ダメ!もコラ!もいりません|子どもの気持ちを感じて寄り添う言葉かけ

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東京家政大学ナースリールーム施設長

工藤佳代子

子どもに伝わるいい方がわからず、言葉に詰まる! 上手に声かけしたつもりなのに、子どもの反応が今ひとつなのはなぜ? 保育の現場で困っていることや、がんばっているのにうまくいかないこと……。保育者の「言葉かけ」に関するさまざまな悩みに東京家政大学ナースリールームの工藤佳代子先生からアドバイスをいただきました。

お話

工藤佳代子 先生

東京家政大学ナースリールーム主任保育士。「しかりたくなったときは、子どもに必要なことを伝えるチャンス。“なぜダメなのか” を丁寧に話しましょう」

「ダメといわないこと」を目的にしない

「ダメといわない保育」「しからない保育」といった言葉をよく聞くようになりましたが、私たちが子どもに「ダメ」といわないのは、それ自体をゴールにしているからではありません。単に、必要がないからいわないだけなのです(笑)。

たとえば、子どもが食事用のテーブルに乗ってしまったとき。対応の基本は、「なぜしてほしくないのか」を、きちんと伝えることです。「これはみんながご飯を食べるテーブルだから、上に乗らないでね」。言葉をはしょらず、いうべきことをきちんと伝えれば、「ダメ」は必要ないのです。

「ダメといわれたら、しない」ことをくり返していくと、子どもは他人の言葉で「よい・悪い」を判断するようになり、自分で考えることをやめてしまいます。幼い子どもはとても敏感。言葉の意味を完全には理解できない分、声の調子、触れ方、表情などから大人の本心を読み取ります。

口先だけの共感や、つくり笑顔は通用しません。まずは子どもとしっかり向き合い、「安心できる存在」になること。信頼関係の先に、子どもに伝わる言葉かけがあるのだと思います。

友達との関係や集団生活の『困った!』

0・1・2 歳児に対して、集団の一員としてふるまうことを求めるのは無理があります。

人はまず、「個」として育ちます。そして「個」が育つと自然に他者を求めるようになり、集団ができあがっていくのです。

友達とのかかわりも大切ですが、今一番必要なのは、「個」を育てること。一人ひとりをよく見て、丁寧に「その子らしさ」を引き出していきましょう。

理由もなく手が出る

0歳のAちゃんは、いきなり友達の髪を引っぱったり、たたいたり。「Bちゃんが痛い痛いだよ」などと伝えても、ちゃんと聞こうとしません。(20代・女性)

本人の気持ちを言葉にする

「理由もなく」「いきなり」たたくように思えるのは、大人のものさしで見ているから。Aちゃんには、必ず理由があります。

たたかれた子の気持ちを代弁することも大切ですが、たたいてしまった子の気持ちを引き出すことも忘れてはいけません。

まだ言葉で伝えられない年齢なら、「一緒に遊びたかったの?」など、本人の気持ちを想像して言葉にしてみましょう。たとえズバリ正解(!)というものがなくても、保育者が「自分を理解しようとしている」ということは子どもに伝わります。

手が出てしまうのは、それ以外の方法で気持ちを伝えることができないからです。自分をわかってくれる大人が身近にいれば、自分の思いを表現する手段を少しずつ増やしていくことができるものです。

おもちゃを共有できない

好きなおもちゃをほかの子が使うのを嫌がるBちゃん。「貸してあげたら?」「全部Bちゃんのじゃないよ」などといっても納得せず、大泣きしてしまいます。(30代・女性)

子ども自身から答えを引き出す

人のものが欲しいけれど、自分のものは貸したくない。これは、子どもにとってふつうのこと。保育者は「友達に貸す」ことに誘導するのではなく、子どもたちに「どうする?」と投げかけてみてはどうでしょうか。

以前、おもちゃのケーキを作っていた1歳児が別の子に何度も壊され、泣き出してしまったことがありました。すると近くにいた3歳児が「これは壊してもいいケーキです!」と別のケーキを持ってきたんです。大人には、とても思いつけない解決策ですよね!?

世の中には思いどおりにならないこともあり、同時にいろいろな解決策もある。友達とのかかわりの中でそんな思いに気づいていくことも、子どもの育ちに生かされていくはずです。

威圧的な行動が目立つ

態度が乱暴なCちゃん。クラスの子たちはおびえて、だれも反発できません。Cちゃん以外の子をのびのびと生活させてあげたいのですが……。(50代・女性)

Cちゃんとの間に信頼関係を築きましょう

今、一番困っているのはCちゃん自身です。保育者は「威圧的」などと決めつけず、なぜそのような行動をとるのか考えてみなければ!たまたま元気がよかった子が、しかられたりしたために行動をエスカレートさせたのかもしれません。本人はただ、素直に気持ちを表現しているだけなのかもしれません。

