ホッ……とする絵本【児玉ひろ美のこだま文庫】

連載
児玉ひろ美の絵本ガイド

JPIC読書アドバイザー

児玉ひろ美

ここは、みなさんの記憶の隅にある懐かしい1冊や気になりながらも読まないままの1冊、そんな本に再び出会うためのオンライン図書館です。今回は、心が温まる絵本を集めました。

児玉ひろ美さん

公立図書館司書とJPIC(ジェイピック:一般社団法人出版文化産業振興財団)読書アドバイザーのふたつの立場から子どもの読書推進活動を展開。お話会の実践のほか、近年は大学にて「児童文化」「絵本論」の講義を担当。「2021・2022・2023年度ブックスタート赤ちゃん絵本選考委員」。著作に『0~5歳子どもを育てる「読み聞かせ」実践ガイド』(小学館)などがあり、雑誌やWEBでも活躍中。

「一緒に読んだら元気になるよね!」

そういいながら手提げの中をそっと見せてくれたのは、Uちゃん7歳です。手提げの中には『ラーメンちゃん』。Uちゃんのお気に入りのマイブックです。Uちゃんは得意げに、「これからおばあちゃんに読み聞かせをしに行く」と教えてくれました。Uちゃんは2011年の10月生まれです。その年のクリスマス、少し思いつめたような表情のお母さんに「こんなにも大きな災害の年に生まれたこの子だからこそって、児玉さんが思う本を選んでください」といわれ、選んだのが『ラーメンちゃん』です。テレビ番組で紹介され、ご存じの方も多いことでしょう。作者の被災地支援の活動から生まれた絵本です。たとえ何があっても、Uちゃんはもちろん、お母さんも一緒に「なんとか なるとー」「ほうれんそう げんきだそう」と、明るく軽やかに、前へ進んでほしいと思いました。そうそう、Uちゃんのおばあちゃんは北海道ご出身です。Uちゃんと一緒に絵本で元気になれますように!

『ラーメンちゃん』
長谷川義史/作
絵本館

「あ〜! ゴクラクゴクラク」

2歳のかわいいNちゃんにそういわれ、主人公ハリーも、さぞビックリなことでしょう。『どろんこハリー』は2019年になると日本で55年、海外では65年も読み継がれる超ロングセラーな1冊になります。「行きて帰りし物語」の典型でもあり、どんなに冒険をしても、最後は「じぶんのうちってなんていいんでしょう」と、満ち足りた顔でお昼寝です。そこを指さし、Nちゃんがひと言。「あ〜! ゴクラク ゴクラク」。お父さんの口癖とのことですが、おうちが好きなんですね。

『どろんこハリー』
ジーン・ジオン/文
マーガレット・ブロイ・グレアム/絵
わたなべ しげお/訳
福音館書店

「心が覚えているんでしょうかねぇ」

閉館のシャッターを下ろした通路で、警備員さんがつぶやきました。視線の先にあるのは子ども図書室の展示ケース内の『しろいうさぎとくろいうさぎ』です。驚いて言葉を待つと、「絵本の記憶なんて自分にはないと思っていましたけど、先週からなんだか気になっていたんです。この絵がねぇ、懐かしくて。母がふたりの妹に読んでいたのを、私は横で見ていたのかなぁ。母の声まで思い出しちゃいますね」。お見受けしたところ、警備員さんは60代。絵本の出版が1965年であることを考えれば、そうかもしれません。それにしても、「心が覚えている」って、なんて素敵な言葉でしょう。

『しろいうさぎとくろいうさぎ』
ガース・ウイリアムズ/文・絵
まつおか きょうこ/訳
福音館書店

年を重ねてもなお、心に残っている絵本があるというのは心の故郷のような存在だと、私は思います。それは、たとえ何があっても、誰からも決して奪われることのない力を持っています。今年は自然災害が多い1年でした。被害を受けられたみなさまには心からお見舞いを申し上げます。子どもたちの中には、被災こそしていないものの、周囲の大人たちの緊張や不安を漠然と感じている子もいることでしょう。まずは、私たち大人が気持ちを立て直し、不安の中にもいちる一縷の希望を見いだすこと。その希望を子どもたちに手渡すことができるのが読み聞かせです。

読み聞かせると、幅広い年齢の子が満ち足りた表情になる絵本があります。『カンガルーの子どもにも かあさんいるの?』。子どものシンプルな問いにシンプルで力強く温かい答えが安心感をもたらすのでしょう。短大の学生が、「(この絵本を読むと、)よし、これで大丈夫って、いつもそう思えた」といっていました。彼女は、事情があって母親と別れて暮らし始めた低学年のころ、現実には母親は一緒にいないのに、「この絵本を読むことで、つながっていることを確認して安心できたみたい」ともいっていました。

『カンガルーの子どもにもかあさんいるの?』
エリック・カール/作
さの ようこ/訳
偕成社

読むことで自分の心の芯を確信できるような絵本と出会えたら、それは生きる力にもなることです。『あさになったので まどをあけますよ』は、そんな1冊として、そっと紹介したい絵本です。

『あさになったのでまどをあけますよ』
荒井良二/著
偕成社

12月と1月のおすすめ絵本|テーマ「冬の楽しみ」

0歳から2歳向け 

『おせんべ やけたかな』

わらべうた

こがようこ/構成・文
降矢なな/絵
童心社

「おせんべ やけたかな やけた!」の、わらべうた絵本です。巻末に楽譜がありますが、それにとらわれず、どうぞお好きなリズムで読んでください。わらべうたですから、大袈裟な節回しやリズムは似合いません。会話を楽しむような気持ちで、歌うように、おおらかに、ゆったりと読めば自然にリズムが生まれます。

2歳から4歳向け

『おもち!』

参加型

石津ちひろ/文 村上康成/絵
小峰書店

「ぺったん ぺったん ぺたぺったん」。おもちをつくと…あら不思議!おもちがウサギやシロクマ、オコジョなどに変身します。いったい、どうなるのでしょう? 手のひらにグーでおもちをつきながら、「ぺったん ぺったん~」と声を出す参加型にしてみましょう。「今度は何になるかな?」と、変身もアレンジして楽しめます。

4歳から6歳向け

『ゆきがふったら』

お話

レベッカ・ボンド/作
さくま ゆみこ/訳
偕成社

雪が降ったらできる楽しいことを、あれも、これも、やってくれます。「こんなの どう?」「こういうのは?」「だったら、こうは?」。みんなで考え、作って、遊ぶ。なんて楽しいのでしょう!40ページのボリュームが苦になりません。冒頭の、子どもたちが起きるシーンの前までを丁寧に読めば、あとはテンポアップしても大丈夫。

異年齢向け

創作

『 ばばばあちゃんのクリスマスかざり』

さとう わきこ/作
福音館書店

おなじみのばばばあちゃんシリーズの工作本です。折り紙、発泡スチロール、ダンボール、カラスびんなど、いろいろなものを再利用して作っていきます。異年齢の子どもが一緒に工作を楽しめるよう、それぞれ事前に材料や道具を準備してから読み聞かせましょう。シリーズには「おもちつき」もあり、季節の行事が楽しめます。

『新 幼児と保育』2018年12/1月号より

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