保育者のこんな言葉が子どもの脳を育てます!

特集
専門家からのアドバイス 0・1・2歳児保育の大切さ 

発達の芽生え期にいる0・1・2歳児。まだはっきり話すことは難しい時期ですが、対話の刺激で脳はどんどん育っています。この期間に受けた言葉の質や量が、「将来まで左右するらしい」という研究もあるほどで、長時間、子どもとともにいる保育者のかかわりは、責任重大。ではどんな言葉を使いやりとりをしたらよいでしょうか? 高山静子先生にお話を聞きました。

お話

高山 静子 先生
保育者、子育て支援者の経験を経て、平成20年より保育者の養成と研究に専念、現在、東洋大学ライフデザイン学部准教授。保育者の専門性とその獲得の過程が主な研究テーマ。著書に『学びを支える保育環境づくり』(小学館)など。

言葉によるかかわりの前に確認したい3つのこと

脳を育てる言葉のかかわりには、それを支える前提条件があります。これらがなければ、個々の子どもとの丁寧なかかわりが成り立ちません。まず、その前提について考えてみましょう。

時間的な環境|主体的な遊びを保障する

保育施設には、ひとつのクラスに複数の子どもがいます。0〜2歳児の保育では、個別のかかわりが基本になります。

このときもし、「時間で切って全員を動かす一斉保育」が中心だったらどうでしょう?保育者は「次は○○するよ」と、指示を出すのに忙しくて、一人ひとりにかかわる時間が取れなくなってしまうと思います。

でも、子どもが個々に好きな遊びができる、子ども主体の保育であれば、必要に応じて保育者はひとり(もしくは数名)のそばに行くことができます。ここから、個々への言葉のかかわりが始まるんですね。

物理的な環境|興味に沿った設定を

たとえば、空間にブロックしかないような環境では、子どもは手持ちぶさたになって、保育者のまわりに集まってきます。こうなると、全員にかかわることに忙しくなってしまいます。

でも、興味に沿った多様なものがある環境なら、子どもはそれを手に取って遊べます。たとえば、森の中での保育を想像してください。子どもが保育者のところに集まっていることはありませんよね。まわりにもっと興味が持てる環境があるからです。自然物や玩具とのかかわりも「対話」です。子どもがものと対話をしているときは、静かに見守りましょう。

人的な環境|三項関係を意識して

保育者が子どもにかかわるとき必要なのは「三項関係」です。三項関係とは、物的環境(物・自然・人)を真ん中にした、子どもと保育者の人的関係性のこと。子どもと大人の「二項関係」で見つめ合うことを重視するのは、新生児のころです。

「環境を通した保育を行う」。これは保育所保育指針や幼稚園教育要領の総則1章にも書いてあります。

人的環境として、保育者は、三項関係を念頭に子どもと興味の対象について対話することを意識してほしいと思います。「興味のあること」からしか人間の脳は、学べないようにできているんですよ。

言葉で脳を育てるための4つの基本

前述した3つの項目を前提として、実際の言葉のかかわりで心がけておきたいことがあります。4つの基本事項をここで紹介します。

1 ポジティブな言葉かけ

0〜2歳児は、まだこの世に生まれたばかり。「〜をしてはだめでしょ」と注意されても、一体、何を求められているのか想像できません。そういう否定の表現より、「〜しようね」と、すべきことをポジティブに、具体的に伝えてください。そのほうが何をしたらいいかがはっきりわかって、学びにつながります。

また、「まったくもう!」「いい加減にして!」など、自分のネガティブな感情を吐き出さないよう、保育のプロとして、意識してコントロールしたいですね。ネガティブな言葉は、子どもの脳を育てないことが研究でもわかっているんですよ。「言葉のかかわりはポジティブに具体的に」。これがひとつ目の基本です。

