井桁容子先生(非営利団体コドモノミカタ代表理事)の場合【「失敗」に学びあり #3】

特集
保育の達人たちに聞く「失敗」に学びあり

非営利団体コドモノミカタ代表理事

井桁容子

この連載『「失敗」に学びあり』では、先輩保育者たちからの「失敗を恐れないで」という熱いメッセージをお届けしていきます。第三回目は、非営利団体コドモノミカタ代表理事・井桁容子先生のおはなしをご紹介します(取材当時は東京家政大学ナースリールーム主任保育士)。

この記事は『新 幼児と保育』(2018年 4/5月号)に掲載された記事『「失敗」に学びあり』を、6回連載でお届けしていきます。

お話:井桁容子先生(非営利団体コドモノミカタ代表理事)

東京家政大学短期大学部保育科を卒業後、同大学ナースリールームに2018年3月まで勤務。同年4月よりフリーとなり、非営利団体コドモノミカタ代表理事。
おもな著書に『ありのまま子育て-やわらか母さんでいるために』(赤ちゃんとママ社)など。写真は27歳のころ。

失敗をしたら「得した!」と思う

保育者になってからこれまでに、数えきれないほどの失敗をしてきました。なかでも保育者1年目のときにした大きなミスは、絶対に忘れることができません。

1・2歳児の子どもと敷地内で遊んでいたときのこと。遅れて登園してきた子どもを乗せた車が、敷地内の道路に入ってきました。コンビカーに乗った2歳の男の子が道路の向こう側にいます。「そこで待っていてね!」と声をかけると男の子は止まり、それを確認して最徐行で車が動き出しました。

そのとたん、私の姿が見えなくなったことに不安になった男の子が、こちらに向かって飛び出してきたのです。男の子は、足の皮がタイヤでむけてしまうほどのケガをしてしまいました。病院から戻ると、主任から「自分で電話をしなさい」といわれて、どんな批判も受ける覚悟で、責任をとって辞めることも考えながら、保護者に電話をしました。

自分の不注意でケガをさせてしまったことを切り出すと、電話口に出たお母さんは、ケガの程度や状況を説明し終えるのを待たずに、「大丈夫ですよ、先生」というのです。「うちの子がいけないんです。このことで、責任を感じて辞めたりしてはダメですよ」というお母さんの言葉に、私は耳を疑いました。責められて当然のことなのに、「辞めないで」といってくださっている。ありがたいとともに信じられない思いでした。

私はこの意味を考えたのです。園を辞めてしまえば、居心地の悪さからは逃げられます。ですが、ケガをさせてしまったことも無駄な出来事になってしまうのです。私がするべきことは、二度と同じ失敗をしないために、深く考えること。今後の保育に役立てていくことだと思いました。
失敗は否定せず、学んだことを次に生かすようにすれば、大事な経験として役に立つ、そう胸に刻むことで、気持ちを切り替えたのです。

これ以降も数えきれないほどの失敗をしてきましたが、どんなに小さなことでも姿勢は同じです。
連絡帳を真っ白なままで返してしまったこともあります。洗濯物を間違って仕分けてしまうこともしばしば。どんな失敗も、誠心誠意、謝るしかありません。自分の評価が下がることをおそれていると、うそをついたり、だれかのせいにしてしまいがちですが、失敗したことで評価は下がらないのです。失敗したときにどうしたかが大事なのです。

幼児期は失敗することで成長する時期。その大事な時期に、失敗をマイナスにとらえる人がそばにいたら、子どもたちはどうなるでしょう? 

「受容」というのは、うまくいかないときに、受けとめてあげること。保育者自身が、自分の失敗を抱きしめることができなければ、他人の失敗を抱きしめることもできないと思うのです。失敗の痛みを覚えた人は、同じ失敗をした人に寛大になれます。「優しさ」が育つのです。

失敗して落ち込むのは悪いことではありません。「自分は完璧ではない」と認識することは大事。失敗はわざとはできません。ですから、学ぶチャンスをもらえて「得した」と、私は思うようにしています。

保育者になって42年。今でも失敗をするたびに、子どもから「大丈夫」とはげまされ、保護者の方に「大丈夫」といってもらえて、なんてありがたいことだろうと思います。まだまだ未熟なのですが、失敗と出会っては反省しながら、自分も他者も笑って許しあい、今よりちょっとだけましになろうと努力する日々です。


聞き書き/宮川 勉 イラスト/ホリナルミ

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