「動物の死をめぐって」(後編)〜ネコミーティング〜
執筆/森のようちえんピッコロ・中島久美子
▶前編はこちら「動物の死をめぐって」(前編)〜ネコが死んでいた〜
目次
ネコミーティング
翌日、出勤してみると、昨日ネコを覆っていた枯葉が飛び散り、死体が再びあらわになっていた。
すると子どもたちは、集まりしだい、「ネコミーティングをするよ~!」と言って、勝手に園庭で会議を始めたのだ。
議題は「これからあのネコをどうするか」。
枯葉は飛んでしまったし、昨日よりお腹がたくさん食べられている。
R君が、
「あのね、焼いて箱に入れて埋めて写真を飾るの」
と言った。
「そうそう」
子どもたちは同意した。
焼く?もしかして火葬ってこと?
ピッコロでは子どもを信じて待つ保育をしている。
子どもが言い出したことはなるべくやらせたい。その中で失敗しながら子どもは育つのだ。
今までも無鉄砲なことをしてきた。
しかし、今度は火葬をするかもしれない。
私はドキドキしてきた。
すると、Nちゃんが
「土にかえそうよ」
と言った。
通常、私は子どもミーティングには口を挟まないが、この発言を流すわけにはいかなかった。
私:「土にかえすって?」
N:「埋めるの」
私:「埋めちゃうの?」
N:「そう、埋めると土になるんだよ」
私:「ネコが?」
N:「そう、埋めるとネコは土になるの」
この子は、なぜそんなことを知っているのだろう。
少しホッとしながら子どもミーティングを見守った。
どうやら話し合いは埋葬の方向でいくようだ。
「でも、あのネコをどうやって(道路から)穴に運ぶかが問題」
「段ボールにのせる」
「段ボールは切れるからだめ」
「じゃあどうする」
「板にのせる」
「その板にはどうやってのせるの」
会議は永遠に続きそうだ。
その時、Hちゃんが言った。
「でも、こうしている間にネコが食べられちゃっているかもしれないよ!」
Nちゃんも、
「いつも3匹いるカラスが、今ここにいないし」
と言った。
すると子どもたちは、急に”急がなくちゃ!モード”になった。
そして、何 を始めたかというと、一斉に自分が座っていたいすを持ってネコがいる方向に走り出したのだ。
いすをネコの周りに移動し、見張りながら会議をしようということらしい。
子どもは突拍子もないことを考えるものだ。
しかも、誰も場所を移動しようとは言わなかった。瞬間的に全員が同じことを考えたとしか思えない速さだった。
会議場所を移動したので、ゆっくり話し合うことができるのに、子どもたちの“急がなくちゃモード”は変わらない。
「どうする、どうする!」
「あそこに埋めようよ!」
「でもどうやって運ぶの!」
「わからないけど、先に穴を掘っちゃおう」
言い終わるか終わらないかのうちに、また子どもたちはサ~といなくなった。
そして、手に手にスコップを持って戻って来た。
ある程度、穴が深くなると、
「段ボール!」
と言う。
全員がまたサ~といなくなった。
あれ? 段ボールは切れるんじゃなかったっけ? と思ったが、そんなことはおかまいなしだ。
段ボールをどこかから見つけてきて、ネコの横に置いた。
ここだけは軍手をしている私が手伝った。
ネコを抱きかかえ段ポールに乗せた。
不思議と死体を運んでいる感じがしなかった。
死体はそのへんのネコから、大事なネコに変わっていた。
穴に埋めた。合掌。
森の入口にはチェーンソーワークで作った木の置物がある。
子どもたちはそれを森の神様と呼んでいる。その神様の目の前に埋めた。
「森の神様と一緒にネコが私たちを守ってくれるから」
子どもたちが決めた場所だ。
埋葬が1日延ばしになったネコ様へ
子どもたちの育ちのため
そして冬なので腐敗しないだろうという考えのもと、
1日野ざらしにしてしまったことをどうかお許しください。
昨日、私は「明日は埋葬できますように」と、
祈るような気持ちで園をあとにしました。
そして、子どもたちを見守り続けました。
大人が介入せずに私が意図する埋葬ができるまでには、
子どもたちには1日間という時間が必要でした。
重ね重ねお許しください。
あなた様の魂が
まっすぐ天国にいかれますように。
合掌。