園と保護者をつなぐ 連絡帳の書き方レッスン

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毎日書いている連絡帳だけど、「この書き方でいいの?」「書くことが浮かばない……」などの不安の声が特に新人保育者から聞こえてきます。新任の保育者学習の一環として「連絡帳の書き方研修」を行っている陽だまりの丘保育園のみなさんが連絡帳を書くときのポイントや心構えをレクチャーします。

協力

園長
曽木書代 先生
主任(幼児担当)
間嶋利行 先生
副主任(乳児担当)
酒井真由子 先生

陽だまりの丘保育園
(東京・中野区)

社会福祉法人 龍美(りょうび)が2008年に開園。子どもの声を聴き、思いを大事に、保育をしている。定員123名(うち0歳児15名、1歳児20名、2歳児以上22名ずつ)。

解説

天野珠路 先生

鶴見大学短期大学部教授。2007年~2010年に厚生労省保育指導専門官を務める。その後、日本女子体育大学准教授を経て現職。

陽だまりの丘保育園オリジナルの書式の連絡帳
連絡帳の書式は陽だまりの丘保育園のオリジナルのもの(2022年3月まで使用)。

連絡帳を通して保育の専門職としての「子どもを観察する力」を磨く ~解説 天野珠路先生~

連絡帳は保護者との連携・協力のために欠かせないものであり、保護者と相互理解を図るためにたいへん重要です。子どもへの理解を深め、子どもの育ちを共有していくことは子どもの幸せにつながるでしょう。

陽だまりの丘保育園では、長年の保育経験を通して連絡帳が果たす役割を熟知し、新任者向けに「連絡帳の書き方研修」を実施しています。連絡帳を大切にしている園の姿勢を示すとともに、保育者のスキルアップにつながるこの研修は、保護者支援に関して不安の多い新人保育者にとって大きな助けになるでしょう。

研修では連絡帳を記載する際の具体的なノウハウがわかりやすく示されており、園の連絡帳について保育者間で話し合ったり事例を共有したりすることは、園のチームワークを高めます。その際、まず、子どもを見る目を養う「観察力」を基盤に置いているところに、保育の専門職集団としてのありようが伝わり、心強く思います。

レッスン1 基本の構成を知ろう

連絡帳を書くときには、「受けとめ」→「事実」→「内面」→「考察」の順で構成する、と覚えましょう。

【連絡帳の基本構成】

連絡帳の基本構成

基本の構成は4項目

陽だまりの丘保育園では、家庭との情報共有のツールとして、毎日の連絡帳を大切にしています。

連絡帳の役割は、子どもが園と家庭のそれぞれでどのような生活、どのような様子だったかを伝え合うことです。保護者は「うちの子をちゃんと見てくれているんだな」と安心することができ、それがお互いの信頼関係にもつながります。 保護者から悩みや相談を投げかけられることもあり、連絡帳は子育て支援の役割も果たしています。

もし新人保育者が連絡帳の書き方研修を受けずに連絡帳を書いたとしたら、連絡帳の構成は次ページの文例のように、

「事実」+「保育者の感想」という、報告型の構成が多くなるのではないでしょうか。これで、ただちに問題が起こるというわけではありませんが、保育の専門職としての視点が十分に発揮できているとはいえません。陽だまりの丘保育園では、

「子どもの行動」(事実)に加えて、 「子どもの内面」と「それに対する保育者の考察」を書く構成を基本と考えています。

【文例】

全体にありきたりなエピソードで、保育者ならではの視点が見られません。

文例

【改善例】

子どもの内面の読み取りとそれに対する考察が加わり、Bちゃんを近くで見ていた保育者にしか書けない連絡帳になりました。

改善例

週に1回は基本構成を忠実に

上の文例は保育園でよくあるエピソードを書いた連絡帳の文例と、どこに改善の余地があるのかを示したものです。改善例では基本の構成を意識して、「事実」に「内面」の読み取りと「考察」を加えて書いています。

この構成を絶対に守るべきルールにしてしまうと、窮屈に感じたり、負担に感じたりする場合もあるでしょう。たとえば保護者コメントの受けとめから、子育て支援につなげる内容を書く日があっても構いません(下の文例)。毎日は無理でも、週に1回は基本の構成に忠実に書くようにしたいものです。

保護者からのコメントの受けとめと支援の文例

保護者からのコメントの受けとめと支援の文例

レッスン2 「 これだけはNG」を知ろう

書いてはいけないことを、背景もあわせて理解しておけば、不用意な誤解を招かずにすみます。

①ネガティブなことは書かない

ネガティブな出来事を書くことは、それが1日の中の大きな出来事であっても、保護者に余計な心配をかけたり誤解が生じたりしかねません。切り口を変えて、その出来事をポジティブな視点から書くか、その先の成長のステップが見えているならそれをあわせて書くのはアリです。

NG例とOK例

②保育者のプライベートは書かない

日常会話の中では保護者と打ち解けられる場面もあるかもしれませんが、連絡帳は保育者と保護者で子どもの成長を共有するためのものです。保育者のプライベートなことは書かないようにしましょう。

NG例とOK例

③連絡帳でトラブルの報告をしない

トラブルがあったことを保護者に伝える場合は、お互いの表情が見える口頭での報告が適しています。保護者のデリケートな相談に返事をする場合も、時間をとってもらって直接話したほうがよいでしょう。

