保護者支援にもつながる 乳児保育の基本をCHECK!

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専門家からのアドバイス 0・1・2歳児保育の大切さ 
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日々の成長に喜びややりがいも大きい一方で「わからない」「困った」「どうしよう?」にもぶつかりがちな乳児保育。それは保護者にとっても同じです。そこで、乳児期の発達の過程で押さえておきたい基本を「生活リズム」「自己主張」「人間関係」3つのキーワードから CHECK! 子どもとのかかわり方を理解し、保護者へ伝えることはそのまま保護者の支援にもつながります。

お話:工藤佳代子 先生(東京家政大学ナースリールーム施設長)

東京家政大学ナースリールーム施設長。「乳児保育はとても難しく、私自身、学生時代よりも教科書をたくさん読んでいます。わからないことをすぐに調べることで、それが知識になり経験になり、次に生かされます。迷ったときや困ったときには、先輩保育者にもどんどん質問しましょう」

子どもの育ちは一人ひとり違うことを把握しておきましう

0・1・2歳児の保育は、おもしろくもあり、やりがいもありますが、とても難しく戸惑うことも多いと思います。

特に0歳は特化した知識が必要で「それってどういうこと?」と思っている間に、次の発達段階に入ってしまうことも。経験の少ない保育者がベテランの先生と組んで担当することも多いのですが、サポートはあるとはいえ保育者として見られるからには、抱っこの仕方などの技術的なことや、生理的なこと、発達的なことは、かつて学んだことをいま一度振り返っておく必要があるでしょう。

ただし、学んだとおりにやろうと思うと必ずズレが生じてきます。子どもの発達には個人差や月齢差があることも、把握しておくことが大切。子どもとのかかわりにおいてもこれが基本で、「一人ひとりの発達や個性を的確にとらえる」ということをベースにしていきます。

CHECK! 生活リズム

睡眠、授乳、排泄…。一人ひとりの生活リズムをとらえて保育を組み立てていきます。

園のスケジュールではなく一人ひとりのリズムで保育を

保育園のスケジュールに子どもを合わせるのではなく、子ども一人ひとりを尊重して保育を組み立てていくということが基本です。0歳児保育では、まず最初に一人ひとりの生活リズムを的確にとらえるというところから始めましょう。

2時間の間隔で眠くなる子もいるし、3時間の間隔で眠くなる子もいます。おなかがすく間隔も子どもによってそれぞれ。「子ども一人ひとり、家庭での過ごし方も違えば体力も個性も違う」ということを前提に考えていくことが大切です。

日々の保育においても、昨日は何時に寝て、今日は何時に起きたか、連絡帳や保護者との会話を通してそれを確認し、一人ひとりの今日の保育園での過ごし方の見通しを立てていきます。

生理的欲求をタイムリーに満たせば機嫌のいい子が増えます

0歳児保育では、赤ちゃんの「泣き」に戸惑うことも多いと思います。でも、タイムリーに生理的欲求が満たされていれば、そうそう泣き続けることはありません。

「さっきミルクを飲んだからおなかがすいているわけではない」「寝て起きてまだ〇分しかたっていないから眠くはないはず」と消去法で考えていくと、「ああ、同じ姿勢で疲れちゃったんだね」などと、子どもの要求がわかってきます。

生理的欲求が満たされないと、機嫌の悪い子が増え、子どもが泣いて訴えることが増えていきます。「一人ひとりの生活リズムに合わせる保育は大変そう!」と思うかもしれませんが、実際には生理的欲求が満たされているので、機嫌のいい子が増え、楽しく過ごす時間が増えていきます。

保育者から保護者へ:最初の面談で話しておきたいこと

「一人ひとりを尊重したい」その思いを知ってもらうことから

それまでの育ちの経緯を知っている保護者は、子どもが気持ちよく過ごせるための情報をたくさん持っています。最初の面談では、それを具体的に引き出していきましょう。園としての「一人ひとりを尊重したい」という思いを伝え、「そのためにも家でのことを教えてください」という姿勢から入ることができるといいですね。園のルールなどを伝えるばかりになって、「ここで生活するためには頑張らなきゃいけないんだ」と思わせてしまわないように気をつけて!