どんな理由であっても、まわりから否定されている状況はつらいはずです。保育者にできるのは、Cちゃんの「絶対的な味方」になることです。どんなときも、何があっても味方であることを、言葉と態度で示し続けましょう。子どもは、「好きな人」の影響を強く受けるものです。信頼関係ができれば、保育者の言動をまねするようになるはず。それに伴って、まわりとの関係も変わっていくでしょう。

友達にかみつく

2歳のDちゃんは、かみつきがなおりません。気に入らないことがあったとき以外に、何もしていない子にかみついてしまったこともあり、心配です。(20代・女性)

気持ちを表現できないもどかしさが原因

かみつきやひっかきが見られるのは、言葉で十分なコミュニケーションがとれない時期。気持ちをうまく伝えられないもどかしさが、かみつきなどにつながってしまうのです。

かみつきは事前に止めることが大切ですが、その際は「かみつかれる側の子を守る」形にすることを心がけましょう。かみつきそうな子を制止すると、「自分の気持ちを表現しようとすると、嫌な思いをする」と感じてしまうことがあるからです。かみつきを防いだら、本人の気持ちを言葉にして共感を示します。そして、かみつこうとした理由がわかったら、「次はこうしてみたら?」と、解決策も伝えていきます。言葉が十分に発達するまで、こうした丁寧なかかわりを積み重ねていきましょう。

遊びをやめたがらない

外遊びを終えるとき、部屋に入りたくない子をうまく誘導できず、強引に連れ帰って泣かせてしまいました。こんなとき、どう言葉をかけたらよいのか迷ってしまいます。(40代・女性)

保育者の役割は子どもの気持ちに寄り添うこと

保育の目的のひとつに、「主体性を育てる」ことがあります。ですから、子どもが園庭から保育室に戻るのも、主体的に行われるのが理想。「保育者に誘導される」のは、主体的な行動とは正反対ですよね?とはいえ園では、ある程度、時間で区切って行動しなければならないことがあるのも事実です。

そんなときは、一人ひとりの様子をよく見て、遊びの区切りで声をかけるようにします。やめるのを嫌がるときは、「残念だね」「明日、続きをやろう」などと、子どもの気持ちを受け入れ、共感を示しましょう。

保育の目的は、大人の指示に素直に従う子ども育てることではありません。どんな場面でも子どもの気持ちに寄り添うのが、保育者の役割です。

子どもの行動や日常生活の『困った!』

大人はときに効率を重視して、子どもを思いどおりに動かそうとしてしまうことがあります。

でも、それは大間違い。保育の目的は、主体性があり、自分の思いを表現できる子を育てることだからです。

人の個性はさまざまです。自分とは違う価値観をもつ人から学ぶことは多いもの。子どもの立場になって考え、共感することは、保育者としての成長につながります。

NG行動をくり返す

1歳のEちゃんは、一日に何度も机に上ろうとします。机のかわりになる台を作っても、それには興味を示しません。言葉が通じる年齢ではないので、対応が難しい……。(30代・女性)

してはいけない理由を根気よく伝えましょう

Eちゃんがしたいのは、「机に上る」こと。新しい台は上るのが簡単すぎて、おそらく物足りないのでしょう(笑)。子どもは、大人がしてほしくないこともしたがります。そんなときは、共感→してほしくない理由を伝える、という言葉かけをくり返すことが大切です。「上れたんだ、すごいね」「でも、ここはご飯を食べるところだから下りてね」。Eちゃんの年齢だと、一度いっただけで理解するのは無理。即効性を期待せず、根気よく続けましょう。

危険なとき以外は、むやみに禁止しないことも大切です。共感より否定や禁止の言葉を多くかけられていると、子どもは人の言葉を聞き流すようになり、本当に大切なことも心に届かなくなってしまうことがあるからです。

食事中に立ち歩く

Fちゃんは早く遊びたがって、食事が終わるまですわっていることができません。言葉で共感を示しているのですが、落ち着いて食べてくれません。(20代・女性)

子どもの気持ちを尊重して食事を切り上げてもよい

何度か誘っても食べたがらないのなら、その日は食事を切り上げてもよいと思います。その際、「食べないなら、片づけちゃうよ」などと否定的なことをいわないように注意。「早く遊びたいんだ。それなら、ご飯は終わりにしようか」など、共感を示すようにします。

あとでおなかがすくことがあったら、「おなかすいちゃったね。お昼ご飯をしっかり食べればよかったね」などと声かけを。こうした経験から、子どもは少しずつ「先を見通すこと」も学んでいきます。

保育者として理解してほしいのが、共感は「心」でするものだということ。どんな言葉をかけたとしても、「早く食べちゃって!」なんて思っていたら、子どもには確実に見抜かれますよ(笑)。

トイレや着替えに集中できない

Gちゃんは、トイレに行くときも、着替えをするときもふざけたり、いたずらをしたり。集中できていないのがわかり、困っています。(30代・女性)

