落ち着いて食べることができる0・1・2歳児の給食環境作り【青山誠さんレポート】

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社会福祉法人東香会理事

青山誠

どんな空間で食べたら心地よく食べられる? そのときに配膳台はどこに置いたらいいの? 大人同士の連携は? 保育者が考えたい「食」環境のこと。おおぎ第二保育園と遊愛保育園、ふたつの個性的な保育園にお邪魔して、それぞれの知恵と工夫を教えていただきました。

青山 誠(あおやま・まこと)

上町しぜんの国保育園園長(東京・世田谷区)。第46回「わたしの保育記録」大賞受賞後、『新 幼児と保育』で保育エッセイを執筆。著書に独自の保育観をまとめた『あなたも保育者になれる』(小学館)がある。

園生活に彩りを添えてくれるもののひとつとして「食」の存在は欠かせません。おいしい匂いがしてきて「そろそろご飯だな」とみんなが感じられることは、園の時間の流れにアクセントをつけてくれます。

保育の中で「食」は重要な意味合いをもっています。いのちの根っこを育むものであること。食卓を囲んでいろいろな人とコミュニケーションがとれること。さまざまな食材、調理法、メニューを通して文化にふれられること。

それだけに「食」に対しては各園の保育理念が反映され、現場においてその理念は具体的な環境に落とし込まれます。とりわけ小さな子どもたちの食環境には、各園のこまやかな工夫や配慮があります。今回取材したふたつの園でも、大人の配置、配膳台の位置、おかわりや片づけの動線など具体的な工夫が施されていました。

おおぎ第二保育園(埼玉・入間市)

目線が合う高さのハイチェア、配膳の役割分担。
子どもと保育者のかかわりを大切に

おおぎ第二保育園の0歳児室の片隅には小さなランチスペースがあります。テーブルの高さはよくある乳児用の低いものではなく高いテーブル。そこに高さを調節できるいすを配しています。

「どんなに小さくても子どもをひとりの人として尊重すること。ちゃんと大人と目線を合わせて、コミュニケーションしながら食にかかわれることを大事にしています」と園長(取材当時)の中瀬先生はいいます。

部屋の小さな空間にあること、ガラス戸で遊び空間と仕切れることも食環境の落ち着きと静けさを生んでいました。ランチスペースのすぐ近くには小さなキッチンがあり、配膳する係の人が盛りつけをします。そうすることで保育者がばたばたと動き回ることのないような工夫もされていました。

保育園の保育を考えるうえで「食寝分離」をいかにするかはどの園でも課題となるところだと思います。おおぎ第二の0歳児室では遊びスペースの奥にベッドルームがあり、そこも扉で仕切れるようになっています。食べている子、遊んでいる子、眠りにつく子、それぞれがお互いに干渉しあうことないような環境です。

離乳食・0歳児 10:20ごろ~
ランチスペース

落ち着いて食べられるように、乳児室の端には小さな食事スペースが設けられている。
離乳食期から高いテーブル、高いいすで食べるのは、「ひとりの人として尊重したい」という思いから。高さがあることで、子どもと大人が目を合わせやすい。
食事スペースの近くには簡単なキッチンがあり、そこで食事の盛りつけができる。
区切られたベッドルームを設けることで音環境にも配慮。

おおぎ第二保育園のランチルームは北欧の家庭のような温かさと美しさに包まれています。木をふんだんに使った内装。心を浮き立たせるカーテン。小さな花瓶にいけられた花。そして0歳児室と同じく高いテーブルにいす。

「1歳からランチルームでというと驚かれることもありますけれど、1歳だってご飯を目指して、自分の足でランチルームに来るというのも、いいと思ってます」と中瀬先生。

ランチタイムは11時ごろから。1歳の子たちから食べ始めますが、低月齢の子たちは落ち着いて食べられるように、壁で仕切られた部屋の隅の空間で。その後子どもたちが順次入ってきますがざわついたりはしません。「静かな音で音楽を流していて、子どもたちにはその音楽が聞こえるくらいの声でおしゃべりしようねといってあります」とのこと。

ここでも配膳だけを担当する職員を配置。「目の前の子どもとのかかわりに100%集中してほしいですからね」と中瀬先生。場の空気を揺らさないように、保育者や子どもの気が散らないように、役割分担においても、いかに和やかに食べることに向かえるかを考えられていました。

1歳児  11:10ごろ~
ランチルーム

壁に囲まれた奥のスペースに、低月齢の子どもたちのテーブルを設置。
調理室は廊下をはさんで向かい側に。ランチルームの行き来もスムーズ。

2歳児  11:20ごろ~
ランチルーム

配膳係を配置することで、ほかの保育者は子どもとのかかわりに集中できる。
しっかりと足をつけて食べられるように、いすの高さは成長に合わせて調整。
ランチタイムには静かな音楽を流している。音が聞こえるぐらいの声でおしゃべりするのが約束。

