「わがまま」との向き合い方【保育に取り入れられる臨床心理士のワザ】

子どものわがままは叱っていいの? 受け入れるとエスカレートする? わがまま行動への対応と併せて、「わがままが出にくい」環境についても考えてみましょう。

お話

桑野恵介 先生

株式会社スペクトラムライフ代表。臨床心理士、ESDM認定セラピスト。埼玉県入間市児童発達支援センターうぃずの受託事業者。2019年埼玉県立上尾特別支援学校特別非常勤講師、東京大学高度医療人材養成プログラム「職域・地域架橋型・価値に基づく支援者育成」講師。

0・1・2歳児のわがままはできるだけ受け入れる!

子どもは1歳半ごろから、言葉や態度で気持ちを表現するようになってきます。そして2歳前後に始まることが多いのが、イヤイヤ期。身近な大人は悩まされることも多いでしょうが、何を言っても「イヤ!」と反応するのは自我が芽生えてきた証拠。だれかを困らせようとしているわけではありません。

子どもの行動が「わがまま」に見えることがあるのは、自分の気持ちを整理し、表現する能力が未熟だから。「困った子」などと決めつけず、その行動に込められた思いに目を向けてみてください。

この時期の「わがまま」は、できるだけ受け入れるのが理想です。叱って押さえつけてばかりだと、子どもの人格形成に悪影響を及ぼすことがわかっています。思いを尊重してもらう経験を重ねると心が満たされ、「思いどおりにならなければイヤ」という執着が薄れていきます。こうした心のゆとりや他人への信頼感こそ、社会生活で必要なルールを身につけたり、自制心を養ったりする際の大切なベースになるものなのです。

園での対応の基本

「困った子」と決めつけない

わがままな行動が目立つからと、「困った子」「問題のある子」などとラベリングしない。

「友達を押した」行動に注目し、理由を考える

遊びを邪魔されたのがイヤで、友達を遠ざけたかったのでは?

「困った行動」を変えていく

子どもが困った行動をとらずにすむよう、別の解決策を示してサポートする。

「友達にあっちに行ってほしいときは、助けてあげるから先生を呼んでね」と伝える。

「友達を押す」のと同じ効果がある別の行動(=保育者に助けを求める)を提案する

「わがままが出にくい保育者」を目指す

保育者が魅力的だと、子どもは自然に「保育者が喜ぶ行動」をとるようになる。

「先生と過ごすのは楽しい」という経験を重ねる。

保育者とのかかわりを増やすために、「先生の言うことを聞こう」と考えるようになる

魅力的な保育者の3要素

1 わかりやすい言葉かけ
するべきことやほめ言葉を、子どもにもわかるように伝えること。

2 きちんとほめる
子どもの存在そのものを認め、ほめるべきところでほめること。

3 楽しい活動
園での活動の内容が、子どもにとって興味深く、楽しく取り組めるものであること。

楽しさUPのポイント
・小さなサプライズをプラス
パターン化した「いつもの活動」に、たまに楽しい変化を加えて子どもの興味をひきつける。
・選ぶことで満足度アップ
できる範囲内で「どっちがいい?」と選ぶことができるようにし、活動に対する子どもの満足度を高める。

場面別・わがままへの対処法1 遊具やおもちゃをひとりじめ

ブランコで遊んでいるAちゃんが、順番を待っているBくんと交代しようとしない。Bくんが「代わって」と言うとAちゃんが怒ってBくんをたたき、ブランコの取り合いになった。

× NG対応

「代わって」って言われたら「いいよ」でしょ!

Aちゃんは納得できないため、その場で従わせることができても、行動として定着しない。

〇 おすすめ対応

行動の理由を考える
Aちゃんは「Bくんに楽しい遊びを邪魔された」と感じ、Bくんを遠ざけたくて、たたいてしまった。

気持ちに寄り添った対応を工夫する
「正しいほう」ではなく、「気持ちが乱れているほう」のケアを優先してよい。Aちゃんが納得する形で交代できる方法を工夫する。

最初は普通の速さでカウント

最後のほうだけ、ゆっくり数える!

場面別・わがままへの対処法2 集団活動に加わらない

クラス全員で折り紙をする時間になっても、Cちゃんが自分の遊びをやめない。保育者が「みんなと一緒にやろう」と誘っても、「イヤ!」と言うばかりで活動に加わろうとしない。

× NG対応

「早くこっちに来なさい」などと強く叱る。

活動に参加してもCちゃんにはモヤモヤが残る。叱って押さえつけることばかりだと、

子どもの人格形成に悪影響を及ぼす可能性がある。

〇 おすすめ対応

行動の理由に応じて対応を工夫する
何かを「しない」場合に考えられる理由は4つ。「わがまま」と決めつけず、まずは次の1~4をチェックする習慣を!

1 何をするべきかわからない

子どもの特性に応じて、伝わる形で説明する

A 簡単&具体的な言葉で「何をするのか」を説明する。
例:「次は折り紙をするよ」

B 活動をイメージできるものを見せる

C 活動と「いいこと」を結びつける
例:「折り紙ができたら、ママにプレゼントしよう」

2 心の準備ができていない

「次に何をするか」を、全員に指示する前に数回、個人的に予告しておく。

3 能力的に難しい

難しいところは保育者が手伝うが、最後の一手順は子どもひとりでできるように。

4 やりたくない(わがまま)

折り紙に子どもが好きなシールを貼っておくなど、好きなことと活動をからめる。

文/野口久美子
イラスト/河合美波

『新 幼児と保育』増刊『0・1・2歳児の保育』2022夏より

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