新年度を迎える時期におすすめの絵本【児玉ひろ美のこだま文庫】

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児玉ひろ美の絵本ガイド
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JPIC読書アドバイザー

児玉ひろ美

記憶の隅にある懐かしい1冊、気になりながらも読まないままの1冊、まだ出会っていない1冊。ここは、そんな本を見つけるためのオンライン図書館です。今回は、卒園、進級、新入学を迎えるこの時期にぴったりの絵本を集めました。

児玉ひろ美さん

公立図書館司書とJPIC(ジェイピック:一般社団法人出版文化産業振興財団)読書アドバイザーのふたつの立場から子どもの読書推進活動を展開。お話会の実践のほか、近年は大学にて「児童文化」「絵本論」の講義を担当。「2021・2022・2023年度ブックスタート赤ちゃん絵本選考委員」。著作に『0~5歳子どもを育てる「読み聞かせ」実践ガイド』(小学館)などがあり、雑誌やWEBでも活躍中。

「りっぱな!」ってどういうこと!?

「『りっぱな!』の 出ている本 どこですか?」

と、カウンターにやってきたのは4歳のMちゃん。「りっぱな?」と確認すると、「りっぱな!」と、なぜかご機嫌斜めです。遅れていらしたお母さんにお聞きして、納得。その日、お姉ちゃんの卒園式で聞いた「りっぱな1年生になります!」に刺激され「Mも、りっぱな…」といいかけたものの、その先がです。お姉ちゃんに「Mはまだ立派じゃないから…」といわれ、大げんか。そこでMちゃんの「りっぱな!」を探しに来館したとのこと。

4歳にして探し物を図書館でするなんて、将来の図書館ヘビーユーザー候補です。そんなMちゃんの期待に応えるべく、「立派って、これかな?」と、手渡したのは『おおきくなるっていうことは』でした。1999年から20年近く読み継がれている、幼い子の成長や園児さんの進級をテーマにした作品です。

『おおきくなるっていうことは』表紙
『おおきくなるっていうことは』
中川ひろたか/文 村上康成/絵
童心社
『おおきくなるっていうことは』中面

おおきくなるって いうことは ちいさなひとに やさしく なれるってこと

これこそ「りっぱな!」と、大人の私はそう思ってしまったのですが、Mちゃんの「りっぱな!」は、大きな目玉とダンゴムシでした。昨今、比べないという配慮から、「立派」や「上手」というほめ言葉を避ける傾向がありますが、子どもに限らず大人だってほめてもらうとうれしいものです。

○○より立派、上手というのではなく、立派になった、上手になったと、成長や努力を認めてあげることが大切だと思います。

お気に入りの「りっぱな!」を見つけ大満足のMちゃん、途端に、けんかしたお姉ちゃんが気になり始めたらしく、「お姉ちゃんは、りっぱな1年生になるんだよ」と、自慢げです。Mちゃんにとって、やはり自慢の大好きなお姉ちゃんなのですね。

そこで「これはいかが?」と『一年生になるんだもん』を手渡すと、満面の笑みで「お姉ちゃんはもう自分で本が読めるんだよ」と、手提げバッグに2冊を入れて帰りました。そういえば、いつの間にか、Mちゃんは手提げをお母さんに預けず、自分で持って帰路につきました。そのことにもっと早く気づけば「りっぱなMちゃん」とほめてあげることができたのに、残念でした。

『一年生になるんだもん』表紙
一年生になるんだもん
角野栄子/文 大島妙子/絵
文化出版局

「不安から憧れへ」

最近は、写真とイラストを使って楽しく読める科学(認識)絵本が、多く出版されています。『がっこうたんけん しょうがっこう だいずかん』も学校の中を楽しく案内する図鑑です。教室に始まり、体育館やパソコン室、保健室などの案内のほか、時間割や学校のルール、1年生の持ち物なども説明があり、学校への不安を憧れに変えてくれること間違いなしの1冊。知人の6歳と4歳のお子さんは、この図鑑を見て、ふたりで学校ごっこをしているそうです。

『がっこうたんけん しょうがっこう だいずかん』表紙
『がっこうたんけん しょうがっこう だいずかん』
WILLこども知育研究所/編・著
金の星社
『がっこうたんけん  しょうがっこう だいずかん』中面

