心得ておきたい!はじめての乳児保育で大切なこと

特集
専門家からのアドバイス 0・1・2歳児保育の大切さ 

新任保育者にとってはわくわくもするけれど、不安もいっぱいの乳児保育。どんな言葉をかけたらいいの?どんなふうに遊んだらいいの?子どもとかかわるうえで心得ておきたい基本のコトを渡邊暢子先生にうかがいました。

お話

渡邊暢子 先生

元東京都公立保育園園長。退職後、保育士養成校講師、電話相談員などを経て、現在は、NPO法人 子ども家庭リソースセンター副理事長。

ひとりの「人」の育ちの手助けをする

子どもの育ちのうえでも、その出発点となる乳児期のかかわり方はとても重要です。0・1・2歳児というのは、年齢、月齢のほか個人差によっても発達には大きく幅があり、また、育っている環境の違いも影響されるところですから、ひとくくりに考えることができないのが難しさのひとつです。はじめて現場に出た保育者には、迷うことや戸惑うことも多いだろうと思います。

言葉を獲得していない子どもとのコミュニケーションの難しさにぶつかるかもしれません。ですが、よく観察していると、行動や表情で子どもはちゃんと表現しています。「何かいっても聞こえないぐらい集中している姿」からだって、その子どもの意思がきちんと表れているのです。

保育所保育指針の解説書には「応答的に対応する」という言葉が多く出てきます。子どもたちの「〇〇したい」という気持ちをどう受け取り、どう応えて尊重していくか。そのうえで、子どもとの関係性をどのように築いていくかが乳児保育のキーワードです。

赤ちゃんだから未熟、というのは大きな誤解で、これから育つひとりの人として、いろいろなことを感じ、考えています。その思いを受け取り、行動を認めて育ちの手助けをしていくと、乳児保育のおもしろさも見えてくるのではないかと思います。

「心地よさ」を優先に子どもたちが発するサインを感じ察して受けとめましょう

乳児とのかかわりには、感じとる、察することで、その思いに応えていくということが求められます。子どもが発するサインはいろいろありますが、「泣く」という行為も、発達に照らしながら考え、その心身の状態を読み取りたいサインのひとつ。

たとえば0歳児は、おなかがすいたとき、おむつが濡れたとき、眠いときなどに、その不快感を訴えて泣きます。子どもの要求を探りながら、それに応えていきましょう。おなかが満たされ、よく眠れると子どもは安心感を得られます。

0歳の終わりごろから、要求を満たしてもらう心地よさを通して「人とかかわる」ということを体験していきます。同じ人にくり返しかかわってもらうことで、「この人は信用できる」というような気持ちも芽生えてきます。それは泣き方の変化にも表れ、いわゆる「甘え泣き」も見られるようになります。人間関係の基礎をつくる年齢で、要求を満たしてもらうことで、「自分はかけがえのない存在なんだ」という自己肯定感にもつながっていきます。このときに受けとめてもらえないと、そのうち泣くのをあきらめるようになってしまうこともあります。素通りすることなく、丁寧にかかわりましょう。

2歳近くなると、「自分でやりたい」という気持ちが出てきます。感情が育っていきますから、やれないくやしさで泣くことも出てくるでしょう。感情というのは、ものや人との関係性ができてはじめて生まれてくるものですから、これは大きな育ちです。子どもが地団駄を踏んでいたりすると、成長を感じて「あ、くやしがってるんだな」と内心、とてもほほえましい気持ちになります。そういうふうに子どもの発達を理解してかかわると、「泣く」という行為ひとつとっても、おおらかな気持ちで対応できるようになっていくだろうと思います。

