コミュニケーション力を育てるかかわり方のヒント【保育に取り入れられる臨床心理士のワザ ♯1 】

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発達が気になる子どもへのかかわり方
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保育の現場では、「ちょっと気になる子」への対応に迷うこともあるはず。子どもが抱える困りごとの内容に応じて、適切な手助けができるのが理想です。療育のためのプログラム「ESDM(※)」の考え方をベースに、園でも実践できる具体的なかかわり方を紹介します。

ESDMとは?
発達障がいがある子ども向けの「ESDM(Early Start Denver Model)」と呼ばれる超早期介入指導プログラム。子どもと信頼関係を築いて適切な働きかけをすることによって困りごとを減らし、社会性を育てます。

お話

桑野恵介 先生

株式会社スペクトラムライフ代表。臨床心理士、ESDM認定セラピスト。埼玉県入間市児童発達支援センターうぃずの受託事業者。2019年埼玉県立上尾特別支援学校特別非常勤講師、東京大学高度医療人材養成プログラム「職域・地域架橋型・価値に基づく支援者育成」講師。

今回のモデルケース Aくん(2歳・男の子)

  • 人にいわれたことが理解できない。
  • 言葉を話さない。
  • いつも走り回っており、衝動的な行動が危険につながることがある。
  • パニックを起こすことはない。
  • 1歳6か月健診の際、保護者が言葉の遅れについて相談している。
  • 発達障がいの診断は受けていない。

※上記のモデルケースは、特定の個人についてのものではありません。

保育者の気がかり

  1. 言葉の遅れに対して、園として取り組むべきことは?
  2. 危険な行動に、どのように対処する?
  3. 保護者とスムーズに連携するために心がけることは?

ESDMの視点からのアドバイス

言葉の育ちは行動にも影響を及ぼす

発達には個人差がありますが、2歳児であれば「二語文」を話し始める子が多くなってきます。まだ発語がなく、言葉の理解も進んでいないAくんは、言葉の習得がやや遅いといえます。園では、Aくんが言葉の力を伸ばしていけるよう、少し重点的にかかわっていきましょう。

また、じっとしているのが苦手な子は「刺激」を多く求める傾向があります。Aくんの特性に合わせて、感覚で楽しめる遊びを取り入れてみてください。遊びを通して保育者との信頼関係が深まると、指示に従える場面も増えてくるでしょう。

言葉は「話す」「聞く」だけでなく、「考える」ときにも使います。言葉でのやりとりがしっかりできるかどうかは、思考力や理解にも影響を及ぼします。言葉でのコミュニケーションがスムーズになることで、行動をコントロールする力も身についてくる可能性があります。

気がかり1 どうする? 言葉の遅れ

①行動にナレーションをつける

子どもの行動や興味を示したものなどを、保育者が言葉に置き換えます。

「ものの名前」にばかり偏らないように注意。子どもの動作やものの様子なども言葉にしていく。

ナレーションの目的は言葉を「教える」ことではなく、「与える」こと!

ナレーションは「1up(ワンアップ)ルール」を守る

子どもとかかわるときは、「今できること」を1段階ずつ上げていく (=1up)のが基本です。いきなりレベルの高いことを求めたり、すでにできることのくり返しになったりしないように注意しましょう。

②「話すこと」をせかさない

話させようとするのは逆効果。Aくんが「話したくなる」かかわりを根気よく続けましょう。

話すように促されることは、Aくんにとってプレッシャーに。こうしたことが続くと人とのかかわりそのものが不快になり、話す意欲が高まりにくくなってしまう。
保育者が「ちょうだい」といいながら渡すとよい。
言葉を知っていても、本人が「使おう」と思わなければ話さない。

話すためには、人とかかわりたいという気持ちが必要!

目指すゴールは「言葉を使う」こと。言葉を知っている ≠ 話せる。

気がかり2 どうする? 危険な行動

①目標を整理・共有する

Aくんの現状に応じて無理のない目標を設定し、保育者間で共有します。

②危険な行動は確実に止める

ケガやトラブルを防ぐため、Aくんから目を離さず、危険な行動は事前に止めます。

 手をつかんで引っぱる

手のひらは敏感で、刺激が強く感じられる部位。いきなりつかまれると、反射的に力を入れてしまう。最終的に「引っぱりっこ」になって子どもが「力負け」する……という不快な経験につながりかねない。

 手を添えるなら背中やおしり

背中やおしりなど、感覚が比較的鈍い部分に手を添える。

 体全体でブロック

子どもの進行方向に回り込み、体でブロックする。

③「感覚」で楽しませる

子どもが求める刺激を保育者が「入力」することで満足感を高め、信頼関係を深めます。

膝を曲げ伸ばし

子どもをあおむけに寝かせて足を持ち、声をかけながら膝をゆっくり曲げ伸ばし。

だっこして揺らすことや、手遊び歌などもおすすめ!

指でトコトコ

人さし指と中指を歩くように動かし、机の上から子どもの腕へ。子どもの様子を見て、声をかけながら行う。

落ち着いて楽しめるようになったら……

保育者から誘ったことをひとつクリアしてから、子どもがやりたい遊びを始める。

保育者が誘ってハイタッチをしてから……。

「先生の言うことを聞いたらいいことがあった」という経験が、他人に注目したり、指示に従ったりする行動につながっていく。

子どもがしたい遊びをする。

刺激へのニーズを満たしてバランスをとる。危険な行動=多くの刺激を求めている。

どの程度の刺激が「最適」かは、人それぞれ。

走り回る=刺激を自分で入力している。
    ⇩
他人が刺激を入力。
    ⇩
ある程度満たされると刺激への執着が減る。
    ⇩
満たしてくれた人への信頼感が深まる。

気がかり3 どうする? 保護者との連携

気になることは「本人ファースト」で伝える

保護者への連絡はこまめに。ポジティブな情報に加え、「気になること」もきちんと伝えることが大切です。

室内で走るのは……

✕ 「まわりの子に迷惑をかけた」と伝える

○ 本人にとってどうなのかという視点から伝える

いらだちや退屈などの不満を抱えているかもしれない。

同じ視点を持つことで保護者との信頼関係を築く。本人ファーストの視点=保護者の視点。

保育者が自分と同じ視点を持っていると感じると、心を開く。
    ⇩
保護者との連携がスムーズになり、家庭での協力が得られる。
    ⇩
子どもに対して、適切なかかわり方ができる場面が増える。


文/野口久美子 イラスト/河合美波

『新 幼児と保育 増刊』2022年春号より

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