04 子どもの溺れの特徴とプールの安全対策|保育者のためのリスクマネジメント講座①「水の事故予防と安全への願い」

特集
保育者のためのリスクマネジメント講座「水の事故予防と安全への願い」

幼い息子さんを保育中の水難事故で失った母親・吉川優子さんが語る、保育の安全と子どもの命を守るために大切なお話を4回にわたってお届けします。悲劇をくり返さないために、安全への願いとともに、わが子を襲った事故の実態と、水の事故の予防策を徹底解説します。教育現場に携わる人々の心に響く、貴重な証言と提言です。3回目は子どもたちの溺れの特徴と、プールでの事故予防についてお話いただきます。(>>前回はこちら)

溺れの特徴と予防「子どもは静かに溺れる」

ここからは、水難事故全体の予防について、みなさんともう一度細かく確認していきたいと思います。

くり返し強調したいのは、溺れは水のあるところどこにでも発生し得る、リスクの高い事故・傷害であるということです。

長野県佐久市の佐久医療センターの小児科の先生方が実施している「教えてドクター」プロジェクト(>>リンク)の情報によると、「子どもは静かに溺れる」ということが言われています。子どもは溺れという状況を理解できずに水の中に沈んでしまい、気づいたときには水の中にいるため、空気ではなく水を吸ってしまうことで溺れてしまうのです。これは子どもだけでなく、高齢者や大人にも見られる現象です。

引用元:教えて!ドクター(https://oshiete-dr.net/

溺れは水の中で声をあげることができないため、非常に気づきにくい事故のひとつです。気づいたときには沈んでいる、うつぶせで浮かんでいるといった状況がよく見られます。しかし、気道を確保すれば予防できる事故でもあります。

お風呂や用水路への転落、排水溝に頭を突っ込むといった事故では浮き輪やライフジャケットの使用は難しいですが、川遊びや海、プール活動など水辺での活動の際には、事前に準備することができます。必ず浮き具やライフジャケットを正しく着用して水辺を楽しむことを、子どもたちに教えていただきたいと思います。

溺れのもうひとつの要因として、川に流されたり突然波をかぶったり水に落ちたりした際のパニックがあります。パニックになると呼吸が速くなり、水を吸い込んで溺れてしまうこともあります。溺れのパターンにはまだ解明されていない部分もありますが、水を飲んでしまうこと、気道が確保されないことが大きなリスクです。準備できる活動に関しては、ライフジャケットをしっかりと用意していただきたいと思います。

ライフジャケットの重要性

引用元:子どもの水辺サポートセンター(https://www.kasen.or.jp/mizube/tabid107.html

「子どもの水辺サポートセンター」(公益財団法人 河川財団)の情報によると、人間は体重の2パーセントしか浮くことができません。しかし、ライフジャケットをつけると、頭ひとつ分、つまり10パーセント水から浮くことができます。ですから、大人も一緒にライフジャケットを着けましょう。子どもの場合は、成長に合ったサイズのものを選択し、装着してください。最近では地域でレンタルしているところもありますので、調べてみてください。

消費者庁は「川のシートベルト」としてライフジャケットの装着を推奨しています。文部科学省からも、熱中症予防と同様に、河川などでのライフジャケット着用が呼びかけられています。

安全対策は、子どもたちの活動やチャレンジする機会を奪うものだと誤解されることがありますが、そうではありません。無防備に挑戦させることで事故に遭うリスクが高まります。慎之介の事故でもおわかりいただけたと思いますが、きちんと環境を整備して安全対策を行えば、子どもたちは安心して楽しい活動を思い切り楽しむことができ、自分たちの可能性を広げるチャレンジができるのです。

予防対策を考えるときは、子どもたちのチャレンジをたくさんさせてあげようという、非常に前向きな対策、環境デザインになります。みなさんでぜひ話し合ってみてください。

プールの安全対策

最後に、プールの安全対策について再度確認していきたいと思います。

監視体制

まず、監視体制が整えられない場合は、プール活動を中止するよう国からも通達が出されています。監視について、以下の点を確認しましょう。

①監視をする人:
  • 心肺蘇生法の訓練を年に1回は必ず受けてください。
  • 緊急時の体制の構築、理解、周知をチームで話し合ってください。
  • 監視者を明確にするため、ビブスや腕章を着用してください。
  • 子どもたちとも監視のルールを共有することが重要です。
  • 監視に専念する人員が確保できない場合は、プール活動や水遊びを中止してください。
②監視の配置:
  • 死角をなくし、水のざわめきや光の反射も考慮してください。
  • 各園のプールの状況に合わせた監視体制と配置を確認してください。
  • 水を張る前に死角などを確認する活動も有効です。
③監視の方法:
  • プロのライフセーバーでも15分が限界と言われています。
  • 夏の暑さや個人の体調を考慮し、15分を目安に交代するなど、活動時間を計画してください。
  • 屋外の場合は天候の変化にも注意が必要です。その日の天気予報を含めて情報収集し、体制を整えてください。

