竹内通雅さん「保育園からの脱走」【表紙絵本館】

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『新 幼児と保育』2019年6/7月号 表紙

『新 幼児と保育』は、毎号絵本作家さんの描きおろしの絵が表紙となっています。表紙を飾った絵本作家さんの幼年期のエッセイを紹介していきます。今回は、竹内通雅さんです。

「保育園からの脱走」

無事、保育園を卒業した直後の小学校入学式の写真。

信州は千曲川流域の農村地帯で生まれ育った僕の幼少期の性格は、ひどく臆病で気弱だった。内向的かつ消極的で家の外では至って無口。得体の知れない不安感にいつもおびえていた。

そのせいだろうか、いまだに幼児のころを思い出すと、何だか憂いのような不安定な気分がまず胸をつく。楽しかったり、うれしかったこともたくさんあったろうに、よりによってネガティブな感情が先立ってしまう。

5歳になると家から遠く離れたお寺の保育園に、和尚の運転する護送車で1年間通わされたのだが、寺が地獄とはこれいかに。

よくいえば行動的な、でも本当は威圧的で暴力的な数人の園児らから難癖をつけられないように、僕はひたすら目立つまいと振る舞っていた。遊具を横取りしたり、積み木を崩したり、人をたたいたり命令したり、彼らは何であんなに破壊的で粗暴なのか。かかわるのが怖くて仕方なかった。そんな園生活、楽しいわけがないし、なじめなかったから行きたくなかったのだが。

泣きわめいて登園を嫌がると、母親に両手両足を荒縄で縛られて家の脇にある梨の木の下に放り出された。このことで母を恨んだことは一切ないのだけれど。これは小学校に入学したときに友達ができないとかわいそうだ、何が何でも保育園で社会性を身につけさせたいという親心だったと後年知らされた。

またそのころは3年にわたり父が病気がちで、入退院をくり返していた。そのたびに、母も病院に泊まり込みで付き添うので、家庭に両親が不在にしがちであり、不安で寂しかったには違いない。

しかし、ポジティブな思い出だってある。保育園に上がる前の4歳のころ、農繁期になると、家の近所の神社を利用した季節保育所に預けられた。当然ここだって前述のごとくなじめるわけがない。

ある日、先生の制止を振り切り脱走して家に帰ってしまった。それは自我の芽生えとして誇らしい、58
年前の田植えの季節の思い出だ。梅雨の晴れ間の早苗のようにキラキラと輝いて懐かしい。

竹内通雅

1957年長野県生まれ。創形美術学校版画科卒。雑誌『イラストレーション』のコンペで第3回「ザ・チョイス年度賞」大賞を受賞。1996年に『かぼちゃにしたら…』(講談社)で絵本作家デビュー。絵本作品は、『走れメロス』(作/太宰治/ほるぷ出版)、『おどるカツオブシ』(文/森絵都 金の星社)、『じごくのさたもうでしだい』(文/もとしたいづみ/ひかりのくに)、『へんてこレストラン』(文/古内ヨシ/絵本塾出版)など多数。東京都在住。

『新 幼児と保育』2019年6/7月号より

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