情報を集めて背景を理解しよう【ほかの子と遊ぼうとしない新入園児の援助 #2】

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「気になる子」への対応において忘れてはいけないのが「行動には理由がある」ということ。

子どもとの関係をよりよいものにするのに役立つ具体的な対応例を、巡回相談支援に携わる臨床心理士の木原望美先生に教えてもらいました。
3回シリーズでお伝えします。

(この記事は、『新 幼児と保育』2021年4/5月号に掲載されたものを元に再構成しました)

お話

木原望美先生
臨床心理士・公認心理師。愛育相談所、愛育クリニック医療福祉室。千葉県や東京都で巡回相談支援に携わり、困りごとを抱えた子どもや保護者の支援、保育者へのアドバイスなどを行ってきた。

モデルケース(※)

新入園児のAくん(3歳・男の子)
いつも電車のおもちゃでひとり遊びをしており、保育者が誘っても友達と遊ぼうとしない。Aくんが使っていたおもちゃに、横からBくんが手を伸ばしたとき、怒ってBくんをたたいてしまった。

※上記モデルケースは、特定の個人についてのものではありません。

情報収集

巡回相談支援では、園で事前にまとめた資料や園での観察から、「 気になる子」の行動や発達の特性などに関する情報を集めます。下記は園で事前にまとめた資料の例です。これを参考に、日ごろから子どもの様子に気を配り、記録しておくようにしましょう。

1.相談内容

友達とかかわろうとしないAくんを、遊びにどう誘えばいいか。

2.一番困っていること

Aくんが好きな遊びに友達が加わろうとすると怒り、手が出てしまうこともある。

3.家族の情報(年齢、職業、簡単な人物像など)

両親(30代前半)とAくんの3人家族。家では、Aくんに関して特に気になることはないそうだ。

4.園での様子

(1)生活面(食事、着替え、排泄など)

・初めての食べものを嫌がるため、お弁当のおかずは毎日ほぼ同じ。
・トイレで排泄できるが、園ではうんちができず、がまんしてしまう。

(2)健康・運動面(持病の有無、運動発達、手先の動きなど)

・動きがぎこちなく、転びやすい。
・背すじを伸ばした姿勢を保つのが苦手で、いすにすわっていてもぐんにゃりしてしまう。

(3)言語面(言葉の発達、コミュニケーションなど)

・言葉の理解に問題はないが、自分の気持ちや要求をうまく伝えられない。
・話を聞くのが苦手で、一方的に話す。
・「貸して」「やめて」といった「やりとり言葉」が出ない。

(4)行動面(注意の持続、多動衝動性、こだわりなど)

・電車のおもちゃを手に持って走らせる遊びを長時間続けている。
・自分の遊びにほかの子が入ってくるのを嫌がる。
・不安になると、そわそわして落ち着かない。

(5)社会性(友達・保育者への興味、かかわり方など)

・いつもひとり遊びをしており、友達には興味を示さない。

(6)感覚面(感覚の過敏さ・鈍感さなど)

・帽子をかぶるのを嫌がる。
・絵の具やのりなど、べたつくものをさわりたがらない。
・自由時間になると耳をふさいでいることがある。

(7)困っていることに関する園での具体的なエピソード

・電車のおもちゃを使おうとした友達をたたいてしまった。
・おやつのとき、いつもと違う席にすわるのを嫌がり、泣いてしまった。

5.園で行っている支援(うまくいっていること、うまくいっていないこと)

○ 怒ってしまったときは、別室に誘って落ち着かせるようにしている。

○「片づけて」ではなく、「はさみはこの引き出しに入れてね」のように、することを具体的に説明するようにしている。

✕ 友達と一緒に遊ぼうと誘っても、仲間に入らない。

✕ 「どうして嫌なの?」と聞いても理由をいわない。

6.保育者が気づいたこと

・自分が興味を持ったことには集中する。
・約束したことはまじめに守る。

7.相談機関(療育など)を利用しているか

していない。

背景の理解

集めた情報をもとに相談員と保育者が話し合い、「気になる行動」の理由などを整理していきます。

Aくんの気持ちを推測する

・友達の行動は予測できないため、友達の近くにいるのが不安。
・自分なりの遊びのルールを乱されるのが不快。
・体にさわれられたり、大きい声を出されたりするのがつらい。
・誰かと一緒に遊びたいと思っていないかもしれない。

→ だから友達とかかわらないのかもしれない。

感覚の過敏さ

帽子をかぶりたがたらない、べたつくものを嫌がるなどから、感覚の過敏さがあると推測。音や、体にさわられることなども不快に思う可能性がある。


興味の対象が限られている

いつも電車を使ってひとり遊びをしていることなどから、特定のものへの興味が強いこと、「人」より「もの」に興味があることなどを理解する。


予測できないことが起こるのが苦手

自分なりのやり方で同じ遊びをしたがったり、いつもと違う席にすわるのを嫌がったりするのは、予測できないことが起こるのが苦手な子どもに多く見られる特徴。


シリーズ第2回では、Aくんをモデルケースとした情報収集の仕方と背景の理解について考えました。
第3回では、Aくんとの具体的なかかわり方を提案します。 

文/野口久美子 イラスト/榎本香子

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