2 自己決定できる話しかけ

保育の目的は、「子どもが自立し、その子の人生の主人公となって生きるための援助」です。

その援助に必要なのは、子どもを自分の思いで動かす言葉ではありません。子どもが自分で決めて行動できるよう促す言葉です。たとえば、「ご飯だからもう片づけて」ではなく、「そろそろご飯だけど、どうする?」というような問いかけですね。

このとき、まだ遊びたいようなら、「まだ遊びたいんだね」と、その気持ちを一度受けとめます。そのうえで「じゃあ、終わったらおいでね」と、自分で終わりの時間を決められるようにします。

こういう子どもを主体とした保育では、子どもを急がせたり待たせたりする必要がほとんどなくなります。そうすると、食事中であれば「さあ、どっちが早く食べ終わるかな?」というような言葉かけではなく、「ブロッコリーだね。どんな味?」など、子どもの気づきにつながるような会話ができるようになるんですよ。

3 子どもに合わせた応答的かかわり

保育指針、こども園要領の0〜2歳児の部分には、何度も「応答的なかかわり」という表現が出てきます。応答的なかかわりというのは、

  • 子どもの関心のあることに対して
  • 子どもの横に並んで(三項関係)
  • 子どもがこちらに注意を向けたときに対話する

ことです。

ですから、子どもが集中して遊んでいるのに、上から「すごーい!」などと声をかけてしまうのは、応答的対応とはいえません。

子どもと大人が会話のやりとりをすることが、脳の発達によい影響を与えることが研究でわかっています。


『3000万語の格差ー赤ちゃんの脳をつくる親と保育者の話しかけ』

ダナ・サスキンド〈著〉
掛札逸美〈訳〉
高山静子〈解説〉
明石書店

「3歳までに保護者が子どもに話す言語の数は、多い家庭とそうでない家庭で3000万語の差がある。それが先々学力などの差になって表れる」

この調査を含め、アメリカのダナ・サスキンド博士は、0〜2歳までの言葉のかかわりが重要であることを、この著書の中で説いています。サスキンド博士が示すかかわりのポイントは、「3つのT」

  • Tune in(チューン・イン)…子どもに注意と体を向ける(子どもの興味を観察し、その意味を解釈し行動する)。
  • Talk more(トーク・モア)…その興味に沿って、たくさん話す。
  • Take turns(テイク・ターンズ)…子どもと順番に対話する。

実際、この「3つのT」をベースにしたプログラムを作成し、成果を上げているようです。そのほかにも多くの目を見張る知見が紹介されています。ぜひ読んでみてください。

4 発達に合わせた言葉のかかわり

大人であれば、話をしながら作業をするなど、ふたつのことを同時にすることができます。しかし、0〜2歳児の子どもはまだ、何かをしながら人の話を聞くことはできません。

そのような子どもの発達特性を知っていれば、「集中しているときには声をかけない」ことが理にかなっていると気づくはずです。

0〜2歳の時期には、体を動かすこと、手を使うこと、人やものとかかわることによって脳を発達させます。そのために大切にしてほしいのが、「直接、ものに触れて、その体験に対して保育者から言葉を添える」こと。

知識だけを取り出して、教え込むような学びは0〜2歳には向きません。また子どもが想像して遊んでいるときに、色や形、数などの概念ばかりを教え込むと、子どもの遊びの世界は壊されてしまいます。

食事や着脱などの生活の場面では、ものの名前や数などの言葉を正確に使い、遊びの場面では、想像の世界に合わせて言葉を使ってみてはどうでしょうか。

人権侵害レベルのNG集 子どもの脳を傷つけるネガティブな言葉のかかわり

ポジティブな言葉をかける大切さについては前述しましたが、反対に、命令する、どなる、叱りつけるなどの言葉は、子どもの脳の発達を妨げることがわかっています。相手が大人なら言わないのに、幼い子どもだとつい言ってしまう言葉はありませんか? 園のみんなでチェックしてみてくださいね。

文・イラスト/大枝桂子

『新 幼児と保育』増刊『0・1・2歳児の保育』2018冬より

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