「こども誰でも通園制度が不安です」【保育マメマメQ&Hints! with 大豆生田啓友先生】
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大豆生田 今回の質問は、「こども誰でも通園制度が不安です。どうしたらいいのでしょうか?」です。答えはひとつじゃありません。ぼくの考えるいくつかの対応例をあげます。みんなで対話して、考えていきたいですね。
※公式Instagramで今回のテーマの動画(約90秒)が見られます。(←文字をタップorクリックしてください)。右下は、リール動画撮影中の様子(写真左は小学館編集スタッフ)
大豆生田啓友先生
玉川大学教授。保育・子育て支援などが専門。特に保育の質の向上が研究のメインテーマ。著書に『日本が誇る! ていねいな保育』『日本版保育ドキュメンテーションのすすめ』(ともに共著・小学館)、『子どもが中心の「共主体」の保育へ』(監修・小学館)など多数。最新刊は、『保育の「ヘンな文化」そのままでいいんですか!?』(柴田愛子先生との対談集・小学館)。
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保育は、子どもの生活に丸ごとかかわるお仕事。
そして、同僚や保護者との関係も複雑に交ざり合って、
なかなか個人の思ったとおりにはいきません。
「こんな場合、どうしたら?」
そんな現場の保育者が抱える悩みや疑問に対して、
大豆生田啓友先生から、考え方のヒントをいただきました。
これをもとに、仲間とぜひ話し合ってみてください。
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Q織 「こども誰でも通園制度」がとても不安です。現状でも大変なのに、さらに不定期の子が来て大丈夫なのか。
これはどうなっていくんでしょうか?
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★以下、2025年2月9日時点での情報です。
目次
一時預かりとの決定的違い
マメ先生 「こども誰でも通園制度」、通称「誰通」ですね。
保護者の就労の有無も関係なく、どんな理由でも、0歳6か月~3歳未満の子が保育施設に通える制度のことで、2026年度からの本格実施が決まっています。
Q織 特に一番わかりにくいのは、一時預かりとの違いなんですが。
マメ先生 確かにわかりにくいですね。
ただ、このふたつには決定的な違いが、ひとつあるんです。それは、誰のための、何のための仕組みなのかという理念の違いです。
「誰通」は、子どもの権利としての制度
簡単にいうと、「一時預かり」はおもに子育て支援として保護者のための事業。
それに対し、「誰通」は子どもの権利の保障として、子どものために設計された給付制度だということ。
ここは世界的な「子どもの人権」尊重の動きの中で、ようやく日本が追いついてきた部分なので、理解しておいたほうがいいなと思います。
このふたつの仕組みの目的をまとめると、
●「一時預かり事業」
保護者のリフレッシュや病院通いなど、保護者の事情で子どもを園に預かってもらえる。
少子化対策の色合いが濃く、保護者が子育てしやすいサービスを行うことで、子どもを産むことに前向きになれるよう、用意されていると考えられる。
●「こども誰でも通園制度」
すべての子どもに対して、3歳になるまでの重要な期間、園の中で、多様な人とかかわりながら、多くの経験を積める権利を保障する制度。
さらに、密室育児で親のストレスを一身に受け、ときに命を失ってしまう子どもをなくすための制度でもある。
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「すべての子ども」を対象にする価値
マメ先生 この違いによって、ふたつの仕組みには運用にも違いが生じているんですよ。
この違いで一番わかりやすいのは、「一時預かり」の場合は、自治体ごとの判断で実施しないエリアがあるのに対し、「誰通」はすべての自治体でやることを、国が定めているという点。
何といっても、「誰通」は「子ども自身」の権利による制度です。だから、住んでる自治体や親の事情の違いで、使えたり使えなかったりというのは、あり得ないんですよ。
こどもまんなか社会の実現へ向けて…でも…
マメ先生 ご存じのとおり、2024年から日本でも児童手当の所得制限が撤廃されました。つまり、親の所得に関係なく、すべての子どもに一律、同じ条件で児童手当が支給されるようになったということ。
まあ、2010~2012年の民主党政権下の2年間だけ、「子ども手当」という名前で親の所得にかかわらず、一律に手当が支給されていた時期もあったんですけどね。
これらは、日本が子どもの権利を尊重する、「こどもまんなか」社会を目指すという流れの中で起こっていることなんですよ。
Q織 そうなんですね。
ただ…、その理念はわかるけれど、園にとっては、子どもをお預かりするという点では同じではないかと…。
マメ先生 確かにそうとも言えますね。