はじめての乳児保育で戸惑いがちな、子どもの「泣き」。泣きやませる手段ではなく、何を訴えたいのか、発達に照らしてその理由を読み取っていくことが大切。

「泣く」理由を察しておおらかな気持ちで受け止める

0歳

全面的に大人を必要する時期で、生活面のケアをベースしたかかわりが主軸に。生理的な要求に応えていくことで、子どもの「心地よさ」につながる。

1歳

人との関係性ができてきて、甘えて泣くということも。「びっくりしちゃったね」「眠たかったんだね」と言葉にしながらかかわることで、言葉の獲得にもつながっていく。

2歳

自我が出てきて、くやしさ、悲しさといった感情が泣くことで表す場面も。その気持ちを共感して受けとめ、「どうやったらできるかな」などの声かけをして、やりやすいように環境を整えたり、介助をしていく。

子どもをよく観察しましょう。「見守る」こともかかわり方のひとつです

子どもが何かをやり始めたときに「何をしているの?」と声をかけたり、おもちゃを手にしたときに「こうやって遊ぶものだよ」と教えたくなってしまったり。このような声かけが、集中していた子どもの思考をじゃましてしまうことはよくあることです。

1歳ぐらいになると、自分が見たり聞いたりした経験からイメージを広げて遊ぶことができるようになります。おもちゃをさわって自分なりに動かしてみたり、積み木をスマホに見立てて操作するまねをしてみたり。2歳になるとそのイメージはさらに豊かになって何かのつもりになって遊んだり、何かに見立てた遊びが広がっていきます。

そんなふうに自分の世界で遊んでいるときに、「だれと、もしもししているの?」「こっちで遊ぼうよ」などと声をかけられると、子どもがイメージを広げて自分の世界で集中していた思考が途切れて、遊びが中断してしまい、元の遊びに戻ることは難しくなります。

子どもがモノ(あるいは友達)との関係性で遊んでいるときはむやみに踏み込まず、子どもの中にあるイメージを想像することが大事。その遊びが広がっていくためには何が必要かを考え、さりげなく素材を用意するなども、かかわり方のひとつです。

こちらが黙っていても、子どもは何かを発見したとき、伝えたいときには必ず保育者を見ます。0歳児だって同じ。おもちゃをさわっていたら、その感触に心地よい表情をしたり、ときには振ったら「音が出た!」と、その不思議の発見に驚いて保育者を見るでしょう。このときに「ちゃんと見ているよ」と共感的に応えることが大切で、子どもは「見てくれている」という安心感を得て、また自由に行動をすることができます。こうしたかかわりが、主体性を育てることにもつながります。

「何をしているの?」という問いかけは、うまくできる年齢ではない子には、戸惑うことにも。しばらくその様子を見守るという配慮も必要。

「見守っているよ」が伝われば子どもは安心して次の行動ができます

しっかり目を見てうなずくだけでも、子どもには伝わるもの。「ちゃんと見守られている」ということがわかると、子どもは安心感を得て次の行動への意欲も生まれてくる。

どうしたら気持ちよく遊べる?探て環境を整えていくのも役目

「やらせたいこと」ではなく、子どもたちがやりたいことを探り、どうしたら気持ちよく遊べるだろうかと考えて、場所を用意していくことも保育者の役目。振って音が出るおもちゃに興味を持ったようなら、「今度は、吹いて音が出るものはどうだろう?」と考えてみる。子ども同士でお店屋さんごっこのようなことを始めたら、「次は袋を用意してあげよう」「お金になるものを作ってあげよう」と、その準備をしておく。発達と照らしながら、「次のステップにいくためには何を用意したらいいか」を長いスパンで考え、環境を整えていきます。

また、0歳だったら音が出たり感触を味わえるようなもの…、1歳ごろには並べてつなげたり積んだりできるもの…、2歳になったら組み合わせて遊べるもの…などというように、できるだけ多様なものを用意しておくと、子どもの興味を探る手がかりにもなります。

自分のところに子どもを寄せるのではなく、子どもに寄り添っていくということを意識するといいだろうと思います。たとえば2歳になると、子ども同士で遊んでいる姿も見られるようになってきますが、その中にそっと入っていって、遊びが広がる手助けをするということもあります。ままごと遊びのようなことをしていたら、お客さん役になってやりとりのバリエーションを広げてやる。「お茶です」といわれたら「ジュースが飲みたいんですけど、ありますか?」などと答えることで、子どもの発見につながって、次の展開に広がっていくこともあります。

