初めての贈り物「なまえ」にちなんだ1冊【児玉ひろ美のこだま文庫】

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児玉ひろ美の絵本ガイド
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JPIC読書アドバイザー

児玉ひろ美

記憶の隅にある懐かしい1冊、気になりながらも読まないままの1冊、まだ出会っていない1冊。ここは、そんな本を見つけるためのオンライン図書館です。今回のテーマは「なまえ」。人が生まれて最初に受け取るたったひとつの贈り物に思いを巡らせてみませんか?

児玉ひろ美さん

公立図書館司書とJPIC(ジェイピック:一般社団法人出版文化産業振興財団)読書アドバイザーのふたつの立場から子どもの読書推進活動を展開。お話会の実践のほか、近年は大学にて「児童文化」「絵本論」の講義を担当。「2021・2022・2023年度ブックスタート赤ちゃん絵本選考委員」。著作に『0~5歳子どもを育てる「読み聞かせ」実践ガイド』(小学館)などがあり、雑誌やWEBでも活躍中。

「なまえ」をテーマにした絵本

「さんばんめの にいさんは どこまでも どこまでも  あしを のばすことが できました。」

懐かしい思いでご覧の方も多いことでしょう。『シナの五にんきょうだい』は、かつて福音館書店から石井桃子さんの訳で出版されていました。現在は出版社を変え、新たな訳で再版されて、読み継がれている中国の昔話です。

見分けがつかぬほどそっくりな顔の兄弟が、力を合わせて苦難を乗り切るという内容は、同じく中国の民話『王さまと九人のきょうだい』(君島久子訳/岩波書店)と同じですが、この兄弟たちには名前がありません。「一ばんうえのにいさん、二ばんめ、三ばんめ、四ばんめのにいさん、五ばんめのすえっこ」と呼ばれて、お話は展開していきます。

それでも、兄弟がみな、鮮やかに印象づけられているのは、やはり、それぞれが特別な特徴=力を持っているからなのでしょう。子どもたちは1番目の兄さんと一緒にほっぺたを膨らませたり、苦しそうに息を止めたり、3番目の兄さんの長く伸びる足に目を見張ったりして、素朴な感動を楽しんで、くり返しくり返し、絵本を開きます。

シナの五にんきょうだい表紙
『シナの五にんきょうだい』
クレール・H・ビショップ/文 元永定正/絵
クルト・ヴィーゼ/絵 川本三郎/訳
瑞雲舎
シナの五にんきょうだい中面

一方、『うさこちゃんと たれみみくん』では、クラスに新しく入ったお友達「だーん」が、名前ではなく、垂れた耳をあだ名にして呼ばれることが、うさこちゃんには気になってなりません。

うさこちゃんは だーんに きいてみました。みんなが あなたのこと たれみみくんって いうの いやじゃない?

そして、うさこちゃんは一生懸命に考えて心に決めるのです。「たれみみって よぶのは よくない」。明日クラスのみんなに伝えることにしました。

「だーんという なまえのほうが ずっと いいもの。」

余談ですが、「うさこちゃんシリーズ」は赤ちゃんの絵本として認識している方が多いようですが、この作品は「3才から」と明記されています。裏表紙を開くと、奥付のページに年齢別のリストがありますので参考になさってください。死や障がい、差別など、以前なら絵本の世界においてタブー視されたテーマも、ブルーナらしい簡潔な文章で、大切なことをシンプルに伝えています。

『うさこちゃんとたれみみくん』表紙
『うさこちゃんとたれみみくん』
ディック・ブルーナ/文・絵 まつおか きょうこ/訳
福音館書店
『うさこちゃんとたれみみくん』中面

だーんは名前を呼ばれ、どんなにかうれしかったことでしょう! だれだって、名前を呼ばれることはうれしいことですね。でも『しげちゃん』は違ったようです。

「わたし、じぶんの名前、キライ! もっとかわいい名前にかえてよ」

著者は女優の室井滋さん。どうやらご自身の実話のようです。「しげる」という名前ゆえに、男の子と間違えられたり、いじめられたり、からかわれたり。自分なりに工夫して、「げ」を「け」にしてみたり、カタカナで書いてみたり…。

でも、お母さんから「しげちゃん」の名前に込められた思いを教えてもらい、ちょっぴり「しげる」がいやでなくなりました。あとがきによると、芸名を考える際にもいろいろ名前を考えてみたものの、ほかの名前はご自分に似合わないと感じたそうです。