「あなたは あなた あかちゃんだった あなたは からだと こころを ふくらませ
 ちいさな いちにんまえに なりました」

この季節、子どもにかかわる職業にある者は、子どもたちの成長のうれしさ半分、別れのさびしさ半分がありますね。招待状をいただきながら式典に出席がかなわないとき、先の『おおきくなるっていうことは』や『たいせつなこと』から文章を引用(必ず出典を明記することが必要)して祝電を送ります。

『たいせつなこと』は言葉も絵も美しく、小さな人はもちろん、中学生でも、読んであげたい1冊。読むときは、どうぞ時間をたっぷり用意して、朗らかに読んでください。読み手と聞き手、双方が心に刻まれる大切なひとときとなることでしょう。

『たいせつなこと』表紙
『たいせつなこと』
マーガレット・ワイズ・ブラウン/作 
レナード・ワイスガード/絵
うちだ ややこ/訳
フレーベル館

 「自分の思いや願いを 自信を持って伝えられる 親になりたい」

保育園の家庭教育学級で『たくさんのドア』を読んだ際、2歳児のお母さんから伝えられた言葉です。子育てにも仕事にも自信がなくて、子どもに対し毅然とした態度が取れないのが悩みとのこと。「焦らないで大丈夫。私もそうでした」とだけ、笑顔でお伝えしました。保育園に通う時間は育児と同時に育自の時間です。子育てと仕事の両立で、悩みながら乗り越えねばならないことはたくさんあるでしょう。そうして、子どもと一緒に親も育つのですから大丈夫。

この本は、しばらくの間版切れでしたが、望まれて重版。どちらかといえば、子どもより、学年最後の保護者会などで1年の感謝を込めてお読みになってはいかがでしょう? きっと素敵なプレゼントとなりますよ。

「たくさんのドア」表紙
『たくさんのドア』
アリスン・マギー/文 ユ・テウン/絵
なかがわちひろ/訳
主婦の友社

2月と3月のおすすめ絵本|テーマ「遊べる絵本」

0歳から2歳向け

『さわらせて』

「さわらせて」表紙
『さわらせて』
みやまつ ともみ/作
アリス館

貼り絵の優しい色合いの絵本です。「いぬさん ちょっと さわらせて」「いいよ せなか さわっていいよ」で始まり、ねこ、うさぎ、ひよこと、子どもの身近な動物のあとは、かめ、わに、ぞうが登場します。動物たちは、うれしそうに、さわっていい部分を「いいよ」とさわらせてくれます。一緒に声を出し、動物たちに呼びかけましょう。

2歳から4歳向け

『まほうつかい』

「まほうつかい」表紙
『まほうつかい』
いしかわ こうじ/作・絵
偕成社

「 りんごよ りんご。おおきくなあれ! でかでか どーん!」。魔法使いのコジモさんが呪文を唱えます。仕掛け部分を開くと「どーん!」と、驚きの展開が! 続いて、風船、髪の毛、ひよこ、くるま…何でも魔法をかけてしまいます。横に長く仕掛けが開きます。絵本の位置を変えないよう、持ち方などを練習しておきましょう。

4歳から6歳向け

『おうさまがかえってくる100びょうまえ!』

「おうさまがかってくる100びょうまえ」表紙
『おうさまがかえってくる100びょうまえ!』
柏原佳世子/作
えほんの杜

今日は王様がお出かけ、王様がいないのをいいことに、家来たちは王様の部屋で遊んでいました。ところが、大変!  王様があと100秒でお帰りになるのです。「100びょうでへやをかたづけろーー! ! 」「せーの!」。さあ、100秒で何ができるでしょう。一緒に100まで声に出して数えながら、部屋をおかたづけ。間に合うのでしょうか? 

異年齢向け

『アルパカパカパカやってきて』

『アルパカパカパカやってきて』表紙
『アルパカパカパカやってきて』
おおなり修司/文 丸山誠司/絵
絵本館

「 アルパカパカパカやってきてアルパカポカポカひるねした」「 カピバラバラバラやってきてカピバラズラズラならんでる」名コンビでシリーズになっている言葉遊びの作品です。ふたり掛け合いで読むのも楽しいのですが、一度読んだあと、子どもたちにくりかえしてもらうのも一案です。ビッグブックもありますので行事などでも活躍。

『新 幼児と保育』2019年2/3月号より

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