その子に合った目標を立て、かかわり方を考える【臨床心理士に聞く 社会性の発達を応援するかかわり方 #1】

特集
発達が気になる子どもへのかかわり方

児童発達支援の現場には、保育に取り入れられるヒントがたくさんあります。
『新 幼児と保育』の編集部が、株式会社スペクトラムライフの児童発達支援「早期療育すれい」で行われている療育を見学し、代表で臨床心理士の桑野恵介先生にお話をうかがいました。

(この記事は、『新 幼児と保育』の増刊『0・1・2歳児の保育』2021夏 に掲載されたものを元に再構成しました)

お話

桑野恵介先生
株式会社スペクトラムライフ代表。臨床心理士、ESDM 認定セラピスト。埼玉県の入間市児童発達支援センターうぃずの受託事業者。2019年埼玉県立上尾特別支援学校特別非常勤講師、東京大学高度医療人材養成プログラム「職域・地域架橋型・価値に基づく支援者育成」講師。

子どもへの支援の3つの手順

社会性を育てるベースは、他人とのかかわりが「よい経験」になること。まずは一緒に楽しみながら、注目する・されること、他人に興味を持って働きかけることなどを伝えていきましょう。

「早期教育すれい」では、「ESDM(イー・エス・ディー・エム)」の考えに基づいた療育を行っています。ESDMとは、 Early Start Denver Modelの略です。自閉スペクトラム症などの発達障がいのある子ども向けの超早期介入指導プログラムで、1歳から行われています。子どもへの支援は、次の3つの手順に沿って行うのが基本です。

1、目標を立てる
2、手立てを考え、実行する
3、達成度を確認する


目標と手立てはそれぞれの子に合わせて設定し、毎回、達成度をチェックします。6か月に1回は計画を見直し、達成度に応じて目標や手立てを更新しています。

こうした流れは、保育の現場にも取り入れられるのではないでしょうか。困りごとを抱えている子について、まず「こんなことができたらいいな」という目標を決めます。そして、日ごろからその目標を意識しながら子どもとかかわり、生活の中で、行動や態度などの変化に注目していきましょう。

保育に取り入れるときの2つのポイント

上に挙げたような支援を行う際に、ポイントがふたつあります。ひとつ目が、適切な目標を立てること。具体的には、その子が「完全にできること」と「まったくできないこと」は目標に適していません。たとえば、担任の保育者と楽しく遊ぶことができない段階で、「クラスのみんなと仲よく遊ぶ」ことを目標にするのは早すぎます。「できつつあること」「ときどきできること」を目安に、その子に合った目標を設定しましょう。

ふたつ目が、目標や手立てをこまめに見直すこと。目標が達成できたと感じられたら、少しステップアップした目標を立て直します。反対に、目標を意識したかかわり方をしても効果が感じられない場合は、手立てが適切ではない可能性があります。子どもの様子を見ながら別の手立てを考え、実行してください。手立てをいくつか試してもうまくいかない場合は、目標を見直しましょう。

かかわり方の実例

シリーズ第2回、第3回では、「Aくん」の実例を通して、適切な目標の立て方やかかわり方をお伝えします。

Aくん(1歳10か月)
声かけにあまり反応しない、保護者と視線を合わせることが少ないなどの気がかりから、1歳8か月から療育をスタートしました。

協力

株式会社スペクトラムライフ 早期教育すれい(埼玉・所沢市)
1歳半程度から就学までの児童に対する発達支援を行っている。1回約50分、スタッフが1対1対応で、机上のお勉強30分、自由遊び20分を行う。子どもそれぞれの優れた部分を伸ばし、苦手な部分に折り合いをつけたり底上げしたりすることを目的としている。また、スタッフとかかわりながら活動することで、「人とかかわることの楽しさ」や成功体験を積んでもらうことも目的の一つ。

早期教育すれいでの療育の様子。

文/野口久美子 イラスト/河合美波

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