いま、その子どもが何に興味があるのかは、その子自身が答えを教えてくれる。ふだんの遊びや手指の発達なども考慮しながら、できるだけ多様なものを用意しておくとよい。

育ちが見えてくると乳児保育はおもしろい

何に興味を持っているのかを探るために、子どもの行動の行き先をそっと追いかけてみるのもおすすめです。さりげなく子どものあとをついていってみると、子どもが見たかったもの、やりたかったことがわかることがあります。自分なりにテーマを決めて、その行動記録を書いてみるといいでしょう。「そういう理由があったのか!おもしろいな」という発見を、自分の中にも積み重ねていくことが大切です。

「なぜ、こんなことをするのだろう?」と、わからないことはたくさんあります。でも、自分とは違う人格の持ち主なのですから、わからないことがあって当然。それを理解しようと向き合い、子どもの気持ちをくみ取りながらかかわっていれば、子どもは子どもなりの思いで、表現して返してくれます。子どもの育ちが見えてくると、保育もおもしろくなっていきます。

気づかれないように、さりげなく行動を観察してみよう。大人とのかかわりの中で遊んでいるときとは違う姿を発見することも。

はじめての乳児保育 ココもチェック!

知識の引き出しを広げ自分の考えも育てていく

子どもの命を見守るためには医学的な基礎知識も必要です。また、発達のことについても疑問に思うことがあれば専門書などで自ら調べるように心がけましょう。先輩保育者のやり方を見たり、その場で助言を求めることはもちろん大切。ただ、子どもとのかかわりにおいてはその人の価値観を聞くということであって、ひとつの見方にすぎません。いろいろな考え方を知って引き出しを広げていくことで、柔軟に対応できるようになります。

保護者に育児相談されたらよく聞く&即答しない

保護者に子どものことを相談された場合、まずは「よく話を聞く」ということがとても大事。何に困っているのか、どうしたいと思っているかを聞いたうえで、「経験が浅いので園で確認します。お返事を待っていただいてもいいですか」と正直にいって即答は避けます。保護者は、答えられるかどうかよりも、誠実に向き合ってくれるかどうかを見ています。子どもの姿を認めてくれて、その様子を伝えてくれる保育者であれば、保護者からの信頼はついてきます。

集中している子どもの遊びを保障する

何かに集中している姿が見られたら、その空間を保障してやりましょう。2歳ぐらいになると子どもなりに「自分のエリア」を持っていて、ほかの子どもに入られるのを嫌がることも珍しくありません。これが「かみつき」や「ひっかき」という抗議に表れることも。保育者がさりげなく間に入って、みんなの視界から隠すようにしてもいいでしょう。タイミングを見て保育者が先に入り、ほかの子も入っていけるようにフォローします。

子どもとの愛着関係をしっかり築いていく

生活の部分では、同じ保育者が同じルーティンでかかわっていくのが基本です。このかかわりの中で愛着関係が育ち、「どんな自分でも受け入れてもらえる」という安心感を得て自己肯定感の育ちにもつながっていくわけです。ただ、自分の担当ではない子どもが求めてきたときに「担当じゃないから」と遠慮するのはナンセンス。柔軟に応答していきましょう。

要マスク時代「笑顔」はいつも以上に意識を

いま、マスクをして保育をせざるを得ない日々が続いています。咀嚼(そしゃく)したり、言葉を話すことを身につけていく乳児期に、大人の表情が見えないということは大きな懸念材料になっていて、必要に応じてマスクを外すなどの工夫もされています。安全を守ることが第一ですが、これが当たり前と思わないように意識して、「顔」を見せる時間を作りたいもの。マスクをする場合でも笑顔は忘れずに、目の表情にも注意を払いましょう。


イラスト/小泉直子

『新 幼児と保育増刊』2021年春号より

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