「鳴く虫」に関する絵本【児玉ひろ美のこだま文庫】

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JPIC読書アドバイザー

児玉ひろ美

ここは、みなさんの記憶の隅にある懐かしい1冊や気になりながらも読まないままの1冊、そんな本に再び出会うためのオンライン図書館です。今回は、「鳴く虫」に関する絵本を集めました。

児玉ひろ美 さん

JPIC読書アドバイザー、台東区立中央図書館非常勤司書。日本全国を飛び回って、絵本や読み聞かせのすばらしさと上手な読み聞かせのアドバイスを、保育者はじめ親子に広めている。大学にて「児童文化」を担当するなど、幅広く活躍。著書に『0~5歳子どもを育てる「読み聞かせ」実践ガイド』(小学館)。

「音じゃないよ声だよ!」

4歳児クラスのお話会の最中にM君の声が響きました。すると、隣にいたSちゃんが「♪ああ、おもしろい、むしのこえ♪ だよね」と歌います。ほかの子からも、「声だよね」、とっさに「そう、そうね。声にしようね」と、次からのくり返し場面では「おと」を「こえ」に読み替えてお話を読み進めました。幸い、最終ページの電子チップの虫の声が功を奏して、子どもたちからは拍手喝采を得ましたが、10年以上たった今でも印象的な『だんまり こおろぎ』に関する冷や汗エピソードです。

だんまり こおろぎ
エリック・カール/作 工藤直子/訳
偕成社・ボードブック

M君は周囲からも一目置かれた虫博士で、Sちゃんとは兄妹のように仲よし。そんなふたりの愛読書は『なく虫ずかん』で、毎夕お迎えを待つ時間になると周囲を巻き込んで「(虫の)声あてごっこ」をしていると、おはなし会のあと申し訳なさそうに先生がおしゃいました。

そういえば、打ち合わせの際「虫好きの子が多いクラス」と情報をいただいていたっけ…。そのことを思い出すとともに、もう少し詳しく踏み込んでお話をうかがわなかったことに、深く反省をしました。まさに、おはなし会の選書の基本の「き」、〈子どもを知ることが大切〉なのです。

「鳴いたら誰か、わかるのに」

なく虫ずかん
松岡達英/絵
篠原榮太/文字
佐藤聰明/音
大野正男/文
福音館書店

『なく虫ずかん』は本当に楽しい図鑑です。表紙画にもあるように、セミやコオロギなどなじみのある虫たちの鳴き声を特徴ある文字で表し、ページをめくるとその虫たちの姿が精緻に描かれています。その数55種。中には「声あてごっこ」に夢中になるあまり、虫はすべて鳴くと思い込んでしまった子もいて、Yちゃんはその夏、セミの抜け殻にまで、「鳴いてごらん、鳴いたら(あなたが)誰か、わかるのに。ほら、鳴きなさい!」と励まし(?)の声をかけていたそうです。

秋のおはなし会では前出の『だんまり こおろぎ』同様に、『したちのおんがくかい』も多く読んだ記憶がありますが、どちらも時を経て今なお、子どもたちに読み継がれている〈虫の声を楽しむ絵本〉の代表作といってもよいでしょう。『むしたちの〜』はシリーズ作にもなっています。

むしたちのおんがくたい
得田之久/文
久住卓也/絵
童心社

余談ですが、虫の音(ね)を「声」として認識するのは世界で日本人とポリネシア人だけとか…そんな話を昨年WEB上で見て以来、『だんまり こおろぎ』の作者のエリック・カールさんは「声」「音」「鳴く」を、どう綴っていらっしゃるのか、原書『The Very QuietCricket』で確認しようと思いつつ、そのままにしてしまっています。