先生方の体調管理

先生方の体調管理も非常に重要な安全対策です。子どもたちに楽しい活動をさせたい、保護者の要望に応えたいという思いは理解できますが、まずは先生方ご自身の体調を大切にしてください。自分を大切にできない状況では、子どもの命を守ることもできません。

代替プランの検討

プール活動の実施が難しい場合は、代替プランを考えてみてください。監視人員が少ない場合など、プール活動に固執せず、ほかの水遊びを検討しましょう。水風船や水鉄砲など、さまざまな方法があると思います。前向きに中止の判断ができる状況を整えておくことが大切です。

夏のプール活動は先生方の負担も大きいので、みんなが楽しめる、1日の保育がつらいものにならないよう、先生方で話し合ってみてください。子どもたちのためという思いは大切ですが、子どもの命を守り育むためには、自分自身の命も大切にできる人でなければなりません。

先生方の健全な職場環境の下でこそ、豊かな保育・教育実践が実現されると思います。水遊びやプール活動については、みなさんでより良い活動を話し合い、保護者とも共有していただけたら、子どもたちはもっと思い切り楽しい毎日を送ることができるでしょう。

再発防止から、未然防止へ

子どもの命を守るために何ができるのか、これだという答えはないかもしれません。事故・安全・予防という言葉は誰もが聞いたことがあると思いますが、一つひとつの言葉をきちんと説明できるかといわれると、少し漠然とした理解になってしまうかもしれません。

しかし、これらの概念をひとつずつ理解を重ねていくことが非常に大切だと思います。一人ひとりの命と向き合い、ひとつの事故から学びきることが重要です。予防とは、子どもの命を守り、命を育む取り組みです。事故が起きてから考える再発防止から、起きる前に行動する未然防止への理解が、社会全体に広がってほしいと心から願っています。

事故の教訓から導き出された科学的な予防対策や安全対策、そしてさまざまな法律や制度には、多くの人の力と思い、そして慎之介をはじめとする子どもたちの命が宿っていると思います。この教訓を生かすことは、私たち大人と社会の責務です。

まとめ:保育者のみなさんへのお願い

先生方に大切なわが子をお預けする保護者の立場としては、先生方と一緒に子どもを守り、子育てをしているという思いと信頼があります。子どもは未来そのものです。健やかで明るい未来を願い、子どもたちの笑顔あふれる社会を一緒に作っていきましょう。

私たちは、子どもたちの命を守るために、過去の事故から学び、常に安全意識を高め続ける必要があります。一つひとつの命がかけがえのないものであることを心に刻み、二度とこのような悲しい事故が起きないよう、みんなで力を合わせて取り組んでいかなければなりません。

子どもたちが安心して遊び、学び、成長できる環境を作ることは、私たち大人の責任です。慎之介の事故を無駄にすることなく、その教訓を生かし、より安全な保育・教育環境の実現に向けて、一歩ずつ前進していきたいと思います。

保育者のみなさんにお願いしたいのは、自分の施設や地域の状況をいま一度見直し、潜在的な危険がないか、安全対策は十分か、緊急時の対応は整っているかを確認することです。そして、子どもたちの声に耳を傾け、彼らの安全を最優先に考える姿勢を持ち続けることです。

慎之介の命を通して学んだことを、これからの子どもたちの幸せな未来につなげていくこと。それが、残された私たちの使命だと信じています。

(終わり)

【お話】吉川優子(よしかわ・ゆうこ)
NPO法人Safe Kids Japan 事業推進マネージャー、元吉川慎之介記念基金 代表理事。長男の慎之介くんの水難事故をきっかけに、2014年7月に一般社団法人吉川慎之介記念基金を設立。同年9月には「日本子ども安全学会」を発足。子どもの安全に関する有識者の研究発表の場を作った。水難事故予防とこどもの安全・事故予防の啓発活動やこどもの事故調査・死亡検証の制度化に尽力している。

※本記事は2023年2月8日に収録したインタビューをもとに作成いたしました。

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