「加配がつかず、配慮が行き渡らない」【保育マメマメQ&Hints! with 大豆生田啓友先生】

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保育マメマメQ&Hints! 保育の悩み、立ち話 with 大豆生田啓友先生
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玉川大学教授

大豆生田啓友
加配を望む保育士ふたり

大豆生田 今回の質問は、「発達の気になる子が増えていて、とても全体に配慮が行き渡りません。加配をつけるのも難しいといわれています」です。答えはひとつじゃありません。ぼくの考えるいくつかの対応例をあげます。みんなで対話して、考えていきたいですね。

※公式Instagramで今回のテーマの動画(約90秒)が見られます。(←文字をタップorクリックしてください)右下は、リール動画撮影中の様子(写真左は小学館編集スタッフ)

大豆生田啓友先生

玉川大学教授。保育・子育て支援などが専門。特に保育の質の向上が研究のメインテーマ。著書に『日本が誇る! ていねいな保育』『日本版保育ドキュメンテーションのすすめ』(ともに共著・小学館)、『子どもが中心の「共主体」の保育へ』(監修・小学館)など多数。2024年9月28日に柴田愛子先生との対談を保育セミナーで行います。←この部分をタップorクリックして詳細と申し込みサイトへ

保育は、子どもの生活に丸ごとかかわるお仕事。
そして、同僚や保護者との関係も複雑に交ざり合って、
なかなか個人の思ったとおりにはいきません。
「こんな場合、どうしたら?」
そんな現場の保育者が抱える悩みや疑問に対して、
大豆生田啓友先生から、考え方のヒントをいただきました。
これをもとに、仲間とぜひ話し合ってみてください。

Q穂
Q

Q穂 公立園勤務の保育者です。複数担任なんですが、園に発達の気になる子が増えていて、とても全体に配慮が行き渡りません。市からは、「加配をつけるのは難しい」と言われます。どうしたらいいでしょう。

共感するマメ先生
マメ先生

より配慮の必要な子が、公立園に偏る

マメ先生 実は、公立に多様なお子さんが集中するという実情があるんです。民間で断られて公立に…という流れですね。

これは望ましくありません。園は社会の縮図として、いろんな子がクラスにいる環境でないと。

そんなふうにいろんな子がいる保育を、「インクルーシブ保育」と呼んでいます。

インクルーシブというのは日本語では「包み込む(包括・包摂 の)」を意味しています。

 「インクルーシブ保育」と似たものに、「統合保育」(インテグレーティブ保育)というのがあります。それをちょっとだけ説明しますね。

「みんなちがう」を前提とした支援に

マメ先生 「統合保育」は、平均的な発達の子どもたちの中に、発達差異の大きい子を入れるという発想の保育。

ただこれだと、「場」は一緒でも、結局その子を“分けて”考えがちになる。

一方で「インクルーシブ保育」は、「人にはみな違いがあること」が前提です。だから、発達差異に関係なく、当たり前のようにいろんな子がいる保育になります。

社会は今、障がいの有無や国籍の違いなどがあっても、すべてを包括したコミュニティーをつくることを目指しています。ですから、小さいころから、「いろんな子が近くにいることが当たり前」に感じられるようにしたいんですよ。

【インクルーシブ保育と統合保育の違い】

インクルーシブと統合保育
※「包摂」は日常会話で使われないため、福祉先進国で使われる「インクルーシブ」という単語がそのまま使われています。

福祉ではイコールではなく「フェア」が基本

マメ先生 この支援では「インクルーシブ」のほかに、もうひとつ理解しておきたいことがあります。「フェア」と「イコール」の違いです。

たとえば、リンゴをみんなに配るとき全員に1個ずつ与えるのは、「イコール」の発想。おなかのすき具合によって、2個とか半分とか調節して与えるのが「フェア」の発想です。そして福祉は、フェアの発想に立つもの、ということ。

発達差異の大きい子は、活動によって多くの援助を要します。だから、加配などの必要が出てくるけれど、それは特別扱いではなく、単にそれぞれの子のニーズに即したフェアな支援なんです。

【イコールとフェア】

イコールとフェアの考え方

Q穂 加配は、「インクルーシブ保育」を支えるために必要な「フェア」な支援だということですね。

マメ先生 そうです。

多くの自治体で加配の基準がない

マメ先生 その加配についてですが、国はその配置基準を決めていません。あるのは自治体独自のもの。ただそれも、「具体的に基準を決めていない」自治体がたくさんあります。

さらに、「保護者の申し出がないと加配や補助金をつけない」自治体も。

Q穂 うちの自治体がそうなんです。だけど、加配をつける=障がいのある子のレッテル貼られると感じる保護者がいて、「加配の申し出をお願いしたい」とか、園からは言いにくいんですよね。

チーム保育なら「加配」意識を低減できる

マメ先生 逆に自治体は、「申し出」を確認することで、保護者とのトラブルを避けたいのでしょうね。

ただ、保護者の「申し出なし」で加配がつくケースでも、チームでその子をフォローしているんですよ。「集団を支える職員が1人増えた」ととらえているんですね。

そうすれば、「その子のための加配」ではなくなりますし、みんなで支え合うインクルーシブ保育の理念にもかなっています。

人手が足りない保育は、誰にとっても不幸です。

保護者の申し出不要にしてもらい、できるだけ早く加配をつけてもらえるよう、役所や町の議員に訴えたいですね。

【年度のはじめに説明】

春の保護者会での説明例

記録で「限界」であることを自治体に伝えて

マメ先生 それが実現するまでは、とりあえず、園全体で子どもたちを見合う、関係性を強化するしかありません。

シフトをこまめに調整したり、その子たちが落ち着ける環境をあちこちに作ったり、万が一、子どもが部屋を飛び出てもほかのクラスの先生がフォローできる体制をつくったりします。

そして、そのようなことをしてもすでに限界にあることを記録して、根気よく、訴え続けてください。

市民の声を拾って行うのが政治です。声の大きいところに支援は届きやすいんです。

ぜひほかの公立園、そして民間園も誘って、進めてもらえたらと思います。民間園で加配がつけにくかったら、ますます公立園に多様な子が集まりますよね。

子ども同士のトラブルのメモ
記録をつけて訴え続けるイメージ
参考:「保育所における障害児保育に関する研究報告書 」平成 29 年 3 月みずほ情報総研株式会社
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★この記事は、小学館『新 幼児と保育』公式Instagram(←こちらをタップorクリック!)でリール動画を配信した内容にweb版として加筆・再構成したものです。また、小学館の雑誌『新 幼児と保育』では、ほかのリール動画で配信した内容に加筆・再構成し掲載していますので、どうぞご覧ください。また、このコーナーへの質問、疑問も募集中です。下から投稿できます。

お話/大豆生田啓友(おおまめうだ ひろとも)先生
玉川大学教授。保育・子育て支援などが専門。特に保育の質の向上が研究のメインテーマ。著書に『日本が誇る! ていねいな保育』『日本版保育ドキュメンテーションのすすめ』『子どもが対話する保育「サークルタイム」のすすめ』(ともに共著・小学館)、『子どもが中心の「共主体」の保育へ』(監修・小学館)など多数。

構成・イラスト/おおえだ けいこ

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