遊びから広がる共同製作

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ひとりの思いがみんなに広がったりそれぞれの思いがひとつにまとまったり。子どもたちがともに何かを作り上げるそのきっかけやプロセスは幾通りもあります。共同製作につながるヒントがいっぱいの3つの活動記録を紹介します。

1年かけて作り上げたペガサス組のオリジナル電車

RISSHO KID’S きらり(神奈川・相模原市)

ひとりの「やりたい!」から電車作りが始まった

3歳児クラスのとき、牛乳パックを使って立体的に電車を作ることを楽しんでいた4歳児・ペガサス組の子どもたち。ある日、ひとりの子どもが、「人が入れる大きな電車を作りたい」と、ダンボールで大好きな「小田急4000形」(小田急電鉄の通勤車両のひとつ)を作り始めたことから、この後、1年間続く電車作りは始まりました。小田急線沿線にある、きらりの子どもたちにとって、この車両はとても身近な存在です。

ダンボールで製作を始めた友達を見て、3人の子どもが「ぼくも電車作りたい」と遊びに参加。ダイナミックに着色を楽しむ。
よりわかりやすい「小田急4000形」の写真を用意すると、ライトの位置、小田急電鉄のマーク、行き先文字など、個々に作りたい部分を表現する姿が見られるように。このあと、「運転手さんが外を見られるように穴をあけよう!」という声があがり、ダンボールカッターでくりぬいて窓を作った。
保育者が電車を天井に吊るして飾ると、窓から顔をのぞかせながら運転手さんになりきって、ごっこ遊びを楽しむ姿が見られるように。

最新の小田急ロマンスカーを見て感動を共有

午前の戸外散歩中に、最新の「小田急ロマンスカーGSE」を間近で見ると、感動のあまり抱き合って喜ぶ子どもたちも。「4000形の横は、GSEにしよう」「いいね! 」「ぼくも一緒に作りたい」「赤と黄色の絵の具を混ぜたらオレンジが作れるよね」と対話が続き、午後にはGSE作りを開始。この日、喜びを共有した子どもふたりが遊びに加わりました。

硬いダンボールを切る作業は、友達と交代しながら取り組む姿が見られた。
できあがったGSEを4000形の横に吊るして飾ると、車内にいすを並べ、座席を再現して遊び始めた子どもたち。

乗車体験を経て内装、外装作りにもさらに熱が入る

園外活動の際に「小田急1000形」に乗車しました。本物に刺激を受け、「1000形の座席を作ろう! 」と数名が盛り上がる一方で、「絶対に8000形の赤い座席がいい!」という意見も。話し合いの結果、内装は1000形、もう片方の外装を8000形にすることで折り合いがつきました。

座席

乗車した車両をイメージして座席作り。男児の楽しそうな姿に刺激を受け、3名の女児が遊びに加わった。
座席のマットの模様は、通りかかった5歳児のアドバイスで針と糸を使って縫いつけることに。糸通しや分厚いマットを縫うことに苦戦したが、毎日コツコツ縫いつけて完成させた。

つり革

電車にかかわる人は子どもたちのあこがれ。防災用ヘルメットをかぶり、工事の人になりきりながらつり革作り。
一度完成したが、つり革の輪っかの向きが本物と違うことに気づき、ふたたび工事をしていた。

車内広告

「ペガサスの電車にはチラシがないよね。私が作ってあげる! 」と、女児のYがチラシを製作。興味を持っていたアイス、ドライフルーツ、山に関する絵と文字を描き、左上には小田急電鉄のマークも。
保育者がクリップを取りつけておくと、何枚もチラシを作ってつけ替えを楽しむ姿が見られた。

オリジナル電車が完成!

今まで作ったものを組み合わせたオリジナルの電車は、『わくわく&ハッピーSHOW(お遊戯会)』の劇遊びで演出に取り入れるなど大活躍。また、2月の成長展では、地域の電車好きが集まり「撮り鉄スポット」にも。専門的な知識を持った人たちから、「色の配合が完璧! 」「いすのすわり心地が最高! 」とほめてもらい、自信と満足感につながりました。

遊びのその後

たくさん遊び込んでボロボロになった電車は、子どもたちの発案で、ラストランをしたあとで解体することに。「解体したら、次の電車を作るためのパーツに使えるんだよ!」「博物館に展示するのはどう?」などと、次のことを考えてワクワク! 新たな遊びの発展にもつながっていった。

解体前のラストランごっこ。記念撮影をする子、アナウンスをする子、手を振って見送る子、乗客になる子も。
ラストラン後、工事の人になりきって解体を始める子どもたち。
5歳児クラスに進級し、ロフトの中に電車の博物館作りが始まった。この博物館は、いまも電車好きにとって最高のくつろぎ空間になっている。

