「10の姿」で書く「指導要録」「保育要録」記入事例集
新しい「指針」「要領」のもと2018年度から様式が変わった「要録」。「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」に沿ってどのように記述すればよいのかと戸惑う声が5歳児(年長)担任から聞かれました。文部科学省「幼児理解に基づいた評価に関する検討会」委員の神長美津子先生に、8つの事例を元に解説していただきます。
5歳児担任の率直な疑問
- まとめようとすると抽象的になるし、具体的に書くとスペース足りないし……
- その子のよい面を書くようにいわれるけれど、マイナス面のほうが目についてしまう。
- 発達支援センターに行っていることは、書かないほうがいいの?
- 10の姿のうち、どれにあてはめればいいのかわからない。
- 「数量や図形」への「関心・感覚」って、どういう行動でわかるの?
※幼稚園では「幼稚園幼児指導要録」、認定こども園では「幼保連携型認定こども園園児指導要録」、保育園では「保育所児童保育要録」と名称は異なりますが、すべて就学前の子どもの軌跡をまとめたものです。
※この特集では、幼稚園、認定こども園、保育園それぞれの記入様式に沿って作成した記入事例を掲載しています。記入事例とそれに対するコメントは、園の種類にかかわらず役立てていただける内容になっています。
目次
【基本の考え方】5領域の視点でとらえ「10の姿」に照らして記述する
最終学年の「要録」は、新しい「指針」「要領」に共通して示された「育みたい資質・能力」、いわゆる「3つの柱」(*1)が、保育者や友だちとのかかわりや5つの領域(*2)の中でどのように育ったのかを、「10の姿」を活用して記述します。
「要録」とは
「要録」は、法律(*3)で作成することが義務づけられています。クラス担任が保育記録を読み直し、一人ひとりの子どもの1年間の育ち(発達の状況)とともに、自分はどのような保育をしてきたのか(保育の過程)を記述し、最後は園長が確認します(要録作成の責任者)。5歳児の要録は、小学校へ園での子どもの育ちの姿や指導のあり方をわかりやすく伝え、次の指導者がその子により適した指導を継続して行うために大切な記録です。
「10の姿」導入の意味
3つの「指針」「要領」に示された「育みたい資質・能力」(3つの柱)は、幼児期から18歳までの一連の教育課程の中に位置づけられています。「10の姿」は、子どもが18歳までに身につけていく資質・能力が、幼児教育の終わりの段階で芽ばえている姿を表しています。ですから、保育の現場と学校が子どもの育ちの姿を共有し、指導を連続していくために「10の姿」を「共通の言葉」として活用することがポイントです。ただし「10の姿」は到達目標ではありません。
育ちを確実に伝えるために
子どもの課題や他児と比較してできていない姿が気になり、そこを中心に書いてしまっていませんか。園生活を通して育ちつつあるもの、特に成長したところなどを的確にとらえ、多面的な育ちの姿を肯定的に表現し、自分の援助の手だても記述するようにしましょう。そして、どうしたら伝わるのか迷ったら、子どもの成長や課題を園内研修などで話題にすることで、同僚や先輩の気づきや助言から見えてくるものもあります。
小学校との交流を深める
小学校で生活・学習する児童の姿と、園で生活する幼児の姿とは確かに異なります。また、教師と保育者の指導や評価の考え方にも違いがあります。ですから、保育者は、小学校の生活や、指導や評価の考え方などを知る必要があります。日ごろから幼児と児童の交流をはじめ、保育や授業を参観し合ったり、合同研修など話し合いや情報交換を定期的に行ったりすることで相互の「共通理解」が深まり、年長児も安心して主体的な学校生活を始められます。
*1:「知識及び技能の基礎」「思考力・判断力・表現力等の基礎」「学びに向かう力、人間性等」
*2:「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」
*3:学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)第24条および第28条(幼稚園)、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項(保育園/認定こども園)
