環境&安心感でサポートするトイレトレーニング

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「トイレで排泄できるようになりたい」は乳幼児期におけるひとつのステップ。子ども自身が無理なく自然にトイレに親しんでいくことが、その一歩です。キーワードは、環境と安心感。お茶の水女子大学こども園の取り組みを例に宮里暁美先生に教えてもらいました。

監修

宮里暁美 先生(お茶の水女子大学こども園前園長)

国公立幼稚園教諭、副園長を経て、2016年より2020年3月まで認定こども園園長を務める。2021年4月からお茶の水女子大学特任教授。子どもの姿から学びを深めている。『子どもの「やりたい!」が発揮される保育環境』(学研プラス)など著書・監修書も多数。

排泄は個人差が大きく出るもの
一人ひとりのペースを大切にゆっくり進めていきましょう

おむつを経て、トイレでの排泄ができるようになっていく乳幼児期。1歳ごろからトイレ体験をスタートさせ、「ひとりで排泄できるようになりたい」というのが、おおよそ2歳児クラスの見通しになると思います。ですが、いついつまでに、としてしまうと、「早い」「遅い」という意識が生まれて、あせりの原因にもなりがち。排泄については、排尿機能をはじめとした体の発達や心、言葉の発達、子どもの性格などと深くかかわり、個人差が大きいものです。子ども一人ひとりの発達や状況を観察しながら、子どもの気持ちを尊重して、けっして無理強いせずに進めていくことが大切です。

食べることや眠ることと同様に、排泄することは生きていくうえで必ず行う行為。自然と身についていくものです。ですから、トレーニングというよりも、「やってみたい」という好奇心からの「トイレ体験」を、丁寧にくり返していくと考えたほうがしっくりとくるかもしれません。

0・1・2歳児の保育は、「急がせない」というのが基本的な姿勢。子ども自身が「したくなる」「やってみたくなる」ように環境を整え、安心感を与えながら、排泄の自立をゆっくり確実に支えていきましょう。

すぐ行ける!行きたくなる
好奇心を刺激するトイレ環境

トイレの位置はとても重要です。お茶の水女子大学こども園では1歳児クラスと2歳児クラスの保育室がつながっていて、その中央部分に1・2歳児用のトイレがあります。

保育室の中にトイレがあることのよさは、ひとつに「子どもが行きたくなったときに、すぐに行ける」ということがあります。

もうひとつは、トイレという空間にいても、みんなの声が聞こえてくること。子どもはいつもどおりの雰囲気に安心し、落ち着いて排泄することができます。気持ちよくトイレ体験するためには、この「安心感」がキーワード。トイレの奥にはシャワーがあり、トイレに間に合わなかった場合でも「大丈夫!」。すぐに洗ってきれいに着替えることができるのも、子どもにとっては大きな安心感につながります。

集団生活の場は、子ども同士が影響しあえるよさがあり、友達がトイレにすわっているのを見て「やってみたい」と興味を持ちやすい環境です。

<ポイント1>ドアをつけていないから
トイレにいてもみんなの声が聞こえます

トイレにはドアをつけていないため、トイレの中にいてもみんなの様子がわかります。また、年上の子どもや友達がトイレに入っているのを目にすることで、トイレに興味や好奇心を持つきっかけになり、自分も「やってみたいな」と思うようになっていきます。

「トイレに入る前にズボンを脱ぎ、トイレのあとにズボンをはく」という子どもの動きを考え、入り口の両脇近くに小さなベンチを設置。高さの低いダンボール箱に布を貼ったようなものでもいい。
人の出入りが少ないときには、入り口には小さなついたてを。「見えすぎない」工夫も安心感につながる。

このこども園でも年上の子どもや友達がトイレに行く様子を見て、「自分もトイレでおしっこしてみたい」と興味を示す子どもの姿が見られます。

おむつ替えのあとですからおしっこをするわけではないのですが、すわってみているうちに本当に「出ちゃった!」ということも。このように「すわる」という体験をくり返しすることで、トイレ=排泄、という感覚も身についていきます。

大人が「やりましょう」というのではなく、子ども自身が好奇心を持ってトイレを意識し、トイレに慣れていくうちに、排泄ができるようになっていくため、トイレ空間にも工夫をしてみましょう。気楽に、また負担を感じることなく、トイレに親しんでいけるといいですね。

排泄・トイレに関する絵本も好奇心のきっかけに

排泄やトイレを楽しく描いた絵本も、子どもが興味を示すきっかけに。お茶の水女子大学こども園では、いま『おしっこちょっぴりもれたろう』(作・絵/ヨシタケ シンスケ PHP 研究所)が人気。

<ポイント2>思わず入ってみたくなる
すわってみたくなる楽しい工夫を

ゾウの形をした、ペーパーホルダーつきのついたては子どもたちに人気。トイレができなくても、便器にすわってみたくなる楽しさだ。

<ポイント3>子どもの行動は「急がせず」
大人のサポートは「手際よく」

1・2歳児のトイレは、排泄をするだけでなくおむつを取り替える場所でもあります。子どものペースを大切にするためにも、手際よく行えるようにおむつを準備しておきます。

また、トイレのスペース内には手洗い場があり、「排泄→手を洗う」がスムーズにできるようになっています。

トイレにはおむつカゴを置き、それぞれの子どものおむつを用意。おむつは子どもごとにひとつに束ね、名前を書いた名札をつけておくと、取り出す際にも手間取らない。

キーワードは気持ちよさと安心感
「してみたい」に丁寧に寄り添う

実際にトイレ体験を始めていくのは1歳児クラスからですが、0歳からその前段階は始まっています。「おむつが濡れちゃった」という感覚がわかるようになると、「快」「不快」を表情で示したり、泣いて知らせるようになっていきます。このとき、「気持ちよく排泄をしたらきれいにして、また気持ちよく遊ぶ」ということを感じてもらえるように、「おしっこ出たね」「おむつ取り替えようね」と声かけをしながら、手早くおむつを替えるようにします。