CHECK! 自己主張

1歳を過ぎたころから見られるようになる「自己主張」。成長の証しとして喜ばしい瞬間です。言葉で表現できるようになるにしたがい、落ちついてきます。

「イヤ」「ダメ」という表現ができるようになることは、自分の意思を持つようになったという目に見えない成長。自分らしく生きていくための第一歩を踏み出したという証しです。

「イヤイヤ期」などとネガティブにとらえられがちですが、私たちとしては1歳の誕生日よりも「おめでとう!」といいたいほどです。

的確に気持ちを代弁することで表現力も育っていきます

いわれていることを理解する力はあるのに、自分の気持ちを表現する手段がまだとても少ないために、そのアンバランスからイライラしたり、もやもやしたり。本人だって、その気持ちに困っているのです。そんなとき「イヤじゃないでしょ!」「違うでしょ!」と否定されてしまうと、自分の存在を肯定的にとらえられなくなってしまうことにも。

そばにいる大人は、「その気持ちをわかりたいと思っているよ」「どんなときもそばにいるよ」と肯定的に寄り添っていくことが大事。

また、表現しきれないその気持ちを引き出して代弁していくことは、やがて言葉を使い始めたときの表現力にもつながっていきます。

「大事なものを持っていかれたら、イヤだったよね」など、子どものことをよく見て、できるだけズレがないように的確に言葉にしてあげましょう。

ときには、なかなか気持ちが切り替わらないときもあります。そんなときは「ちょっと外の空気を吸ってみるのはどうかな」など、気分転換の仕方を提案してみるかかわりも必要です。

保育者から保護者へ:「困った!」と相談されたら…

大人の受けとめ方で子どもとの関係性が変わることも

気持ちがぶつかり合ったとき、どちらかがクッションのような柔らかい存在になれば、受けとめることができます。子どもの自己主張に「困った」と保護者に相談されたときは、いまのその子の心の成長を伝え、子ども理解の視点から話をしてみましょう。大人の側の受けとめ方が変わることで、子どもとの関係性に変化があるかもしれません。もちろん、子どもにも意思があるように大人にも意思があるわけですから、「ママはこう思うんだよ」「ママも悲しくなっちゃうんだよ」というのは伝えても大丈夫。けっして「いい加減にしなさい!」「勝手にしなさい」とつき放さないことが大切だと伝えます。

CHECK! 人間関係

友達とのかかわりも増えてくるのが2歳ごろから。それぞれの「心地よいこと」が保障されて初めて、人への理解が育っていきます。

人との距離感、人とのかかわりの中で、心地いいと思う状況は一人ひとり違います。みんなと仲よくしてほしいというのは大人の思い。子どもは自分自身の遊びが満足すると、自然に興味が周囲へと広がっていきます。もちろんぶつかり合うこともありますが、実際のかかわりを通して、人とかかわることが「楽しい」「おもしろい」「心地よい」ということを経験していきます。

人とどうかかわったらいいのか、そばにいる保育者がそのモデルになるようなかかわり方を見せていくことも必要です。「〇〇ちゃんは、あのトンネルができるまでは食べるどころじゃないから、残して待っていてあげようね」「うまくいくように応援しようね」など、場面場面でどんな言葉をかけるかによっても、子どもの育ちは大きく変わってきます。

言葉にできない思いがさまざまな表現に出てきます

人間関係の中で、子どもが自分の思いどおりにならなかったとき、「かみつく」「ひっかく」「髪の毛を引っぱる」「ものを投げる」といった行為で、言葉にならない思いを表現することがあります。保育の場では、傷が残ってしまう「かみつくこと」「ひっかくこと」に敏感になりがちですが、子どもによって表現方法が違うだけ。

押すこともかみつくことも同じだということは認識しておきましょう。いずれの場合も「ダメ!」と叱るのは逆効果。否定されると、子どもは表現することをやめてしまうからです。

トラブルが起こったときには、痛い思いをしそうな子どもを守りながら、「あなたがそうせざるを得なかった気持ちも助けるからね」という姿勢を示し、「一緒にお話ししてみようか」などと、思いを表現する方法は色々あることを伝えていきます。

保育者から保護者へ:子ども同士のトラブルどう伝える?

子ども同士のかかわりが増えてきたら育ちの過程で起こりうることとして伝えておきます

子ども同士のかかわりの中で、言葉にできない思いが、押してしまったり、かみついてしまったりといった表現に出てくることは起こりうること。保護者には、子ども同士のかかわりが増えてきたら「人とのかかわりの育ちについて」「表現方法がまだ未熟なこと」「人とのかかわりの育ちで大切にしたいこと」などを伝えておきます。子ども同士のトラブルを大人同士の関係に持ち込んでしまうと、子どもたちの関係にもプラスにはなりません。その考えも丁寧に伝えて、理解を求めておけるといいでしょう。

支援につながる保護者へのアプローチのコツ

一人ひとりをよく見ているからこそできる保護者支援につながるアプローチ。その伝え方のポイントを教えてもらいました。

経験が少ないうちは、保護者から質されたり、相談されたり、あるいは「こうしてください」といわれると、身構えてしまうこともあるかもしれません。でも、そういってくれる保護者は、子どもの幸せを願っているという点で思いを共有しやすく、その後もフォローしやすいのです。困ったとき、問題意識を持ったときに寄り添うことで、保護者は「相談に乗ってもらえてよかった」「また聞いてみようかな」と思えるようになります。