文/森井泉
「要録」記入の事例とポイント
幼稚園幼児指導要録
幼保連携型認定こども園園児指導要録
どちらも基本的な構成は同じです。学年と個人の指導の重点、指導上参考となる事項などを記入します。
記入事例1
幼稚園幼児指導要録
ここではまず個人の記録に基づく具体的なエピソードについて紹介します。
このような実際のエピソードをふまえ、「要録」を記入します。
ここで紹介する事例は、実在する個人ではなく、どの園にもいそうな子どもを想定して書かれています。
記入事例2
幼稚園幼児指導要録
記入事例3
幼保連携型認定こども園園児指導要録
記入事例4
幼保連携型認定こども園園児指導要録
記入事例5
保育所児童保育要録
学年と個人の保育の重点、保育の展開と子どもの育ち、最終学年に至るまでの育ちに関する事項などを記入します。
記入事例6
保育所児童保育要録
記入事例7
保育所児童保育要録
記入事例8
保育所児童保育要録
小学校から見た「要録」とは? 小学校の先生が学びたい 保育者の「内面を見る」力
卒園児を受け入れる小学校の先生たちは、「要録」や「10の姿」をどのようにとらえているのでしょうか。神長美津子先生とともに文部科学省「幼児理解に基づいた評価に関する検討会」委員を務めた嶋田弘之先生にお話をうかがいました。
お話/ 嶋田弘之 先生埼玉県草加市立長栄小学校校長。文部科学省「幼児理解に基づいた評価に関する検討会」委員。幼稚園園長、草加市教育委員会子ども教育連携推進室長を経て現職。
小学校でも生きる資質を伝える「要録」
2017年3月に告示された小学校学習指導要領では、これまでの学習の過程や成果の評価を指導の改善などにつなぐことに加え「資質・能力の育成」に生かすことが新たに示されています。
これからの小学校は、目標の達成までの学習の過程で、たとえば「やるべきことがわかって自分の持てる力を発揮しやり抜く」といったように「10の姿」のひとつ、「自立心」を小学校でもさらに伸ばすことになります。そして、中学校・高校でも引き継がれ、最終的に社会に出たときに求められる姿や求められる力になるのだと思います。
園での子どもとのかかわり自信を持って発信を
保育所保育指針第2章3(2)の内容に「進んで戸外で遊ぶ」という記述があります(幼稚園、認定こども園の「要領」にも同様の記述あり)。「進んで戸外で遊ぶ子」と聞くと、小学校の教員は「体育が好きな子かな」「体育ができる子かな」など学習内容や技能の出来などの外面に目を奪われがちです。一方、保育者は「進んで戸外で遊ぶ子」を「もうすぐできそうなことに挑戦するおもしろさを感じている」とか、「外で体を動かすとスッキリするといった心地よさを感じている」「友達とのかかわりに楽しさを感じている」など、さまざまな内面の育ちをとらえています。
第2章3(2)の内容に示された姿だけでなく、こういった「10の姿」にかかわる内面の育ちを可視化・言語化して小学校に発信してほしいと思っています。このことは、体育だけといった狭い範囲でなく、小学校生活や教科の学習などへと広く子どもの持っている可能性を広げることになるのだと感じます。
幼児期に得た資質を武器に苦手な分野もがんばれる
「要録」を通して、園の先生は「10の姿」の視点から子どものよいところや成長著しいところ、言い換えると、その子の持つ長所にスポットを当てて記述することになっています。小学校の先生はそれを読み取り、「こんなよさがあるんだ」とわかり、「そのよさを発揮できる場面をつくろう」と準備することができます。
このように、これからの小学校はこの長所を発揮させて小学校生活や学習の場面で充実感や達成感を味わわせます。このことで、小学校でもがんばれるという自信とともに、苦手なことや不得意であったものにも自ら立ち向かい、やり遂げようとする姿になると考えています。
構成/佐藤暢子
イラスト/すみもとななみ
撮影/大枝桂子
協力/宇都宮大学附属幼稚園(栃木・宇都宮市)、さくら認定こども園(栃木・宇都宮市)、ひかり幼稚園・ひかり幼稚舎(埼玉・草加市)、あきつやまゆり保育園(埼玉・所沢市)
『新 幼児と保育』2020年2/3月号別冊ふろくより