小西英子さん「自作のアトムシール」【表紙絵本館】

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『新 幼児と保育』2019年8/9月号 表紙

『新 幼児と保育』は、毎号絵本作家さんの描きおろしの絵が表紙となっています。表紙を飾った絵本作家さんの幼年期のエッセイを紹介していきます。今回は、小西英子さんです。

「自作のアトムシール」

3歳7か月。父とお出かけしたときに撮った写真。

私の幼年時代は昭和30年代の後半です。前の東京オリンピックを目前にして、時代がどんどん進んでいました。

白黒テレビではアニメの『鉄腕アトム』が始まっていました。明治マーブルチョコのおまけにはアトムシールがついていて、子どもたちに大人気でした。私は自分でアトムの絵を描いて、自作のシールを夢中になって作りました。

今の天皇陛下は「ナルちゃん」という愛称で、お出かけのときは、いつも藤製の「ナルちゃんバスケット」をお持ちでした。私は「なんてかわいいバスケットだろう」と、うっとり憧れました。

幼稚園の前の土の道ではアスファルト化への工事が始まり、大きな黄色い重機が毎日うなりをあげていました。私はそれが怖くてたまらず、毎朝、大泣きして、「幼稚園に行きたくない!」と駄々をこねました。

わが家の食卓は畳の上の卓袱台でした。そのころは鯨肉が一般的で、「今日はステーキ」という日のメニューは鯨肉でした。新しくできた「団地」に住む友達の家に行ったら、ダイニングキッチンがあって、おかあさんがオーブンでケーキを焼いてくれて、「まるで外国みたい!」と、すごいカルチャーショックを受けました。

毎日毎日、お絵描きをして、れんげの花を摘んで、小川でメダカを見つめて、たっぷりたっぷり遊んで過ごしました。

あれからもう、半世紀以上がたちました。時代も変わって、いろんなことがあって、私はとっくにおとなになりました。

それなのに、絵本を描いているときの私は、子どものころの私と同じままなのです。今も、アトムシールを作ったときと同じ気持ちで絵を描いています。なんだか不思議です。でも私はそのことを、とってもすてきで、とっても幸せなことだと思っているのです。

小西英子(こにしえいこ)

京都府生まれ(1958-2022)。京都市立芸術大学大学院日本画科修了。絵本作品は、『パパゲーノとパパゲーナ』『おべんとう』『カレーライス』『サンドイッチサンドイッチ』(以上、福音館書店)、『きょうは クリスマス』(至光社)など多数。

『新 幼児と保育』2019年8/9月号より

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