ダイナミックさが違う! 大人を巻き込む夏遊び
子どもが少しだけ大人に近づき、大人が少しだけ子どもに戻る。そんな体験ができるのがこの季節。保護者や地域の大人を園に巻き込むと、ふだんの保育もラクになるかもしれません。
レポート/青山 誠(保育者)
目次
おやじたちに園がのっとられた!?
和光保育園(千葉・富津市)
海に近い里山にある自然豊かな保育園。子どもの持つ力を、コミュニケーションの要として、大人も子どももともに活性化する地域作りを目指している。
わこう村・和光保育園では夏の一日、お父さん(おやじ)たちが年長児とともに園に泊まって過ごします。その名も「おやじが保育園をのっとる日」。
「子どもが育つには多様な価値観が必要。そのために一番身近な存在として、おやじたちを引っ張り出せないかって」
副園長の鈴木秀弘さんはいいます。 「それで園庭の遊具やプールを一緒に作ってもらうことにしたんです。そうしたらだんだんとその関係が盛り上がってきて、いつしか『おやじの会』という独自の活動が生まれました。そうすると『ほかにも園のために何かできることはないか?』って聞いてくれて、だから『お泊まり保育をやりたいんだけど』と園から持ちかけて、この日が始まりました」
おやじたちがのっとって行われるお泊まりは、保育者では思いつかない大胆な発想がどんどん出てくるのだそうです。
「ただ……おやじたちだけに任せると子どもそっちのけで自分たちが楽しんじゃうことも(笑)。かといって園側がコントロールしようとしすぎると、おやじたちのよさが生きない。どうしても園が主で、親が客になってしまう」そのかかわりは試行錯誤の連続とのこと。
「あるとき、ひとりのおやじにいわれたんです。主体的にやってって園はいうけど、そもそも道具の場所もわからない。いちいちあれ出して、これ出してってお願いする立場になるでしょ。それなら最初から使いそうなものを自分たちで用意していけば、当日保育者はすわってられるでしょ、って」
こうしたかかわりを積み重ねて今や25回目。鶏を丸焼きしたり、ウッドクししおどライミングを作ったり、巨大な鹿威し(ししおどし)を作ったり。そのときどきのおやじの発想を生かして楽しんでいるそうです。おやじたちにとっては子どもたちが寝た後の酒盛りも大きな楽しみだとか。
では保育としては、一日の意義はどこにあるのでしょう。
「それは非日常がもたらす分解作用みたいなものですかね。非日常といっても、子どもにとってふだんの暮らしの続きであること。日常から一歩先の非日常。おやじたちと子どもたちでご飯を食べたりお風呂に入ったり、ぐちゃぐちゃ一晩過ごす。すると、自他未分の心地よさっていうのかな? まわりから切り離されていない安心感に包まれて、グッと心の距離も近づき、日ごろの関係が少しわかりあえる。それから、ふだんよりちょっと思い切ったことをやってみたことで『こんなことできるんだ!』って発想もほぐれる。こういう経験が日常へ流れ込み、生活を生き生きしたものにしてくれるのだと思います」
そうめんが流れて…… スイカがころがって、 大人がすべってきた!
