歩はワクワクがいっぱい!
カッパを着て、長靴はいて。少しの雨なら、お散歩はいつもどおりに。雨の日には雨の日にしか体験できないことがあります。
こどもの王国保育園(東京・豊島区)
自然の恵みの「雨」をとことん楽しむ6月
自園の所有するファームで野菜や米を栽培するなど、自然に親しむ体験を大切にしているこどもの王国保育園。「雨は自然の恵み」と考えて、雨の多い6月のこの時期を、特に「雨を楽しむ月間」と位置づけています。
少しの雨ならカッパを着て、いつもどおりにお散歩へ。見慣れている道も、雨の日はいつもとは違う景色に見えます。 子どもたちは、雨で濡れた花を観察したり、排水溝に流れる水をじーっと観察したり。
「ここだと、雨が降ってこないね」
と、大きな木の下で雨宿りをしてみることもあります。雨の日の散歩には、いつもとは違う「雨の日ならではの楽しみや発見」がたくさん詰まっています。
ある日のこと。水たまりに入って楽しそうな友達を見て、1歳児のAちゃんがおそるおそる水たまりに入りました。こんなとき、保育者はつい止めたくなってしまうのですが、子どもたちが興味を持っているときにはぐっとガマンです。
お気に入りの靴がすっかり濡れて、なんだか困り顔のAちゃん。水に濡れると冷たい、靴が濡れると気持ち悪い……こういうことも体験を通して知っていきます。Aちゃんは困り顔をしながらも、バシャバシャと足踏みをして、泥の感触を何度も確かめていました。
福井保育園(高知・高知市)
雨降る森でいつもと違う自然と出会う
保育園の近くに、鴻ノ森(こうのもり)という山があります。子どもたちは園外保育で鴻ノ森に行き、花や草木、生き物など、さまざまな「自然」に触れて過ごします。
小雨程度であれば、カサを差して出かけることもあります。雨の日に外で活動をすることは少ないので、子どもたちもワクワクしながらの出発です。
森の中は、晴れの日と雨の日では様子が変わります。日差しが届かないため、森はいつもよりも薄暗いのです。
「ちょっと、こわい……」
日ごろから森の風景を見慣れている子どもたちは、雨の日の森の様子がいつもと違うことを敏感に感じとります。いつも水が流れていない側溝に雨水が勢いよく流れているのを見つけた子どもたちが、とってきたばかりの葉っぱを流してみては「速い、速い」と喜んでいます。雨が降ると多く出現するカンタロウミミズ(シーボルトミミズという大型のミミズ)を見て、歓声や悲鳴があがりました。勇敢にも、カンタロウミミズを捕まえる子どもたちもいます。
いつも行き慣れている森ですが、雨の日には雨の日にしかできない経験や発見があります。
園の中に「楽しい!」を作る・見つける
園の中が楽しいことに満ち溢れていれば、外にどしゃぶりの雨が降っていたって子どもたちは遊びに夢中! です。
たけのこども園そら分園(兵庫・神戸市)
外に行けない日にも室内で ”園庭遊び“を
たけのこども園そら分園では、0歳児(12名)・1歳児(18名)の子どもたちが生活をしています。朝早くから長時間分園にいる子どもたちが、体や心を解放し、安定した生活ができるようにと日々願って保育をしています。
園庭がないため、晴れた日は近隣の公園に散歩に出かけたり、散歩車に乗ったり、保育者と手をつないで片道15分かけて本園の園庭まで出かけます。問題は雨が降っている日。外に行けないために、日課の流れが変わってしまうのです。
いつものように担当の保育者が動き始めると「おそとにいくんだね!」とばかりに、保育室の入り口に集まってくる子どもたち。外に行けないことに気づくと少し不安な表情を見せ、「いこう!」と外を指さします。保育室に粗大運動ができるコーナーがあっても、子どもたちは担当の保育者と戸外に行くことを楽しみにしています。
雨の日も、いつもと変わらない日課で過ごすことができないだろうか。そこで考えたのが、室内用の砂場を作ることでした。廊下にブルーシートを敷いて、衛生的で安全に配慮した素材を選び、狭いけれど室内用の砂場を作りました。
最初はおそるおそるさわっていた子どもたちですが、「ふわふわするね」「気持ちいいね」と保育者自らが遊んでいる姿を見せるうちに、「よし、さわってみよう!」と思ったようです。いまではスコップを上手に使って、バケツや容器に砂を入れて遊ぶようにもなりました。
室内では、砂を使った「感触遊び」のほかに、絵の具を使っての「ペタペタ塗たくり遊び」も楽しい時間。子どもたちが生き生きと自分を表現して過ごすことができるように、このような遊びを積極的に取り入れています。
保育園加賀のこども(東京・板橋区)
「雨」を感じるとっておきの場所
保育園加賀のこどもの乳児室には、戸棚の下部に透明のガラス窓があります。ここはハイハイ時期の子どもたちに人気の場所です。
ある日、外を見ていたKちゃんのとなりに、ひとり、またひとり。腹ばいになり、モコモコしたおしりを並べて、同じように外を見ていました。
