ロングセラー絵本として新たに仲間入りした1冊|【児玉ひろ美のこだま文庫】

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JPIC読書アドバイザー

児玉ひろ美

記憶の隅にある懐かしい1冊、気になりながらも読まないままの1冊、まだ出会っていない1冊。ここは、そんな本を見つけるためのオンライン図書館です。絵本を読む子どもの顔ぶれがつねに入れ替わっていくように時代とともに、ロングセラー絵本にも新しい顔ぶれが加わっていきます。今回はそんな「新しい」人気作品の話から…。

児玉ひろ美さん

公立図書館司書とJPIC(ジェイピック:一般社団法人出版文化産業振興財団)読書アドバイザーのふたつの立場から子どもの読書推進活動を展開。お話会の実践のほか、近年は大学にて「児童文化」「絵本論」の講義を担当。「2021・2022・2023年度ブックスタート赤ちゃん絵本選考委員」。著作に『0~5歳子どもを育てる「読み聞かせ」実践ガイド』(小学館)などがあり、雑誌やWEBでも活躍中。

ロングセラー絵本に新たに仲間入り

ふたつの短大で絵本論と児童文化の授業を担当しています。どちらも本業である図書館司書の視線を生かし、絵本を正当に評価することを目標のひとつにしています。毎年はじめの授業では、「思い出の絵本」を紹介し、どのようにその絵本と出会い、どんな印象が残っているかの発表を課題にします。

「うずらちゃんとひよこちゃん どちらの役になるか 妹といつもケンカしました

と、紹介されたのは『うずらちゃんのかくれんぼ』。皇室の愛子さまが3歳の折、楽しまれている姿が映像で公開され、話題になりました。今年の1年生は愛子さまよりひとつ年下ですから、少なからず、影響を受けている世代です。

学生の発表は「かわりばんこにしなさい。と母がいっても、私はどちらも色がめちゃくちゃきれいで、大好きで、その日の気分でなりたいほうになりたくて、妹を泣かしてばかりいました。でも、今回改めて読んでみたら、どうしてそんなにこだわったのかよくわかりません」と続き、コロナ禍の不便な授業の中で、教室に和やかな空気が流れました。

『うずらちゃんのかくれんぼ』
きもと ももこ/作
福音館書店

「本が縦に自分のほう(下方)へ開いてきたこと、本当に100階あること、100階全部、部屋の中が違うこと」

と、学生が両手で『100かいだてのいえ』を掲げながら、幼いころの自分がその絵本に魅かれた理由を発表しました。「自分のほうに開いてきた」という表現は、体の小さい子どもにとって、絵本がいかに大きなものとして映っていたかが感じられます。そして彼女は、100階を数えながら100の部屋を指でたどり、絵本を読むたびに、こう思ったそうです。

「ああ、絵本を書く人は嘘をつかないんだな」

もう、最大級の賛辞です。

幼い子にとって、「100」というのは「数えきれないくらいたくさん」に等しい存在。毎回数えることは、さぞかし達成感のあることでしょう。いまでは5冊の『100かいだてのいえ』シリーズとなり、ビッグブックもミニブックもあります。新しくできた図書館では、子ども図書室のビッグブックの書架に「100かいだて」専用の縦長書架を設置している館も少なくありません。正直な大人の作品は、こんなふうに大切にされるのですね。

『100かいだてのいえ』
いわい としお/作
偕成社

「思い出の絵本というか いまでもバリバリ現役マイブックです」

学生が手にしていたのは『バムとケロのにちようび』。周囲から「あ、わかる」「私も」と声があがっていました。この数年、学生からタイトルがあがるようになった作品です。こうして並べるだけでも、学生の「思い出の絵本」が様変わりをしていることを感じます。

平成も30年を経て時代を終え、21世紀も20年超。当然、平成生まれや21世紀のロングセラーが成立しています。急速なIT化に加え、ウィズ/アフターコロナの新しい生活様式など、急速な変化の中でも普遍的な思いや願い、価値観を譲り渡すことなく、「新しい絵本を選ぶ眼」を学生に伝えていきたいと願います。

現在、授業は対面とオンラインを交互に行っていて、オンライン授業後にはレポート提出を課しています。先の授業の翌週、『うずらちゃんのかくれんぼ』の学生がレポートにこんなことを追記してきました。「うずらちゃんとひよこちゃんにこだわった自分を、いまではどうして…? と思ってしまいます。だからこそ、それを学ぶために、いま、ここにいるんですね」。