活動をふりかえって

最初に電車作りを始めたときは、これほど長期的な遊びになるとは予想していませんでした。『本物を見て造形意欲が湧く↓自分の考えを友達と伝え合いイメージを共有する↓協力しながら作ることを楽しむ↓作ったもので遊ぶ』をくり返していくうちに、子どもたちにとって、とても大切なものになっていったのだと思います。工事の人になりきりながら製作を楽しんだあとは、おやつの時間に牛乳で乾杯をする姿も見られ、友達と喜びや達成感を分かち合う中で、絆がどんどん深まっているのだと感じました。

この活動で、保育者として大切にしていたのは、”やってみたい“と子どもが思う環境作りと、情報共有です。クラスのみんなが集まるお帰りの場では、必ずそれぞれのコーナーでどんな遊びを行ったのかを伝え合う時間を設け、さまざまな遊びに興味を持てるきっかけを作っています。また、自分の考えを伝えると同時に相手の考えを認めていってほしいという思いがあり、保育者も遊びに加わりながら、子どものアイデアを認める言葉かけを行いました。

意見のぶつかり合いやイメージの共有が難しい場面もありましたが、それも学びのチャンスととらえて、丁寧に見守っていく必要があるのだと保育者自身も学びました。

(今井美遥先生)

「画用紙をつなげて」異年齢グループで共同画にチャレンジ!

幼保連携型認定こども園 みどりのもり都田( 静岡・浜松市)

年長児のブーム「つなぎ絵遊び」に「年中さんも誘ってみない?」

隣り合った友達同士、自由画帳をぴったりと並べてひとつの絵を描く「つなぎ絵遊び」が年長児の間で盛り上がっていたある日のこと。

「年中さんも誘ってみない? 」

保育者の声かけに、4歳児と5歳児による共同画製作が始まりました。

今回は自由画帳ではなく画用紙を用意した。テーマが決まったら、最初につながる部分を描き込み、それぞれが自由に描いていく。
この日、子どもたちが描き上げた「つなぎ絵」。何をどう描くか、どうつなぐかはグループで話し合って決めた。年中児がまだあまり経験していない絵の具の使い方を、経験のある年長児が教える姿も見られた。
日常的に交流の機会を多く設けているため、異年齢混合のグループ作りもスムーズ。きょうだいで一緒になったり、気の合う子ども同士が集まったりして、子どもたち自ら声をかけあって4~6人ほどのグループに分かれた。
園のすぐそばを走る天浜線( 天竜浜名湖線)の車両。散歩で出会う大好きな電車をテーマに選んだ。遠くに見える山々、手前に揺れる稲穂……。描かれているのは、子どもたちが共有する風景。

遊びのその後

描き上げた絵を廊下に飾ると、見に来た年少児に絵の説明をする子どもも。年中クラスでは翌日からさっそく、つなぎ絵を遊びに取り入れる様子が見られた。

活動をふりかえって

食事のあと、4・5歳児は午睡はとらず、保育室で自由に絵を描いて過ごします。恐竜や虫など好きなもの、空想の世界、体験したことなど、描き出す世界はさまざま。その時間を過ごす中で、年長クラスの子どもたちの間で盛り上がっていったのが、自由画帳のつなぎ絵遊びです。「この遊びを4歳児と一緒にやってみてはどうか」と保育者間で意見が交わされ、この日の活動につながりました。

異年齢でひとつの遊びを経験する過程では、たがいに影響を受け合い、刺激し合う姿が見られます。年長児には遊びを伝える難しさもあったと思うのですが、どうやったら伝わるかを考え、かかわり合いながらひとつの絵を描き上げたという経験は、大きな自信にもなったのではないかと思います。年中児にとっては、「年長さんと一緒に完成させた」という達成感や満足感が、次の意欲につながったと感じています。

(山崎 惟先生)

みんなの「作りたい」を集結!「なんでも博物館」をオープン

白梅学園大学附属白梅幼稚園(東京・小平市)

それぞれの「作る」プロジェクトがスタート

数人の子どもたちがお店屋さんをしたり、ロボットを作って遊ぶなど、クラスの多くが「作る」ことに興味を持っていた6月。子どもたちに「お店屋」をやらないかと提案してみたところ、「やりたい!」という声が多く聞かれ、お店屋さん開催が決定しました。

「開店するときは一緒にやろう」とだけはっきりと伝え、子どもたちは自由に作りたいものを作っていきました。

ある日の活動から キャプテンマーク作り

ケイトが作りたかったのは、サッカー・ドイツ代表チームのキャプテンマーク。フェルトをうまくとめられずにあきらめかける場面もあったが、保育者も一緒に試行錯誤。ゴムを使う方法を発見し、国旗カラーは子ども自身が考えてビニールテープで再現した。イメージどおりのキャプテンマークが完成し、その後、ほかの子どもたちの間にも、キャプテンマーク作りが広がっていった。

ある日の活動から 腕時計作り

「腕につける時計を作ってみたい」という子どもに、ふたりが加わって腕時計作りが始まった。ビンのフタを時計に、紙をバンドにしてテープでとめるも、「つけたり、とれたりしたいんだよね」という意見が。「ゴムでつけたらいいんじゃない?」とアイデアを出し合う中で、発想がどんどんふくらんでいった。

