きもと ももこさん「自由に落書き」【表紙絵本館】

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『新 幼児と保育』は、毎号絵本作家さんの描きおろしの絵が表紙となっています。表紙を飾った絵本作家さんの幼年期のエッセイを紹介していきます。今回は、きもと ももこさんです。

自由に落書き

自宅にて。左から姉、父、私、弟。
私が5歳くらいのころ。いつも鶏を抱いて遊んでいた。

私の実家は普通の家とは様子が違っていた。壁は落書きだらけ、襖はビリビリに破け、穴だらけだった。なぜなら、私たちは襖だろうが壁だろうが、自由に絵を描いてよかったし、破いても汚しても叱られなかったからだ。そこは私たちにとって、キャンバスのようなものだった。

私たち姉弟は幼稚園にも保育園にも行かなかった。近所の子どもたちが「みんなでお遊戯」をしている時間に、庭で犬のように穴を掘って遊んだ。そこに眠っている虫を捕まえ、植物を引っこ抜き、庭の片隅で死んでいるネズミがどのように朽ち果てていくかを観察した。そして庭で飼っていたチャボを人形のように抱いて戯れ、雛が生まれてくる様子をじっと見つめた。

私は少し大きくなると弟とふたりで、近所の石神井公園というところに出かけて行って遊ぶようになった。私は4歳か5歳、弟は3歳くらいだったと思う。今では考えにくいことだけれど、まだ小さかった私たちの「石神井公園への出張」に、大人の監視がつくことはほとんどなかった。私たちは子どもだけで石神井公園の自然を思い切り満喫した。私にとってそこは本当にすばらしい「庭」で、ここでたくさんの小さな生き物を素手で捕まえ、植物に触れ、多くのことを学んだ。

上の家族写真は私が2、3歳のころ。私は3人姉弟の真ん中の子だった。私たちは幼いころ、穴だらけの襖を気にすることはなかったのだけれど、小学校に進学してから、いかに自分の家が汚いかを知り、恥ずかしいと思ったものだ。でも今あのころを思い出してみて、それは自分の育った環境として、決して他人に恥じるものではなかったと思えるようになった。その環境があってこそ、今の自分があるのだ、と。

私は絵本を作るとき、自分が幼少期に経験した感動が絵本の中に宿っているかを考える。私はこれからも、あのころの「感動」を生かして絵本を作っていくつもりでいる。

きもと ももこ

1966年東京生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。出版社に勤務しながら書いた『うずらちゃんのかくれんぼ』(福音館書店)がデビュー作。絵本作品は『ピーのおはなし』『てぶくろチンクタンク』『うずらちゃんの たからもの』 ( 以上、福音館書店 )。『つるちゃんとクネクネのやまのぼり』( 文溪堂 ) がある。東京都在住。

『新 幼児と保育』2020年2/3月号より

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