効率より子どもの気持ちを大切に

大人は、トイレや着替えに集中しているでしょうか?子どもだって同じこと。そもそも、集中してするようなことではないのです(笑)。ではどうして、Gちゃんに困るのか? それは保育者が、効率を優先しているからではないでしょうか。でも、ものごとをテキパキとこなせることがすべてではありません。子どもの育ちに最短距離を求めるのは、急ぎすぎです。トイレや着替えまで楽しめるGちゃんには、毎日を楽しく生きる才能がある、と思ってみてください。

いたずらを止めたくなるのは、大人の都合であることがほとんど。危険がある場合以外は、子どもが何を楽しんでいるのかを考え、受け入れましょう。大人に受け入れられると、子どもの「ブーム」は意外に早く終わるものですよ(笑)。

製作が苦手な子が……

クラスに数人、誘っても製作を嫌がる子がいます。別に時間を設けて行っていますが、なんとか全員でできないでしょうか……。(30代・女性)

やりたくないなら無理にさせなくても

園での製作の目的は、いろいろな素材や道具に触れ、表現の手段を広げること。作品を仕上げることではありません。また、こうした活動が好きな子もいれば、苦手な子もいます。やりたがらない子がいる場合、大切なのは理由を知ることです。「興味はあるけれどできない」というときは、使いやすい道具や素材を用意したり、保育者と個別に行ったりすればよいでしょう。

本人がやりたくない場合は、無理強いしなくてよいと思います。子どもはまず、好きなことをして自信をつけたほうがよいのです。がまんしながら製作をすると、ますます嫌いになったり、苦手意識をもったりしてしまいます。でも自分に自信があれば、「ぼくは縄跳びが得意で、Hちゃんは工作が得意」と、自分も他人も認めることができるようになるのです。

子どもに必要なしつけって?

日ごろから、しからない保育を心がけています。でも、「しつけ」としてきちんと注意したほうがよいこともあるのかな、と悩んでいます。(50代・女性)

しつけとは、子どもにあるべき姿を見せること

「しつけ」は、子ども自身が気持ちよく生きていくためのもの。「〜の場面では、〜しなければならない」などというルールとは違います。この時期の子どもの場合、一番効果的なのは大人がやってみせることです。子どもに「おはようは?」といいながら、自分ではあいさつをしない大人も少なくありません(笑)。子どもに「あいさつしなさい!」と強要することではなく、大人が気持ちよくあいさつしてみせることが、本当の「しつけ」ではないでしょうか。子どもは「好きな人」の影響を強く受けます。保育者に求められているのは、子どもに足りない部分を注意することではなく、子どもと信頼関係を築いたうえで、子どもに身につけてほしいことを、モデルとして見せていくことだと思います。

工藤先生からのメッセージ

感情にまかせてしかる前に……

子どもと接するときに感情が揺さぶられるのは、子どもを「大人より劣った存在と考え、保育者として何かを教えなければならない、と思っているからかもしれません。

でも、子どもは保育者と対等な人間。ただ表現力が未熟なだけです。保育者の役割は、子どもに足りていない部分を手助けし成長に力を貸していくことです。

「集団」ではなく「個」に目を向けましょう

手洗い、トイレ、片づけ……。やさしくいっても話を聞かない子どもたちがいたら、よくないとは思いながらついしかりたくなるかもしれません。

そんなときには、子どもたちにさせようとしていることの意味を考えてみましょう。手を洗うのは、手が汚れているから。トイレに行くのは行きたくなったからですよね?

子どもに「〜しなさい」といわなければならないことが増えるのは大人にとって都合のよいタイミングで、集団として動かそうとするからです。そもそも大勢でまとまってすることじゃない、と考えれば、しかる必要はありません。手を洗わずに食事をしようとする子がいたら、「手が汚れていると、ご飯は食べられないよ」などと声をかけ、一緒に洗いに行けばすむことです。

大切なのは、大人の指示に従わせることではなく、子ども自身が必要性を感じて、自分からできるようになっていくこと。保育者は、この点を忘れないようにしたいものですね。

経験の浅い保育者のよい目標に

ほかの保育者が、子どもたちを感情的にしかるのが目に余る、ということもあるかもしれません。受けてきた教育やこれまでの職場の方針などの影響もあるでしょうが、「保育=教える」というイメージをもっている保育者も少なくありません。子どもに何かを教えようと思うと、「〜させたい」という気持ちが生まれます。そして、「指示したことをさせる」のが保育者の力量だと勘違いし、子どもが思いどおりに動かないと腹を立ててしまう人も出てきます。

保育者としてできるのは保育者本来のあり方を示すことです。保育とは、子どもに寄り添い、共感したり、表現しきれない子どもの気持ちを代弁したりすること。そしてこうしたかかわりができる保育者は、子どもからの信頼も厚いのです。特に経験の浅い保育者にとって、子どもに信頼される保育者はよい目標になるもの。日々、学ぶことで、子どもとのかかわり方も変わっていくでしょう。

撮影/丸橋ユキ
文/野口久美子

『新 幼児と保育』増刊『0・1・2歳児の保育』2019秋冬より

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