文章は形に残る安心感がありますが、微妙なニュアンスが伝わらずに誤解を招いてしまうことがあります。一般に、同じ内容を口頭で伝えられるのと文章で読むのでは、文章のほうが冷たい印象を受けるものです。

④保護者を不安にさせる「大丈夫だと思いますよ」

保護者の悩みに対する返信に「大丈夫だと思いますよ」のようなはっきりしない言葉を使うと、かえって不安にさせてしまいます。安心して保育を任せてもらうために、あいまいな言葉を使わないようにしましょう。「大丈夫」である根拠もあわせて書ければ理想的です。

⑤絵文字、顔文字は使わない

絵文字や顔文字は誠意が伝わらずふざけた印象も与えがちなので、使わないようにしましょう。絵文字や顔文字で印象を和らげたくなるようなエピソードは、口頭で伝えた方がよい内容なのかもしれません。

NG例

⑥無理に即答しない

保護者の問いかけに対して、難しくて答えにくいときや自分ひとりでは判断しづらいときには即答しないようにしましょう。考える時間をとったり保育者同士で相談したりしてから返信をします。その場合は、事情を伝えたうえで返事を待ってもらいたい旨を連絡帳で伝えるようにします。

OK例

連絡帳+ポートフォリオで子どもの姿を伝える

陽だまりの丘保育園の乳児クラスでは月1回程度、個人のポートフォリオを発行し、保護者に渡しています。子どもの育ちをじっくり伝える役割をポートフォリオが担っているので、その分日々の連絡帳は簡潔に記します。

ポートフォリオには、個人の指導計画からの抜粋も掲載しています。「できた/できない」という外面だけではなく、内面を描き出す記録になるようにしています。

ポートフォリオの役割

ポートフォリオ
  • 1か月単位で子どもの園生活と成長を記録し、園から家庭へ発信。
  • 家庭からのコメントで家庭での様子、保護者の思いがわかる。
  • 写真を使い、視覚的に伝わりやすくする。

連絡帳の役割

連絡帳
  • その日の子どもの様子や心の動きなどを記録。
  • 園と家庭、双方向の連絡と情報共有。
  • 短い文章で簡潔に記す。

読みやすく伝わりやすくする 漢字・ひらがな表記ルール

使い分けに悩む漢字、漢字表記にするかひらがな表記にするか迷う言葉はありませんか?

園の共通の表記ルールを作っておけば、連絡帳を書く担当者が誰であっても、読みやすく、伝わりやすい文章になります。

保護者向けに作成する記録の園共通表記ルール
(陽だまりの丘保育園の例)

漢字の使い分け「きく」
く:意識しないでただ耳に入ってくる音を受け入れるとき、尋ねるとき。
聴く:積極的に意識して音に耳を傾けるとき。

漢字とひらがなのどちらを使うか
 ×為   〇ため  
 ×こども 〇子ども  
 × ~達  〇~たち

子どもの心を読み取り、表現できるようにするために

連絡帳を書くのに必要な力をつけ、効率的に書くことができるように工夫している取り組みを紹介します。

新任保育者が連絡帳を書くようになるまで

陽だまりの丘保育園では、「連絡帳を書くうえで最も重要なスキルは、子どもを見る観察力」という考えから、新任保育者は連絡帳の書き方研修を受けたあともしばらくの間は連絡帳を書きません。目の前の子どもと向き合って保育をすることに専念します。

新任の保育者は、交換日記形式で主任に相談したりアドバイスを受けたりしています。その中で連絡帳を書くのに必要な子どもを見る力も磨かれていきます。

主任がOKと判断したら、新任保育者も連絡帳を書き始めます。最初のうちは下書きをしたものを主任がチェックしてから、保護者に送信するようにしています。

連絡帳を書く力が十分と判断されたら、晴れて独り立ちです。以後、連絡帳の記載内容は保育者に任され、送信前にクラスリーダーや管理職のチェックは入りません。

※以前大妻女子大学の岡健先生による研修で習った考えが園内で共有され、年々受け継がれている。

ひとり1台ずつデジタルカメラ

連絡帳を含めて保育の記録が効率よく作れるように、ひとり1台ずつ、デジタルカメラが支給されています。「子どものこの姿を伝えたい」と思ったらデジタルカメラでメモ代わりに写真を撮ることができます。

電子連絡帳システム導入

2022年度から連絡帳のシステムは紙からデジタルに移行しました。保育者同士の入力時間が重なることがないよう、パソコンの台数を増やしました。それまでの複写式のものとは、項目や文字量は変えていません。保護者にとってはスマートフォンで読んだり入力したりできて、利便性が向上しました。

タブレットを操作する保育士

保育の発信・情報共有がますます求められている ~天野珠路先生より~

保護者との信頼関係を構築するために、保育の専門性を高めるために、連絡帳の記載に習熟することがポートフォリオやドキュメンテーションの作成を含め、保育記録の充実につながります。さまざまな方法で自園の保育を発信したり、情報を共有したりすることは、今日ますます求められています。

陽だまりの丘保育園の連絡帳の書き方研修を参考に、自身の記録や連絡帳についてふり返り、園全体で話し合ってみてはいかがでしょうか。


文・撮影/丸橋ユキ

『新 幼児と保育』増刊『0・1・2歳児の保育』2022夏より

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