名前は両親からの最初の贈り物です。こんなふうに育ってほしい。こんな人生を歩んでほしい。そんな願いや思いが込められているのでしょう。名前を大切にすることは、その人を大切にすること、自分自身をも大切にすることなのですね。

そういえば、先の5人兄弟に名前がないのは、5人がそっくりでいるためには、きっと必然のことなのでしょう。

『しげちゃん』表紙
『しげちゃん』
室井 滋/作 長谷川義史/絵
金の星社

2月と3月のおすすめ絵本|テーマ「遊べる絵本」

童謡・わらべうた

『さかながはねて』

『さかながはねて』
中川ひろたか/文 森あさ子/絵
世界文化社

♪「さかなが はねて ぴょん」。大人気の手遊び歌を、ねこやいぬなどの動物と一緒にくり返しのリズムで楽しめます。表紙カバーの折り込み部分に作者自演の公式動画へ飛べる2次元コードつき。

『へっこ ぷっと たれた』

「へっこ ぷっと たれた」表紙
『へっこ ぷっと たれた』
こが ようこ/構成・文 降矢なな/絵
童心社

「おいっち にの だーるまさんへっこ ぷっと たれた」。赤ちゃんをあやすように、ゆったりとしたリズムでおおらかに読んでください。巻末に譜つき。

『どんどんばしわたれ』

『どんどんばしわたれ』表紙
『どんどんばしわたれ』
こばやし えみこ/案 ましま せつこ/絵
こぐま社

「どんどんばし わたれ さあ わたれ」。歩く楽しさに満ちた、わらべうた絵本です。乳児には、ぬいぐるみを行進させてみせてもよいですね。巻末に譜つき。

0歳から2歳向け

『お? かお!』

「お? かお!」表紙
『お? かお!』
ひらぎみつえ/作
ほるぷ出版

小さい子の大好きな顔の絵本。各ページ厚さ約3ミリの紙は、くりぬかれた丸い穴に指を入れて目や鼻を動かす仕掛け。子どもの行動を、楽しさで促す作品。

『ふうしてあそぼ』

「ふうしてあそぼ」表紙
『ふうしてあそぼ』
はるの まい/作
エンブックス

縦開きのページの下方に、風船や、シャボン玉、あつあつスープなど、子どもが「ふう」としたくなるモノがいっぱい! 強く、優しく、みんなで「ふう」。

2歳から4歳向け

『そんなに みないで くださいな』

「そんなに みないで くださいな」表紙
『そんなに みないで くださいな』
accototo /作
角川書店

「そんなに みないでくださいな そんなにみてると…」。カメは「かくれちゃうよ」と甲羅の中に。ウサギは「ぴょーん」と逃げ…。さあ、次はどうなる?

『どうぶつだあれかな』

『どうぶつだあれかな』表紙
『どうぶつだあれかな』
かきもとこうぞう/絵 はせがわさとみ/文
学研プラス

らいおんのぼうやが遊びに出かけると、「ながーいはな」「だあれかな?」。楽しい参加型の当てっこ絵本です。表紙の裏面からはじまるので、必ずカバーを外して読んでください。

『かぜビューン』

「かぜビューン」表紙
『かぜビューン』
tupera tupera /作・絵
学研プラス

簡単な折りたたみ式の仕掛け絵本です。タンポポの綿毛も、ライオンの立派なタテガミも、風がきたら「ビューン」。何回でも笑える楽しい絵本です。

4歳から6歳向け

『ねことねこ』

「ねことねこ」表紙
ねことねこ
町田尚子/作
こぐま社

1匹1匹が違うねこ。でも、よーく見ると、目の色がおなじ、短いしっぽがおなじ、白い手袋がおなじ…。たくさんの「おなじさがし」を楽しみましょう。

『コアラアラアラやってきて』

「コアラアラアラやってきて」表紙
『コアラアラアラやってきて』
おおなり修司/文 丸山誠司/絵
絵本館

「コアラアラアラやってきて コアラホラホラだいじょうぶ」。リズミカルな歌に乗って、ハゲタカやガイコツまでやってきます。最後にふんどしまでやってきて…。

『うし』

「うし」表紙
『うし』
内田麟太郎/詩 高畠 純/絵
アリス館
「うし」中面

うしがうしろをふりかえったら、うしがいた。そのうしろのうしもうしろをふりかえったら…。果てなし話の連続に、子どもたちの笑い声も止まらない!

『新 幼児と保育』2020年2/3月号より

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