ある日の活動から カブトムシ作り

ある子どもがカブトムシを持ってきて、別の子どもが3冊の図鑑を持参。それらをながめているうちに「カブトムシを作ってみようという気持ちになった」と子どもたち。「同じ場所に仲間がいる」ということは大きい。

人形作りにも挑戦

キャプテンマーク作りに満足したことで自信がついた子どもたちは、翌週には女の子たちが取り組んでいた人形作りに仲間入り。粘り強く人形を作り上げた。

「売りたくない」「じゃあ博物館はどう?」

ひとつ作るのに、かなりの時間と労力をかけていた子どもたち。そのうち、「持って帰りたい」「売りたくない」という声が聞こえるようになりました。みんなに相談してみると、クラスのほとんどの子が「売りたくない」という意見です。

「博物館にして、見るだけにしたら?」

「見るだけだとつまらないから、お土産をあげるっていうのは?」という声が上がり、相談の結果、お店屋さんではなく「博物館」に変更することに。日程を決め、お客さんには年中さんを招待することになりました。

ある日の活動から 博物館の準備

2日後の博物館オープンに向けておみやげ作りを開始。お土産は、すでに作っていた望遠鏡のほか、子どもたちが出してきたパンダ、カブトムシ、アクセサリー、鈴、アメ(飴)。作りたいところに分かれて、グループで取り組んだ。
子どもと保育者とで相談しながら展示の準備。

いよいよオープンの日「なんでも博物館」は 大成功!

当日は、お母さんの出産でお休みしている子が久しぶりに登園でき、クラス全員揃って開館を迎えることができました。

博物館は、いろいろなものが置いてあるということで、「なんでも博物館」と名づけました。それぞれブースに分かれて、お客さんにお土産を渡したり、案内したり。クラスのみんなで博物館を成功させました。

展示は、パンダ、虫、自動販売機、アクセサリー、キャプテンマーク、サメ、というゾーンに分かれていて、それとは別にお土産を渡すゾーンも設けた。
パンダの展示。「パンダは笹が好き」ということで笹を採ってきて飾りに。サメの人形は海のセットに、カブトムシは木に展示した。

遊びのその後

博物館を経験したあとは「目的を共有して遊ぶ」姿が見られるように。ひとりの子どもから始まった「お化け屋敷」にも大勢の仲間が集まり、それぞれが遊びの目的を理解して、アイデアを出し合っていた。

活動をふりかえって

今年の年長クラスは、みんなで気持ちを合わせることが好きなクラス。にぎやかになりすぎてしまうこともありますが、やりたいことがぴたっと一致すると、すごい力を発揮することがあります。5月の連休明け前後から、「みんなで何かしたい」という思いが高まり、砂場での山作りや泥だんご作りがブームになるなど、仲間とかかわり合う楽しみを味わっていきました。

6月、子どもたちは「仲間と遊びたい」という思いが高まってきた一方で、「何をしようかな」と遊びを探しているようにも見えました。そんなとき、「作ることをテーマに遊びに取り組んではどうか」という同僚保育者のアドバイスもあって、取り組んだのが「お店屋さん」でした。初めてのことがちょっぴり苦手な子もいたため、「やりたくない」という意見も出るかと思っていたのですが、予想外に「やりたい」という声が多く、すぐに作りたいものに夢中になって取り組む姿が見られました。

一方で、なかなか自分から取り組めなかった子どももいます。ソウマもそのひとりでしたが、タイミングを見て保育者が「やってみる?」と声をかけると、戸惑いの表情を見せながらも「腕につける時計が作りたい」といって作り始めました。作る前はあまり経験がないことに不安を覚えていたソウマでしたが、一歩を踏み出し、ふたりの仲間とともに取り組むうちに「こういう方法もあるかも!」と、遊びにのめり込んでいきました。

仲間と一緒に工作を作り始めたケイト。みんなと同じように作ることはするものの、できたものをすぐに放ってサッカーをしに行くこともしばしばでした。そんなケイトが、自分から「サッカーのキャプテンマークを作りたい」といい、試行錯誤しながらも思いどおりに完成させたときは大興奮! 自分ができる範囲から一歩を越えた成功体験をすることで、その後ケイトは難しいことにも挑戦し、作ったものに愛着を持つようにもなっていきました。どこまで手伝うのか、子ども自身がどこまでやりたいと思っているのかとても迷います。「粘り強く取り組む姿勢」を援助するには、保育者も子どもの様子を丁寧に見ることと、成功体験の大事さを感じたエピソードでした。

「博物館(最初はお店屋さん)をやる」という一連の遊びの過程で、挑戦すること、粘り強く取り組むことなど、一人ひとりの子どもの物語が生まれました。やがてひとりがふたりになり、3人になり、仲間として「これがしたい」という思いが共有されていきました。

(西井宏之先生)


構成/木村里恵子
編集協力/子どもの文化研究所(鈴木孝子、菊池広子)
取材協力/落合英男
写真提供/RISSHO KID’S きらり、みどりのもり都田、白梅学園大学附属白梅幼稚園

『新 幼児と保育』2019年10/11月号より

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