そして『バムとケロのにちようび』の学生からは、「ほかの絵本は思い出の絵本になっても、この絵本のシリーズは、いまでも私の本として本棚に並んでいます」との書き込みが。対面では聞き逃しがちなこんな声を受け取るとき、「新しい形式の授業も悪くない」と思ったりするのです。

『バムとケロのにちようび』
島田ゆか/作・絵
文溪堂

8月と9月のおすすめ絵本|テーマ「どろんこ」

0歳から2歳向け

『あてっこ びっくり どろんこ だあれ?』

『あてっこ びっくり どろんこ だあれ?』
山岡ひかる/作・絵
ひかりのくに

「どろんこ べとべと だあれかな?」「どろんこ とったら しろくまちゃん」。リズミカルな言葉であてっこ遊び。優しい切り絵の絵本です。

『どろんこ ももんちゃん』

『どろんこ ももんちゃん』
とよた かずひこ/作・絵
童心社

2021年9月で出版20周年を迎える『ももんちゃん』シリーズ。21世紀ロングセラーのフロントランナーはどろんこ遊びも得意です。

『こぐまちゃんのどろあそび』

『こぐまちゃんのどろあそび』
もり ひさし、わだ よしおみ、わかやま けん/作
こぐま社

どろんこ遊びといえば、この絵本を思う人も多いでしょう。遊びに夢中になる子ども気持ちに寄り添い、50年超のロングセラー作品です。

2歳から4歳向け

『どろんこ どろんこ!』

『どろんこ どろんこ!』
わたなべ しげお/文
おおとも やすお/絵
福音館書店

お山を作って、穴を掘って、お水を入れて…。子どもがやりたいこと全部! くまくんがやってくれます。2021年春、40周年を迎えました。

『どろんこどろちゃん』

『どろんこどろちゃん』
いとう ひろし/作・絵
ポプラ社

もう何回、子どもたちから「これ本物のどろ?」と聞かれたことでしょう? どろから生まれた「どろちゃん」の躍動感あるどろ跳ねが大人気の作品です。

『11ぴきのねこ どろんこ』

『11ぴきのねこ どろんこ』
馬場のぼる/作・絵
こぐま社

懐かしく思う方も多いことでしょう。恐竜の子どもの背に乗り、11匹は泥沼へザブーン。「ニャゴ ニャゴ モガ モガ」。さあ、どうなるの?

『どろんこおばけになりたいな』

『どろんこおばけになりたいな』
内田麟太郎/作
石井聖岳/絵
童心社

どろんこで子どものやってみたいことの最大級がここに。土と水の心地よい感触が五感に湧き上がります。何回読んでも気持ちいい!

4歳から6歳向け

『どろんこのおともだち』

『どろんこのおともだち』
バーバラ・マクリントック/作
福本友美子/訳
ほるぷ出

どろんこ遊びや木登りが大好きなシャーロットに届いたのは、リボンやレースがたくさんついたお人形。シャーロットはお人形を連れて外へ遊びに行きました。もちろん最初はどろんこ遊び。お人形はどうなるのでしょう?

『どろだんご』

『どろだんご』
たなか よしゆき/文
のさか ゆうさく/絵
福音館書店

憧れの割れないどろ団子の作り方を、子どもの視線で描いています。出版時(1989年)のころに比べてどろ遊びの経験が少ない昨今は、4歳以上でおすすめです。

『どろんこ こぶた』

『どろんこ こぶた』
アーノルド・ローベル/作
岸田衿子/訳
文化出版局

子ぶたは柔らかいどろんこに沈むのが大好き。ところがある日、どろがきれいに掃除され、怒った子ぶたは逃げ出します。満50歳を迎えた作品です。

『どろんこハリー』

『どろんこハリー』
ジーン・ジオン/文
マーガレット・ブロイ・グレアム/絵
わたなべ しげお/訳
福音館書店

ロングセラーも「どろんこの絵本」として並ぶと新鮮ですね。子どもの大好きな、犬・どろんこ・冒険に、ユーモアとスリルがスパイスの作品です。

『新 幼児と保育』2021年8/9月号より

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