羽田二郎先生(あんず幼稚園園長)の場合【「失敗」に学びあり #4】

特集
保育の達人たちに聞く「失敗」に学びあり

この連載『「失敗」に学びあり』では、先輩保育者たちからの「失敗を恐れないで」という熱いメッセージをお届けしていきます。第四回目は、あんず幼稚園園長・羽田二郎先生のおはなしをご紹介します。

この記事は『新 幼児と保育』(2018年 4/5月号)に掲載された記事『「失敗」に学びあり』を、6回連載でお届けしていきます。

お話:羽田二郎先生(埼玉・入間市 あんず幼稚園園長)

大学卒業後、園に勤務しながら資格を取得し、入間市では男性保育士第1号に。写真は31歳のころ。メガネの遮光レンズが元に戻らなくなり、「サングラスの先生」と呼ばれていた。

やってみたかった「雨の日の散歩」

大学は社会福祉学科でしたから、保育を学んだことはありませんでした。その大学の教授が新しく開園する保育園の理事になるということで、声をかけてもらって保育の世界に入ったのです。

やっぱり無理でした。歌を歌えといわれてもできないし、主任の先生のやるリズム遊びなんて、わけがわからない。これはダメだと思い、白梅学園の夜学で保育を学び始めました。

とはいっても、日中は保育者として仕事をしています。頭の中にプランがないということは、逆になんでもできるということでした。当時はやりたいようにやっていましたね。 

担当していた5歳児クラスの子どもと一緒に、雨が降りそうなときに散歩に行く、というのをやりました。雨宿りとか、雨に濡れて歩くとか、保育園ですからみんなでお風呂に入る、というのもやりたかったのです。

「雨が降りそうだから、散歩に行ってきます」というと、当然、先生方は「え? どうして?」という反応です。
「雨の日に外に出るって楽しいですよね!」といったら、そのノリノリの雰囲気におされたのでしょう。「そう…。いってらっしゃい」と送り出してくれました。

途中で雨が降ってきたので、「帰るぞ~」とUターン。予定どおりです。途中にある公立幼稚園に寄り、「雨宿りさせてほしい」とお願いしましたが無反応で、子どもたちと文句をいいながら雨の中を歩いて戻りました。先生方がお風呂を沸かして待っていてくれたのを覚えています。

プールの最終日には、着衣のまま水に入る、ということをしました。頭の中には学校の授業のイメージがあって、それをやるべきと思ったのですね。「水の事故にあったときに、生き残るための訓練だ!」などといいましたが、もちろん、そのやり方を知っていたわけではありません。子どもは先生のいうことだから、まっすぐに信じてくれます。保護者には着替えを持ってきてもらい、子どもたちは服も靴もびしょ濡れになりました。

子どもと遊ぶのが忙しくて、保護者とのおたよりノートを白紙のまま戻していたら、ある保護者から『わかりました』というハンコをもらったことがあります。「先生、これをおしてくれるだけでいいですから」というのです。さすがにこのときは「しまった!」と思いました。

これらのとんでもない保育の数々を失敗と思ったことはないのですが、二度とやらなかったのは、やはり失敗だったのでしょうね。自分もやりたいと思わなかったし、子どももやりたいといわなかった、ということですから。

自分がどういう保育をしたいのか。何をしたいのかを考えたとき、そのもとというのは、自分の育ってきた中にあるわけです。そこに立ち戻って、ポツンポツンと思いついたことが、雨の日の散歩だったり、プールだったりの形で表れてきたのだと思います。

それを「やりたい」と思ったとき、園の先生方や保護者の方は、ダメといわずにやらせてくれました。アドバイスはくれても、否定されることはありませんでした。そういう人たちの中で生かされ、育てられてきたと思うのです。その経験は「自分もほかの人を認める」ということにもつながっていると思っています。

若い先生方が迷っているときは、「自分はどうしたい?」と尋ねます。自分のやりたい気持ちを明確にしておかないと、子どものやりたいことと、うまくすり合わせることができないからです。

成功しないことを「失敗」と考えると暗くなります。おもしろいか、おもしろくないか。おもしろくなかったら、おもしろくするために「次はこうやろう」と考える。保育って、その積み重ねだと思うのです。


聞き書き/木村 里恵子 イラスト/ホリナルミ

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