さらに、「誰通」は、全自治体での実施は決まっていながら、細かなルールは自治体ごと、あるいは園ごとで決めることになっていて、まだはっきりいえないことがたくさんあります。予算も国会の予算審議を経なければ、どうなるかわかりません。
そういう背景があるから、余計に不安になるんですよね。
利用方法の見込みは…
Q織 子どもの利用時間の限度を設けることは決まっている、と聞きました。
マメ先生 2025年度のお試し実施では、原則「子どもひとりにつき、1か月で10時間以内」。でも、自治体の裁量で「10時間以上の預かりも可能」になっています。
この通園時間は、分けて使うこともできます。
たとえば──
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こうした細かい時間の配分や時間帯、ほかのサービスとの組み合わせも、自治体・園のルールがまず決められて、その中でどうするか、保護者との話し合いで決めていくことになるようです。
利用料についての方針は
マメ先生 利用料についても、2025年度の試行では、保護者はひとりの子どもにつき300円/1時間程度の負担で利用できるようになります。
施設はそれプラス行政から、子どもひとり1時間当たり、0歳児1300円、1歳児1100円、2歳児900円という補助金が支出される方針が出されています(2024年の年末時点)。
以前は一律850円とされていましたが、変更があったようです。これも2026年度の本格実施で、どうなっていくかわかりませんが。
Q織 でも、子どもの権利のためといいつつ、園児が減っている園がその存続のために、今、園に通っていない子を預かることで、運営の維持を図ろうとして 、導入するとも聞いています。
マメ先生 結果的に「園救済」の形になることは十分あり得ます。
でも、園がその地域からなくなれば、近隣の子どもも困ってしまいますから、「園の利益のためだけ」とも言えないんですよ。
全部の園では無理
Q織 全自治体が取り組むとなると、園も、全部が対象になりますか?
マメ先生 すべての園でやるということにはならないと思います。だって、園児数の空きがない限り、現実的に不可能ですから。
保育の形式としては、一時預かり同様、
①一般型(「誰通」の子どもの定員枠を別途決める)
・在園児と一緒に保育
・余剰の部屋で別に保育を行う
②余裕活用型(在園児の空きの範囲で)
・在園児と一緒に保育
このふたつが考えられていますが、ともに保育面積や保育者の数が、足りていることが条件になるはずです。
特に待機児童がピークのとき、相当な詰め込みが行われたことがあったようですよね。それは避けなくてはならないと思います。
Q織 いま、うちの園は、いっぱいいっぱいなので、受け入れは厳しいかなあ。
マメ先生 実際、そういう園が多い地域もある、と聞いていますね。
現場の現状を見て判断するシステムを
マメ先生 その一方で、現時点のモデル事業では、「やります!」と手をあげた自治体の園などが委託されてやっているのだけど、やり始める前は不安でも、いざやってみたら、
・子どもが在園児の中にすんなり入れた
・子育てに自信のない保護者が安心感を持つようになって、手応えを感じている
など、「やってよかった」という声もたくさん出ているんですよ。
もちろん、多くの園で厳しい現状があるのは知っているので、そこは、無理のない体制で行えるようにしないとダメですね。
Q織 はい。もし、自治体や園の運営者が現状を無視して無理に行うと、職員のストレスが上がって、園での不適切行為が増えるかもしれません。職員の離職にもつながります。
その園でほんとうに導入が可能か、きちんと見に来て、客観的に公正に判断するシステムも一緒に作ってほしいです。
マメ先生 そうですね。数字や手続きだけで動かないようにできたらと、ぼくも思っています。
今回のマメマメヒント
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★この記事は、小学館『新 幼児と保育』公式Instagram(←こちらをタップorクリック!)でリール動画を配信した内容にweb版として加筆・再構成したものです。また、小学館の雑誌『新 幼児と保育』では、ほかのリール動画で配信した内容に加筆・再構成し掲載していますので、どうぞご覧ください。また、このコーナーへの質問、疑問も募集中です。下から投稿できます。
お話/大豆生田啓友(おおまめうだ ひろとも)先生
玉川大学教授。保育・子育て支援などが専門。特に保育の質の向上が研究のメインテーマ。著書に『日本が誇る! ていねいな保育』『日本版保育ドキュメンテーションのすすめ』『子どもが対話する保育「サークルタイム」のすすめ』(ともに共著・小学館)、『子どもが中心の「共主体」の保育へ』(監修・小学館)、『保育の「ヘンな文化」そのままでいいんですか!?』(共著・小学館)など多数。
構成・イラスト/おおえだ けいこ
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