言葉の育ちを応援する遊びと声かけのヒント【保育に取り入れられる「療育」のテクニック #1】
療育のベースとなるのは「遊び」。大人が適切なかかわり方をしながら遊ぶことで、子どもの力は大きく伸びていくのです。今回は「言葉」に関する発達の偏りをテーマに、保育の現場にも応用できるテクニックを紹介します。
お話
桑野恵介 先生
株式会社スペクトラムライフ代表。臨床心理士、ESDM 認定セラピスト。埼玉県の入間市児童発達支援センターうぃずの受託事業者。2019年埼玉県上尾特別支援学校特別非常勤講師、東京大学高度医療人材養成プログラム「職域・地域架橋型・価値に基づく支援者育成」講師。
協力
株式会社スペクトラムライフ早期教育すれい(埼玉・所沢市)
目次
「教える」のではなく「楽しむ」のが基本
人の脳は、刺激を受けることによって発達していきます。ただし、その刺激が苦しいものか楽しいものかによって発達に違いが見られることがわかっています。脳内の神経細胞の構造は楽しい経験をたくさんするほどしっかりしたものになり(ミエリン化)、情報伝達の効率がよくなっていく、といわれているのです。
就学前の療育は3歳児健診がきっかけとなることが多いため、3歳を過ぎてから療育を開始するケースがほとんどです。でも、療育は「勉強」でも「訓練」でもありません。遊んで楽しむことなら0歳児だってできます。発達に偏りが見られるなら、早い時期から開始したほうが効果も期待できることがわかっています。
「早期療育すれい」では、3歳未満の子どもの療育は、自由遊びがほとんどで、週に1回・50分間、担当スタッフと一緒にさまざまな遊びに取り組みます。子どもにとっては楽しい「遊びの時間」ですが、担当スタッフはそれぞれの子の「通所支援計画」に基づいてかかわり方や声のかけ方などを工夫し、達成度や今後の課題なども見極めています。
遊ぶことによって、子どもは確実に成長していきます。発達に応じて大人が上手にかかわることができれば、子どもの成長をさらに後押しすることができるのです。
ここで紹介するのは、言葉の遅れが気になるAくんの例です。かかわり方の基本は、「言葉を教える」ことではありません。Aくんの思いや感覚を、一緒に遊ぶ大人が言葉にすることです。「言葉を与える」ことが子どもにとって不快な刺激になる心配はないので、園でもどんどん試してみてください。
自由遊びの実例Aくん(2歳11か月)
1歳半健診の時点で発話がなかったことがきっかけで、2歳8か月から療育をスタート。現時点では、まだ言葉は出ていない。
言葉の発達を促すかかわり方1 ものの名前を言う
子どもが見ているものや手に取ったものを、「ナレーション」のように口に出してみます。
言葉の発達を促すかかわり方2 子どもが「感じたこと」を言葉にする
最も大切なのは、子どもを楽しませることです。「言葉を教えること」を優先しないようにしましょう。
言葉の発達を促すかかわり方3 子どもの行動を言葉で説明する
Aくんはまだ言葉が出ないので、「単語」で話すのが基本。単語が話せる子どもなら、「全部消えた」のような「2語文」にします。
50分間でほんの数回、「2語文」をまぜて反応を見ます。
言葉の発達を促すかかわり方4 子どもの要求を言葉にする
言葉以外の表現で伝わっていることも、丁寧に言葉にしていきます。Aくんの要求を言葉に置き換えてから、応じるようにします。
言葉の発達を促すかかわり方5 質問する
「たぶん開けてほしいのだろう」などと、先まわりして対応せず、まずはどうしてほしいのか質問します。
療育の早期開始は脳の発達促進に有効
「早期療育すれい」で個別療育に取り入れているのが、「ESDM(※)」と呼ばれる療育法。ESDMでは、早い時期に療育を始めることをすすめています。
※ESDMとは:Early Start Denver Modelの略。自閉スペクトラム症などの発達障がいのある子ども向けの超早期介入指導プログラム。
発達に偏りがあると、成長とともに「失敗して叱られる」ことが増えます。こうした不快な経験は、脳が誤った学習をしたり情報伝達の効率が下がったりする原因になってしまいます。つまり、不快な経験の少ない幼いうちほど、脳へのよい影響が期待できるのです。
早い段階での適切な療育は、脳の発達を促すだけでなく、感情をコントロールする、見通しを立てて行動する、といった社会性を育てることにもつながると考えられています。
ESDMに基づいた療育を行うスタッフが重視するのは、子どもと信頼関係を築くこと。子ども自身が「自分が適切な働きかけをすれば、相手も適切に応じてくれる」と気づくことで、日常生活の困りごとも徐々に減っていくのです。
療育を受けるには?
療育を受けるためには、市区町村が発行する「通所受給者証」が必要。「通所受給者証」を申請する際は、医師の診断書や、医師、保健師、臨床心理士などによる意見書の提示が求められます。
まとめ
発話がないなら単語から。単語が出ているなら2語文で。その子どものレベルに合わせて、言葉のインプットを手伝いましょう。
文/野口久美子 イラスト/河合美波
『新 幼児と保育 増刊』2021年春号より
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