遊愛保育園(東京・世田谷区)

『動線』の整理、空間の仕切りを工夫して
 集中して食べられる環境を作る

遊愛保育園の0歳児室には保育の知恵が詰まっています。遊びから食へ。食から眠りへ。限られた空間をどう使えばそれぞれが無理なく成り立つか。

遊ぶスペースと食べるスペースは背の高い棚で仕切られ、子どもが立ち上がっても、互いの空間は見えません。それぞれの空間で、食べること、遊ぶことに集中できます。大人も子どもとのかかわりに集中しやすいのです。

エプロン、手拭き、台拭きなど食事に必要なセットは離乳食が始まる前に揃えられます。そのすべてが保育者が振り向けば手が届くところに置かれ、立たなくてもいい配慮がされています。食事後にミルクを飲む子へのかかわりは、ついたてを壁際に置いた即席の授乳スペースで。視界をさえぎることで、子どもは落ち着いてミルクが飲めます。

食事が進んだら、室内をやや暗くして布団を敷いていきます。食事の終わった子はその眠りの空間へ。隣で1歳児たちが遊んでいますが、ロールカーテンを下ろし、見えないように工夫しています。空間を用途別に限定し、循環させていく。行き届いた配慮と準備が隅々まで感じられます。

離乳食
10:20ごろ~

③の眠るスペース。ロールカーテンを使って1・2歳児の遊び空間との間にも仕切りを作る。

0歳児室と部屋続きで隣にあるのが1歳児室。0歳児室と同じく背の高い棚が各所を仕切り、同じ空間にありながらも0歳児室の音や動きと、干渉しあわないように工夫されています。

1歳児室内も「遊び」と「食べる」は目線をさえぎられるように仕切られています。まだ子どもたちが遊んでいる間に、食のスペースではお手拭きや台拭きといった食事に必要なものはもちろん、おかわり、片づけの準備に至るまで整えられます。

おかわり、下膳かごは中央の机の下に配置。こうすることで、どの食事テーブルからも等距離になり、保育者が最短の動きでたどり着けるようになっています。いすはその子のマークがつけられ、すわる位置も決められています。決まっていることが安心なこの時期。決まった場所で、決まった人という年齢に適した配慮が感じられました。

食器は担当の保育者が用意しますが、驚いたのは食器がすべて保育室の棚に入っていること。食後の食器洗いも保育者がするとのこと。どうしても保育と食は分離しがちですが、こうして準備や片づけに保育者もかかわることで、保育と食、それぞれのスタッフがともに働く同僚性が育まれているのだと感じました。

0・1歳児
11:10ごろ~

A

食器は保育室の棚に収納。動き回らず、スムーズに準備ができる。

2階の調理室から配膳用昇降機で降ろされた食事を受け取り、保育者が準備をする。
遊び空間と食べる空間を仕切る。目線を区切ることで落ち着いて食べることができる。

2歳児 11:25ごろ~
ランチルーム

2歳児以降は大きなランチルームで食べます。大きな空間の中でも子どもたちの動線にこまやかな意図が見受けられます。ランチルームに入室してすぐのところに今日のメニューの実物が置かれ、ボードには文字で示されています。それを見て今日いただくものへの心づもりが子どもたちの中にもできるので
しょう。

そのあとはすぐ横にある手洗いへ。手洗いがすんだらランチルーム中央に置かれているエプロンをとって好きなテーブルへと向かいます。

席につくまでの一連の動線の中に、必要なことがすべて順序よく配置されていて、しかもお互いの動線がぶつからないように配慮されています。日々くり返すことでさらに子どもたちにとってわかりやすく、メニュー確認、手洗い、食事の準備を自分で行えるようになっていくように設計されているのです。

2歳児からは自分の好きな場所で食べるとのこと。だんだんと友達関係も濃くなってきて「この人と食べたい!」という意欲も出るころですし、なにより「自分で選ぶ」ことが大事な時期でもある2歳児への配慮が感じられました。

入り口を入ってすぐのところで、その日のメニューを確認。

メニューを見て、手洗い場に進む。

食事用エプロンが動線の途中に置かれ、子どもはそこでエプロンを取って、自分たちのテーブルにつく。

点線(上写真参照)より下が2歳児のランチスペース。3つのテーブルがランチルームの一番奥に設定されている。
3つのテーブルのうち、好きな席につき、好きな人と食べる。

撮影/藤田修平

『新 幼児と保育』増刊『0・1・2歳児の保育』2019秋冬より

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