つかまり立ちができるようになると、パンツ型のおむつを使う子どもが増えていき、1歳児クラスからはトイレでおむつ替えをします。子ども自身が「見る」「慣れる」という時間が必要で、トイレの様子になじむのをゆっくりと待ちましょう。そのうち子どもがトイレに興味を示したら、「すわってみる?」と声かけをして、実際に「すわる」ということを体験してみます。2歳児クラスになると、より積極的に「トイレでおしっこしたい」「自分でできる」という意欲が高まり、トイレで排泄できるようになっていきます。

園生活では、散歩の前後や午睡のあとなど、1日に何度か「トイレに行ってみようか」と促すタイミングがありますが、それ以外は、子どもの様子をよく見ていて、排泄のタイミングに合わせてトイレに誘うようにしましょう。子どもが「行きたくない」という様子を見せたら、無理に誘わないこと。たとえば家庭で熱心にトイレトレーニングをしていたりすると、「トイレに行こう」という言葉が負担になったり、トイレに抵抗感を抱いてしまう場合もあります。保護者にも「長い目で見ていきましょう」と伝えていきます。

おむつからパンツへの目安となるのは、膀胱の機能の発達とかかわりのある「排尿の間隔」。おしっこの間隔が長くなってきたら、園では「そろそろおむつからパンツに変えますか?」と保護者と相談して、排泄を自覚しやすいトレーニングパンツ(厚手の布パンツ)に変えていきます。その後、徐々にふ
つうの布パンツで過ごせるようになっていきますが、子どもが不安そうにしているときには、おむつと布パンツとを併用していいのです。子どもの気持ちを大切に進めていきます。

トイレトレーニング
クラスごとの見通しと大切にしていること

お茶の水女子大学こども園の場合 ※ クラスごとの見通しは目安です。

0歳児クラス

排泄の気持ちよさ、きれいにすることの気持ちよさを感じてもらえるように、丁寧にかかわる。

0歳児担当
・つかまり立ちができるようになったころに、パンツ型のおむつに徐々に移行。
・おむつを取り替えるときには、立った状態で「足を上げてね」と声をかける。これは子ども自身が、いま何をされているのか、何をしているのか、ということがわかるようにするため。

1歳児クラス

トイレに興味が持てるように環境にも工夫したい時期。

1歳児担当
・おもに、パンツ型のおむつで過ごし、おむつを取り替えるのはトイレで行う。
・トイレに誘われるといやがる子には、無理に誘わない。
・トイレがいやな場所にならないように配慮する。
・5~6月:便器にすわりたがる子どもが増えてくる。
・7~8月:便器にすわっているときに、出ていないけれど「出た!」というようになる。たまに本当におしっこが出ることもあって、驚く。
・2~3月:おむつの中にしたうんちもトイレに流して「うんちバイバイ!」としたりする。その子の排泄のタイミングがわかってきて、トイレでおしっこができることもある。

2歳児クラス

布パンツ(おにいさんパンツ・おねえさんパンツ)への憧れが、トイレへの意欲につながる子どもも。

すわって排泄ができるようになると、男児は立ち便器での排泄も徐々に体験。

2歳児担当
・4月:進級時は不安な様子が見られるので、急ぐことはせず、安心できるパンツ型のおむつで過ごす。
・6月~:排尿の間隔が長くなってきた子どもの保護者と相談して、トレーニングパンツに変えていく。無理には進めず、ためしに午前中のみトレーニングパンツをはき、午睡はパンツ型のおむつで過ごす。
・10 ~ 1 月:おにいさんパンツ・おねえさんパンツ(布パンツ)を「かっこいい!」という気持ちが出てくる。次第に1日、布パンツで過ごせるようになる。
・男児は立ち便器でできるようになる。
・3月:ほとんどの子どもが布パンツで過ごせるようになる。

3歳児クラス

3歳児担当
・4月は安心のためにパンツ型のおむつを持ってきたり、はいたりしている姿がある。進級当初は安心感が大事なので、その気持ちを大切に受けとめる。

トイレが間に合わないのは当たり前。
「 きれいにしようね」と声かけを

トイレで排泄ができるようになって、「おしっこがしたい」という感覚がわかるようになっても、この時期はまだトイレでの排泄に間に合わないことも多いもの。排尿をコントロールするのは体の機能による部分が大きく、失敗でも後退でもありません。「きれいにしようね」と声かけをして、素早く後始末をしてさっぱりさせましょう。子どもはとても繊細です。けっして「失敗しちゃったね」などとはいわないことです。


イラスト/上島愛子
写真提供/お茶の水女子大学こども園(東京・文京区)

『新 幼児と保育』増刊『0・1・2歳児の保育』2021夏より

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