島本一男先生(諏訪保育園園長)の場合 【「失敗」に学びあり #5】

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保育の達人たちに聞く「失敗」に学びあり

この連載『「失敗」に学びあり』では、先輩保育者たちからの「失敗を恐れないで」という熱いメッセージをお届けしていきます。第五回目は、諏訪保育園園長・島本一男先生のおはなしをご紹介します。

この記事は『新 幼児と保育』(2018年 4/5月号)に掲載された記事『「失敗」に学びあり』を、6回連載でお届けしていきます。

お話:島本一男先生(東京・八王子市 諏訪保育園園長)

ビジネスマンを経て保育士に。あそびうた普及にも貢献。おもな著書に『どう変わる?何が課題?現場の視点で新要領・指針を考えあう』(ひとなる書房 共著)など。写真は40歳のころ。

叱ることはむずかしい…

私が25歳で保育園に勤めて、最初に悩んだのは「子どもを叱る」ということでした。保育園は「毎日子どもと楽しく遊んでいればいいところ」という安易な思い込みで飛び込んだ世界だったので、「子どもを叱る」ということの基準が見つけられず戸惑いました。

ある日のことです。4歳児の担任(先輩)が子どもを強く叱っていました。
理由は忘れてしまったのですが、「先生が子どもを叱る」という場面が、あまりに真面目で真剣であることに驚きました。
私にはその先生と子どもの姿がなんだかおかしくて、近くでニヤニヤして見ていたのです。するとそんな私を見ていた別の先輩から「不謹慎である」というようなお叱りを受けました。それはけっして強い言い方ではなかったのですが、とっても心に響きました。

しかし私は、ニヤニヤへの注意を受けながらも、真面目に怒っている先生に周囲の大人が同調していることへの戸惑いも感じていました。
なぜなら家庭では怒っている人もいれば、それをカバーする人もいて、子どもには逃げ道があります。私は園でも子どもには逃げ道があったほうがいいのにと考えたからです。

(それにしても外遊びの最中に、別のクラスの室内での出来事にまでアンテナを張って、気になった保育士には直接の指導ができるという先輩のスキルには、今さらながら高い専門性を感じます)

それから、私も徐々に「子どもを叱る」ということを学んでいったのですが、あるとき4・5歳児の子どもたちに「運動遊び」というものをやってみないかと園長からの助言がありました。そこで運動だからということで、縄跳びや、跳び箱、マット遊び、体力測定などを手探りで始めたのです。

ある日のこと、登り棒に子どもたちと挑戦しているときに、年長児のひとりがふざけてやっていたので、私は危険を感じ、つい強く叱ってしまいました。
すると、その子はその後、私を見る目がなんとなくおびえていたり、避けたりしていることを感じました。
改めて「子どもを叱る」ということのむずかしさと、自分のしでかした失敗に気づいたのです。
子どもの興味や意欲を無視して、一方的に設定した遊び(?)に対して、その子の思いを考えることもしないで叱ってしまった失敗です。

今考えると、当時の私は叱るだけでなく、子どもたちに鍵盤ハーモニカや文字を教えるときも、真面目になればなるほど相手を追い詰めてしまう、「先生」という役割を真剣に演じてしまう自分がいました。
そのことに気づいたのは40歳で現場を離れて管理職となり、自分の子どもが次々生まれて、くり返される体験の中で、長女から「だんだん下の子に甘くなっている」という指摘を受けてでした。

自分がやってしまったことの間違いはやり直せばすみます。子どももたくさんの失敗をしながら、それを乗り越える前向きなエネルギーを持ってほしいと思います。

しかし子どもたちの未来(人格形成)に対して大きな責任と影響力を持つ、教育や保育という仕事は、「子どもたちに対しての失敗」だけは、できるだけ避けなくてはなりません。

このようなことは最初から考えていたわけではありません。多くの人から声をかけられ、話をしてもらったという「同僚性」をポジティブに学ぶ環境に恵まれていたおかげです。
広い視野で毎日をふりかえるという自己評価の重要性もよくわかりますし、そのことが保育者としての専門性を獲得する重要な役割だと思うのです。

でも実のところ、保育園は「毎日子どもが楽しく遊んでいればいいところ」という思いは今でも変わりません。


聞き書き/宮川 勉 イラスト/ホリナルミ

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