「なく虫って泣くんじゃないんだね」

大人は疑問を疑問のまま持ち続けてしまいますが、子どもたちは「なに? なぜ? どうして?」を、心の中にとどめておくことはできません。『なく虫ずかん』の巻末にも、見開きで虫が鳴く仕組みを説明したページはあるのですが、読めば読むほど、M君はもっと知りたいと思ったのでしょう。その冬、「お年玉でもっと詳しい本を買いたいので、いろいろ見て選びたい」と、お父さんと一緒に図書館のカウンターに来てくれました。何冊か紹介した本を見比べたあと、「なく虫って、泣くじゃなくて、鳴くなんだね」と言いながらM君が選んだのは、科学のアルバムシリーズの『鳴く虫の世界』でした。一緒にいらしたお父さんもM 君ぐらいのころ、(旧版で)読んだ記憶があると、盛んに「なつかし〜」を連発しながら、親子で楽しそうに過ごされていました。

鳴く虫の世界
佐藤有恒/写真
小田英智/文
あかね書房

「泣き虫 毛虫 はさんで捨てろ!」

「泣くむし」といえば、この数年、何回か問い合わせがあった1冊があります。『なきむしおばけ』。2012年にペーパーバックで出版されて以来、待望されて2017 年にハードカバー化されました。お兄ちゃんに憧れる4歳児くらいの泣き虫くんちゃんの成がテーマの物語です。

なきむしおばけ
なかのひろたか/作・絵
福音館書店

そうそう、泣き虫といえば、私の幼いころはこんなはやしうたがりました。

「泣き虫 毛虫 はさんで捨てろ!」

弱者への差別や排除を助長すると、声高で一方的な主張に押されてしまったのでしょうか? 最近は耳にしなくなりました。でも、はさんで捨てるのは個としての特定の弱者ではなく、誰の心にもいる泣き虫おばけなのだと、この絵本を読むとよくわかります。

10月と11月のおすすめ絵本

『ハロウィン! ハロウィン!』

0歳から2歳向け

ハロウィン! ハロウィン!
西村敏雄/作
白泉社

[発展遊びができる]

たろう君と動物たちが身近な道具でハロウィーンの仮装をします。行事の意味がわからない0歳児さんでも楽しめるハロウィーンの絵本です。読み終えたあと(ビニール袋やトイレットペーパーでまねをするのは危険なので)、おばあちゃんのガイコツのお面をまねして、それぞれ好きなものに変身するお面を作るのも楽しいですね。

『ゆめちゃんの ハロウィーン』

2歳から4歳向け

ゆめちゃんの ハロウィーン
高林麻里/作
講談社

[行事を知る]

米国ニューヨークに住むゆめちゃんが、初めてハロウィーンに参加する物語ですので、準備から当日まで、子どもたちはゆめちゃんと一緒に、初めての行事を体験することができます。新しいことを始めたり、協力をして何かをつくりあげたりする楽しさや、自由に自分のなりたいものを考えるうれしさを一緒に味わいましょう。

『ハロウィンのランプ』

4歳から6歳向け

ハロウィンのランプ
小林ゆき子/作・絵
岩崎書店

[物語を楽しむ]

今日はハロウィーン。ジーナは「 クラスで いちばん こわいランプを つくろう!」と張り切りますが、先生は、サリーさんのランプを「クラスで いちばんだね!」とほめました。ジーナはおもしろくありません。その晩、サリーとの約束を破ってジーナが出かけていったパーティーは、本物のおばけのパーティーでした。さあ、ジーナはどうなってしまうのでしょう!

『ぼくのかぼちゃ』

異年齢向け

ぼくのかぼちゃ
かもがわ しの/作
こぐま社 1200円+税

[季節を感じる]

行事の絵本ばかりにならないよう、こんな本もおすすめです。とも君が庭の畑でお母さんと一緒にかぼちゃを育てます。春に土を耕し、つるがどんどん伸びて夏には大きな花が咲きました。やがて、ごろんごろんと大きなかぼちゃができました。「かぼちゃスープに かぼちゃプリン、かぼちゃの ケーキも たべたいなあ。ああ、たのしみ たのしみ…」。ところが…。

『新 幼児と保育』2018年10/11月号より

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