天気によって、目に映るものの光り具合は違います。雨が降れば雨粒が見え、窓には水滴がつきます。水滴が窓をしたたり落ちるスピードも、雨の降り方によってさまざま。地面には水がしみこみ、いつもよりも黒くなっています。
自力で芽を出した草花が、自己主張しながら空に向かって葉を伸ばします。そうしたものを見ているのかなと思いつつ、そっと子どもたちの近くに行ってみると……。
子どもたちはガラスに顔をくっつけて、その感触を楽しんでいたのでした。
雨だから外を見ていたのだろう、と思ったのは大人の先入観。遊び上手な子どもたちに脱帽した瞬間です。
ピノキオ保育園(京都・京都市)
カタツムリさん、園内散歩をする
雨が続く6月。4歳児・らいおんぐみの子どもたちは、散歩先の公園で見つけたカタツムリに夢中でした。
毎日、世話をしているうちに、カタツムリの好物がニンジンだということや、殻の形が違うカタツムリがいることも発見しました。そのうちカタツムリに赤ちゃんが生まれ、子どもたちの間に、カタツムリへの興味や関心がどんどん広がっていきました。
保育室の中にダンボールのカタツムリハウスを作ったり、折り紙でカタツムリを折ったり。カタツムリの世界を多いに楽しんでいたころ、お弁当を持ってのミニ遠足の日がやってきました。その日はまた、地域の大きな公園へカタツムリを探しに行くつもりでいたのです。ところが、当日は、やっぱり雨…。
「雨なら雨でいいやん!」
子どもたちがいいだし、リュックを背負ってカッパを着て、カタツムリを探しに行くつもりで園内散歩に出かけることになりました。保育園のホールを公園に見立て、マットや長イスででこぼこ道や橋やトンネルを作ったのは、保育者のとっさのひらめきです。
子どもたちはいつもと違うお散歩にウキウキ。あっという間に「公園」の世界に入り込み、カタツムリになってニンジンを食べたり、カタツムリのように伸びたり縮んだりして、いつの間にか「カタツムリごっこ」で盛り上がっていました。残念ながらカタツムリは見つかりませんでしたが、「雨降ってても楽しかったな」と、大満足の園内散歩でした。
ひとつ屋根の下で…。子どもたちの関係が深まる時間
ひとつ屋根の下で雨上がりを待つ時間。いつもよりも活発になるのが、子ども同士の交流。ともに「育ち合う姿」が、そこにありました。
竹の子幼稚園(愛知・岡崎市)
異年齢交流で育ち合う季節
6月は、新入園の年少児(3歳クラス)も、ようやく園生活になじんでくるころ。食事の準備の手伝いをしてくれる年長児との関係もでき、異年齢クラスに出入りする姿も見られるようになってきます。雨で外遊びができない日が増え、園内のあちこちの部屋が、子どもたちの遊び場に。子ども同士の関係が特に深まりやすい時期ともいえます。
雨が続いたある日のこと。年少児ふたりが、兄弟や友達のいる年長クラスにやってきました。少し前にプレゼントでもらった「広告紙の棒で作ったメガネ」を作ってほしいというのです。
年長のKくんが、手慣れた手つきで広告紙を丸めて棒を作り、メガネに仕上げて年少児に渡しています。大喜びで自分のクラスに帰っていく年少児。子どもなりの口コミで瞬く間にうわさが広がり、年少児が続々とやってきました。
そのうち、ひとりの年少児が「作りたい!」といい始めました。失敗しながらも、根気よく棒作りに向き合う年下の子どもに、年長児がつきあっています。自分が年少のころも同じだったとは、きっと覚えていないと思いますが実は毎年、くり返されている光景です。
雨の日の保育室は、異年齢の子どもたちが、自然に育ち合うチャンスがたくさんあります。保育者は、「やってみたい」という意欲を気長に応援し、「してあげたい」というやさしさを見守ります。
年少児に対して、同年齢の友達には見せないやさしさを見せる年長児もいたりして、保育者にとっても、子どもを知る新しい手がかりがたくさん見つかる雨の日です。
雨が上がると、年長児が園庭に出て裸足でドロドロ遊びを始めます。それを見て年少児たちも、おっかなびっくり泥に足を踏み入れます。
北嶺町第二保育園(東京・大田区)
年上の子どもたちがなりきり動物園に3歳児をご招待!
全園児60名の「おうち」のような北嶺町第二保育園では、縦割り(異年齢交流)を盛んに行っています。特に年下の子どもたちには、上級児の影響を受けながら育っている姿が見られます。
3歳児が楽しみにしていた近場への遠足が、あいにくの雨で延期になってしまったある日のこと。残念がる子どもたちのために、4・5歳児が急きょ、1階の幼児室を使い、「動物園ごっこ」を始めてくれました。
子どもたち自身で話し合って決めたという「動物園ごっこ」は、4・5歳の子どもたち自らが好きな動物になりきって、飼育エリアに分かれるというもの。3歳児が見学したり、触ったりできるという遊びでした。
最後は、3歳児に「何の動物だったか」を当ててもらうクイズ形式のお楽しみも。遠足が延期となり、少しがっかりしていた3歳児の子どもたちも、思いがけず楽しい一日となったようです。
編集協力/鈴木孝子、菊地広子(子どもの文化研究所)
『新 幼児と保育』2019年6/7月号より