「寄り添う気持ち」が伝わりやすくなる5つのテクニック【豊玉保育園のクラスだより#2】
「おたよりで伝えたいのは『寄り添う』気持ち」――【豊玉保育園のクラスだより#1】で、豊玉保育園の保育者のみなさんの考えを紹介しました。おたよりを書くとき、どんなに「寄り添う気持ちを保護者に伝えたい」と願っても、実際に伝わるとは限りません。書き手の意図とは違ったメッセージが伝わってしまうことさえあるでしょう。
「伝わる」おたよりにするために、保育者のみなさんが気をつけていることをうかがいました。次回おたよりを書くとき、下記の5つのテクニックを、ぜひ思い出してください。おたよりを読み返すときに一読するのも有効です。
思いを伝えるテクニック
1.子どもの様子と保育者の心情をセットで
2.「広く・浅く」ではなく「狭く・深く」
3.話し言葉に近いわかりやすい言葉で
4.保護者全員の顔を思い浮かべて
5.マイナスな書き方は避ける
協力/練馬区立豊玉保育園(東京・練馬区)
1961年開園、2021年より社会福祉法人高洲福祉会が運営委託。家庭から離れて生活する保育園の場で、子どもたちが不安なく過ごし、主体的に活動できるように真心のこもった丁寧な保育を行うことを大切にしている。0~5歳児、定員130名。
目次
1.子どもの様子と保育者の心情をセットで
エピソードの紹介をするとき、保育者が見聞きした子どもの様子の記述と、保育者の心の中に浮かんだことをセットで書いていくと、保育者が何を考え、支援をしているのかが読み手にこまやかに伝わります。子どもの様子と保育者の考えたことを交互に描くような意識で書き進めるようにします。
※下記の文例の青字が子どもの様子の記述、赤字が保育者が考えたことの記述。
文例
(2023年6月4歳児クラスのおたより)
「絵本の世界や散歩という、友達との共通体験をへて、みんなで同じイメージを共有して遊ぶ姿が見られるようになり、友達関係の深まりを感じています。自分たちでアイデアを出し合い…でも、それがまとまらなかったり、アイデアがうまく形にできなかったりすることもあるのですが、子どもたちのアイデアをなんとか実現させてあげたくて、輝く顔がもっと見たくて、大人もイマジネーションをはたらかせ、ワクワクした気持ちで援助するいい時間です」
文例
(2023年5月0歳児クラスのおたより)
「手でさわってみたり、口に入れてみて感触を確かめています。子どもたちが少しずつ保育園に慣れていく様子でありとてもうれしい瞬間です。玩具の中に手作りのポットン落としを置いています。初めは穴を大きめに作りチェーンリングを引っ掛けておくとぽとんと入れるのが楽しいようです」
2.「広く・浅く」ではなく「狭く・深く」
子どもたちの成長が感じられる出来事をたくさん見聞きしたら、「次のおたよりで全部紹介したい!」と思ってしまうかもしれません。しかし「広く・浅く」という表面的なレポートになってしまい、保育者の思いまでは伝わりづらいでしょう。ひとつだけでもいいので深く掘り下げるようにします。
文例
(2022年6月2歳児クラスのおたより)
「園庭でタイヤをいくつか重ねている上に、数人が乗って遊んでいたときのことでした。A ちゃんと B ちゃんは車に乗ってどこかでかけているというイメージで遊んでいました。
『いちご公園に車で行こう』
と A ちゃんは車を運転するしぐさをしながら。B ちゃんに話しかけ、
『うん、行こう』
と B ちゃんは答えました。それをみた C ちゃんは、タイヤが重なっている形を見て
『これはベイマックスだよ』
と(某アニメキャラクターを連想したのでしょう)A ちゃんに言い、
『違うよ、これは車だよ!』
と A ちゃんが少し反論する形で C ちゃんに話しました。側にいた D ちゃんは、
『これはタイヤだよ』
と言いました。
その後2、3回、C ちゃんと A ちゃんの言い合いになりましたが、なぜか A ちゃんが急に
『あそこにおばけがいた!』
と言った途端に、そばにいた全員が反応し同じ方向に走り出してそこで子どもたちの気持ちは今度はおばけ探しに向かったのでした」
3.話し言葉に近いわかりやすい言葉で
保育の中で心が動いたエピソードを、「今日こんなことがあってね……」と保護者や同僚に話したくてたまらない! そんな熱量で書くおたよりは、読み手に響くと思います。かしこまりすぎずに、話すときのようなやわらかい表現を意識して選んでいます。また、保育の専門家としての視点を踏まえて書くわけですが、保育の専門用語や保育者にしか伝わらない言い回しは使わないように気をつけています。
文例
(2023年10月4歳児クラスのおたより)
「なんと最近は、みんな、ロンディ(円盤状ブロック)で何でも作っちゃいます! ロンディさえあれば、ほかのおもちゃは必要ないのではないかというくらい、なんだって作ってしまうのです!」
文例
(2023年7月3歳児クラスのおたより)
「みなさま、とびうお組のお部屋を見て何かお気づきになりませんか? 積み木コーナーの積み木の作品が崩れずに何日もそのままの姿を保てるようになってきたことを!!」
4.保護者全員の顔を思い浮かべて
「子どもの成長した姿を伝えたい!」。そう思って紹介するエピソードが、毎号特定の子どもに偏っていないでしょうか。「この年齢ならこの発達段階であるべき」のようなメッセージを暗に発していないでしょうか。発達に偏りがある子ども、障がいのある子どももいます。保護者が読んで「これはうちの子の話じゃないな」と、疎外感を覚えてしまうことがないようにします。特定の保護者にだけ寄り添ったおたよりにならないように、発行するおたよりの中でバランスをとります。
入園後最初に子どもの様子を伝える5月のおたよりで、0才児クラスは12人全員が写真で登場するなど配慮をしています。
5.マイナスな書き方は避ける
「マイナスなことを書かない」という意図ではありません。一見マイナスに見える出来事を書いても大丈夫です。たとえばお遊戯の輪に入らなかった子どもを「活動に参加しなかった子」と否定的に書くのではなく、離れたところから見ていた姿を「そういう参加の仕方もアリだよね」と共感し、肯定的にとらえて書きます。
文例
(2023年12月4歳児クラスのおたより)
「大勢の前で演じるのは簡単なことではなく、発表会なんて日には、私たちも、保護者のかたもドキドキ…それが子どもたちに伝わり、見えない張りつめた空気が会場を支配します。たくさんの視線が集まり、緊張で、涙が出たり動けなくなったりする子もいます。状況がわかるようになったという、成長した姿ではありますが、こういった経験はもう少し先でもよいのではないかと考えます。とはいえ、表現することは楽しくてみんな大好き!」
文例
(2024年2月4歳児クラスのおたより)
「負けたくない気持ちが強く、『そんなのズルだよー』と言ってみたり、『僕のを取らないでよ!』と、コントロールできない感情をぶつけてしまう姿もありますが、それでもまた次もやってみよう! もっとかかわりたい! つながりたい! という気持ちがあることがわかります。人生を豊かにしてくれることのひとつである、仲間とのつながり。それが育まれる時間と空間の保障、この小さな人たちが集団で過ごすことの意味や大切さを改めて感じています」
構成/佐藤暢子
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