根拠を持って伝えるそのための知識の更新は必要

育児雑誌などから保護者が取得する子育ての情報は、大人の立場から考えたものがほとんど。でも、子どもは一人ひとり違いますから一般的な方法論では解決しないことも多いんです。根本的な問題が解決されずに結果だけを求めていくと、ますます問題が大きくなってしまうことも。保育者は、その子ども一人ひとりの立場から、専門家の目で発信していくことができます。根拠を持って的確に発信していくためにも、知識を常に更新して、子ども理解を深めていきましょう。

こちらが気になることでも、保護者が問題意識を持っていないうちは、伝えることを控えたり、慎重にアプローチしていく必要があります。「こうしたほうがいいですよ」というアプローチが、保護者には「指摘された」と感じさせてしまうこともあるからです。

園では家庭での食事を問題に感じていても「家では食べてくれないけど、園では食べているから安心!」と思っているうちは伝わりにくいものです。その場合は、興味を持ってもらう、知りたいと思えるようなアプローチから始めてみるのも手。「きょうの〇〇がとてもおいしかったようで、3回もおかわりしました」など、園での食事の様子を丁寧に伝えていくといいでしょう。「なぜ、園では食べるんだろう?」と保護者自身が考え始めたら、アプローチのチャンスです。

保護者の安心は子どもの安心につながります

「わが子のことを自分以外に考えてくれている人がいる」と思ってもらえることが、真の意味で保護者の安心につながります。困ったり、問題が起こったときに頼れる存在であることはもちろん、ふだんから子どもの育ちを一緒に楽しめる、うれしいことや感動したことも分かち合えることが大切。保護者が安心して子育てすることで、子どもは落ち着いて過ごせるようになります。

保育者から保護者へ:「離乳食」と「排泄の自立」のこと

ここでは、保護者からの悩みごと相談も多い「離乳食」と「排泄の自立」のことを CHECK! 保育での取り組みや考え方を、子ども理解の観点から伝えていくことがポイントです。

離乳食:離乳食を食べてくれない

園の食事を解説できると保護者も応用しやすくなります

いまは便利な時代です。子どもが生まれるまで家であまり食事を作ってこなかったり、調理や食材に関する知識が少ない保護者も少なくありません。離乳食を作るのが難しい場合には市販の離乳食を使うという手もありますが、毎日同じ味では子どもも飽きてしまい、また食べやすくもなっているために咀嚼も上手になりません。発達段階に合わせた硬さの食事をしていくことが、咀嚼の機能の発達にとっても大切です。

「園では食べているのに家で食べてくれない」と相談があったときには、具体的に調理方法を説明したり、実際に試食をしてもらって硬さや味、食材の大きさや形を知ってもらうといいでしょう。子どもが食べている様子を写真や動画に撮って見てもらうのも手。

子どもは、さまざまな経験を積むことで口の中も成長・発達していきます。また、いろいろなものの味を経験することで味覚が育ち、さまざまなものが食べられるようになっていきます。

たとえば「○○という理由で園では、だしをたっぷり使って、食べたときにうまみが広がるようにしているんですよ」といった解説までできると「そういうことなのか!」と、保護者の方も応用しやすくなりますね。

排泄の自立:おむつがとれない

焦らず様子を見ながら状況を共有していきましう

一般的にはトイレットトレーニングなどといいますが、練習することでおむつがとれるわけではありません。膀胱が発達しておしっこをためられるようになり、筋肉を緊張させたり弛緩させたりしてトイレでおしっこが出せるようになり、そのことが頭で結びついて「こんな感じになったらトイレでおしっこがでるんだ」と自覚する。この3つが揃って初めて排泄が自立します。

保護者としては「おむつがとれない」という焦りの中で悩むことが多いのだろうと思います。ちょうど自我の成長まっさかりのときとも重なってくる時期。「イヤだ」というときに無理をさせていないか、家庭のトイレの環境はどうかなど、イヤがる理由を加味しながら、保育者は「様子を見ながらこちらでもやっていきますね」と伝えていくといいでしょう。

子どもはほめすぎると失敗したときのダメージが大きいし、叱りすぎると恐怖になります。そのうちとれるものに、そんなに子どもの気持ちが揺さぶられる必要はないと思うのです。焦っている方には「慌てないで」ということをうまく伝えていけるといいですね。

文/木村里恵子
イラスト/上島愛子

『新 幼児と保育』増刊『0・1・2歳児の保育』2022春より

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