数パターンの訓練で子どもを守る【3.11東日本大震災から学んだ避難ルート #1】

防災への備えは、常にアップデートしておくことが大切です。

映画『3.11 その時、保育園は』(2011年岩波映像)の監修者でもある天野珠路先生が、東日本大震災の被災地を訪問。震災時にはどんな備えが役に立つのか、震災の経験を踏まえてどのように避難ルートを見直せばよいのかを探ります。

連載第1回は「数パターンの訓練で子どもを守る」。大槌保育園の八木沢弓美子園長先生に、大槌保育園の地震当日の様子や、「シークレット訓練」について、天野先生が話を聞き、レポートします。

(この記事は、『新 幼児と保育』2019年4/5月号に掲載されたものです)

レポートする人

天野 珠路(あまの たまじ) 先生

鶴見大学短期大学部教授。元厚生労働省保育指導専門官。映画『3.11 その時、保育園は』(2011年岩波映像)監修。著書に『写真で紹介 園の避難訓練ガイド』(2017年 かもがわ出版)、『3・4・5歳児の指導計画 保育園編【改訂版】』(小学館)などがある。

 取材協力

八木沢 弓美子(やぎさわ ゆみこ) 先生

社会福祉法人大槌福祉会 大槌保育園(おおつちほいくえん/岩手・大槌町)園長。
※大槌保育園は2020年4月に幼保連携型認定こども園おおつちこども園に改組しました。

波にのまれた第一避難所

大槌町は細長くのびた大湾の奥に位置する町で、大槌保育園は小鎚川(こづちがわ)河口から2キロほどの国道沿いにあります。震災当日は、大槌湾からの津波が国道を越えて押し寄せました。

「国道沿いのコンビニが津波の際の第一避難所で、そこへ5分で行く訓練を重ねていました」

と、八木沢弓美子園長は語ります。地震発生は14時46分、園庭が地割れしたため、園庭での人数確認をせずコンビニへ避難。3〜5歳児は防災頭巾をかぶり上着を着て歩きました。3歳未満児はパジャマに上着を着せ、避難カートに。113人の子どもたちは5分たたずに避難を終えました。

園から見た第一避難所のコンビニ(左に看板が見えている)。

次々とコンビニへ迎えに来た保護者に引き渡しつつ海のほうを見ると、土煙の間から電信柱が順番に倒れるのが見えました。

「津波が来る! 走って!」 

残った40人ほどの子どもたちをせきたて、右手で子どもを抱え、左手で避難カートを引き、国道の坂を上ります。轟音(ごうおん)とともに迫ってくる水とがれきに、山へ上がることを決意、地元の人々の手を借り、おんぶに抱っこではい上りながら急斜面を頂上まで上がったのです。15時20分ごろのことでした。

必死ではい上った斜面。からになった避難カートは坂を下って流されていった。


大槌保育園と国道を挟んだ向かい側のショッピングセンターは、がれきに埋もれた。

シークレットの訓練が奏功

地震の揺れは大きく長く、子どもたちは怖がっていましたが、職員は落ち着いていたといいます。

「震災直前に、日時を決めない『シークレット避難訓練』をやっていたんです。1月は午睡中、2月は給食中に。これが本当に役に立ちました。初めてのシークレット訓練では、多くの反省点が挙げられました。特に0歳児は「お昼寝から起こしてひとりで3人連れていくのは無理」だとわかり、栄養士などほかの職員にも分担してもらい、明確な担当制にしました」。

その結果、2月の訓練で職員の行動は大きく変わっていたそうです。自分たちの手で子どもの「命」をしっかり持っていこうという意識がより強くなり、
「今から思うと、何か予感していたのかと思うくらいです」

この経験から、園では行政の出す注意報や警報に敏感に対応し、現在も一層さまざまなケースでの避難訓練を行っています。


連載第2回では、仮設園舎で再開した保育と、避難方法の見直しについてお話をうかがいます。


構成/清水 洋美 
写真提供/大槌保育園 
写真撮影(プロフィール)/大枝 桂子

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