札幌トモエ幼稚園(北海道・札幌市)
保護者も一緒に登園できる、村のような幼稚園。人は群れて育ちあうという信念のもと、子どもの育つ環境としての家庭を支えている。
札幌トモエ幼稚園の園舎に入っていくと、台所からお母さんたちの元気のいいおしゃべりが響いてきます。窓際ではお父さんが赤ちゃんを抱き、走り回る子どもたちの横で、おじいちゃんが新聞を広げています。ここはなんだろうという不思議さとともに、初めて訪れた人にも、心の底からこみあげる深い安心感を与えます。親も一緒に登園していい幼稚園、それがトモエです。
トモエの保育者、宮武大和さんが語ります。
「毎日ともに過ごす中で親がいろんな子どもを見る。子どももいろんな大人を見る。同じことしても怒る人もいれば笑う人もいて……。親子の組み合わせだけではない出会いがあり、相性があり、人が人を受け入れて育っていきます」
そんなトモエの夏のイベントが流しそうめん。全長40メートルのウオータースライダーに、そうめんを流し、お菓子を流し、スイカを流し、最後には人が流れます。
「大人がすべるとすごいスピードが出ます。そして濡れる(笑)。大人にとって濡れるってとてもハードルが高い。そこを一歩踏み出すことで、親自身も新しい自分に出会う。あまり遊ばずに育った親も増える中、子どもが感じていることを言葉だけで理解するのはむずかしい。ワクワクドキドキ、水にドボン!を体験すると、子どもの世界に近づけて、子どもに受容的になれます」
とはいえ、見ている大人も子どももたくさんいるとのこと。
「やりたいとやりたくないはまったく同じ価値なんです。それを丁寧に伝えます。誘うけど強要しない。細やかな配慮もします。スライダーは子どもだけですべると途中で止まるようになっていて、職員がスピードを調節します。小さな子用のスライダーも別に用意してあります」
細やかな配慮がダイナミックな遊びを支えています。
「ふだんだってトモエに来ても来なくてもいい。過ごし方も自由。本を読む人、遊ぶ人、料理する人、おしゃべりする人。人とかかわってもいいし、ひとりでいてもいいんです」どんなあり方も許される、失敗してもいい。安心に満ちたトモエの空気こそ、人が群れて育つ場を成り立たせています。園庭でのバーベキュー、3泊4日の親子キャンプ、仮装大会もある家族レク、バザー。ほぼ毎月何かの催しがあるとのこと。
「子どもは家の空気を吸って生きています。子どもの育ちを支えるには家庭全体を支えることが必要です」宮武さんの言葉には確かな信念が込められていました。
大人を保育に 巻き込む意味って?
和光保育園とトモエの事例には共通点があります。それは私たちにも大きなヒントになりそうです。2園の取り組みに共通するもの、そして大人を保育に巻き込むことの意味とはなんでしょうか。私は次の3点だと思います。
ポイント1 内容ではなく枠を親に委ねる
どうしたら人は遊び出すのか。子どもにも共通することですが、自己決定、自己選択であることが大事。和光の取り組みでは、子どもそっちのけで楽しむおやじたちとのやりとりが印象的です。心配のあまり園のコントロール化に置きすぎると、親はお客さんになってしまいます。内容を企画するのではなくて「枠」を親に委ねること。枠の中の発想や内容はおのずから芽生えてきます。このとき大事なのは、トモエの宮武さんのいう「やりたいとやりたくないは同じ価値」として尊重されるような場作りでしょう。
自由に遊び始めた大人を、子どもは目を輝かせながら見ることでしょう。見ることに飽きたら、遊び出します。そんな子どもの姿を、子ども心を取り戻した大人たちが見守る。大人の自由が子どもの自由を保障します。
ポイント2 日常のちょっと先の非日常
2園の取り組みはいつもの園舎、園庭で行われます。一緒に泊まるのも、びしょぬれになるのも、自分の親や友達の親です。子どもにとってなじみのある場所や人がいつもとはちょっと違う表情に変わります。日常の少し先にある非日常だからこそ、子どもは無理なく楽しめます。
いつも怒りすぎだな……とか、いつもの園でもあんなことやってみたいなとかいうふりかえり。親も子も、非日常での経験だから日常をふりかえることができます。それは日常にある関係や発想をやわらかくしてくれます。
ポイント3 評価のない関係が安心を生む
ダイナミックな取り組みを支えているのは、その場に満ちる「安心」です。トモエではふだんからその場でのどんな過ごし方も認められています。和光でも、「道具を出しておいて」という親からの率直な言葉が次の展開を生み出します。「評価されないという安心」が多様なかかわりの土壌になっています。それはそのまま子どもの育つ豊かな土壌となるのです。
この夏、皆さんの園でも、大人を巻き込んだダイナミックな遊びを企画してみてはいかがですか。保護者が「お客さん」でなく、子どもを見守るパートナーになり、秋からの保育がきっとラクになりますよ。
青山 誠
あおやま・まこと。保育者。子どもにかかわる人の対話「サタデーナイト」を主催。第46回「わたしの保育記録」大賞受賞。それをきっかけに本誌でも保育エッセイを執筆。独自の保育観をまとめた本書を2017年上梓。
『 子どもの心に 耳をすます22のヒント あなたも保育者になれる』(小学館)
写真提供/鈴木秀弘(和光保育園)、宮武大和(トモエ幼稚園)
『新 幼児と保育』2018年8/9月号より